第二十話:インターバル
ブレイズの初戦敗退というまさかの事態が発生したものの進行は続いていく。まあ、一番混乱するはずのギルド側からすれば想定内のため騒ぎが無かったのがその要因とも言えるだろう。
全40パーティーによるトーナメントなので初戦が終わった段階で残りは半分の20パーティー。そこにはヴァルキリーの名もあった。
このまま予選が続行されると思ったが、ここでクリスさんが介入した。
「では、ここでシャッフルタイムです! 観客の皆様は空中を、控室の皆様は部屋に備え付けてあるスクリーンをご覧ください」
その指示に従い上を見上げるとそこには大きな丸い物体が画面の中に映っている。
「あの丸いのはルーレットとなっております。今から残っているパーティーを割り振り、ルーレットを回します。見てわかりますように、ルーレットには針が二つ付いており、止まった時にその針の延長線上にあるパーティー同士で戦っていただきます」
「ここにきてまさかの対戦相手の変更か。結構きついね」
「そうだな。対策を考えていたパーティーにとっては痛すぎる誤算だな」
「でも、残り人数が少ないパーティーからすればチャンスでもあるのよね」
そう、このイベントでは死んだプレイヤーはそのまま死亡扱いなので終わるまで別の控室に監禁されている。まあ、監禁されていると言ってもその部屋から出られないだけで、なにか罰を受けているわけではないし、監禁部屋は複数あるので同じ試合をした同士が集まってそこで第二次戦闘が起こることもない。
「まさに、運命のルーレットというわけですね!」
状況が分かっているのか疑問になるほど楽しそうな声を上げるカナデちゃん。一方でシュリちゃんは何かを考えている。
「どうかした?」
「いえ、これから休憩時間ですよね?」
戦うリングが一つしかないためか、リング補修という目的で第1試合が全て終わった段階で休憩時間が設けられている。この時間内に外の露店で武器を研磨したり、アイテムを補充したりするわけだが、それがいったいどうしたのいうのだろうか?
しばらく考え込むシュリちゃんだが、何かを決意したようのか立ち上がった。
「すいません。私も手伝ってきます」
「手伝うってどこに?」
カナデちゃんの問いにシュリちゃんは外を指さす。
「思った以上に武器の耐久値の消費が激しいので、もしかしたら人が足らないかもしれません」
「そんなに少なかった?」
「全員を休憩時間内に終わらせるにはすこし物足りないかもしれません。研磨が苦手な人もいますし」
大抵のゲームの場合、研磨は研磨台に当てるだけで済むが、このCWOのコンセプトは『もう一つの現実』。研磨台に当てすぎると逆に耐久値を削ってしまうこともあるそうだ。
一礼してシュリちゃんは転移ポートがあるメインゲートに走っていった。もう一度コロセリムに入るにはチケットの半券を具現化すれば『使用しますか? YES/NO』と表示されるので、問題ない。
「シュリちゃんも偉いわね」
「なんだかんだでトップ鍛冶師と言われるだけはあるということか」
走り去っていくシュリちゃんの後ろ姿を見てしみじみ言うアーシェとムルル。俺も同じ生産者として負けられないなと思った。
休憩時間が終わり、次の試合開始前までに戻ってきたシュリちゃんと観戦する。なお、ここにいたブレイズのメンバーはカナデちゃん以外いない。
彼らはあの負けたメンバーを連れて訓練に出かけた。一から徹底的に鍛え直すらしい。カナデちゃんがここにいるのは回復に頼らず、自己の力だけで訓練させるためとのことだ。
「みなさん、大丈夫でしょうか?」
「まあ、主力メンバーがほぼそろっているから余程のことがない限りは問題ないだろう」
ラインだけならまだしも、アーシェ達もいるのだ。例え回復担当がいなくても何とかなるだろう。魔法は使えなくてもアイテムがあるし。
それでも不安そうなカナデちゃんを安心させるために頭をなでていると気持ちいいのか頭をより俺の方へと差し出してくる。
そのままなで続けていると別の方向から視線を感じた。
「(・_・)」
「……」
どう反応していいか分からず、そのまま見つめ合う俺とシュリちゃん。
しかし、その視線が羨望の眼差しであることに気付き、同じようにシュリちゃんの頭をなでる。
「(^-^)」
どうやら正解だったようで途端に笑顔になる。
仕方ないので俺は二人の気がすむまでなでることにした。
なお、この模様は多くのプレイヤーによって目撃され、後日掲示板で『話題の錬金術師アーシェは可愛い子が大好きな女性であると発覚!』と大きな話題を呼んだ。
断言するが、俺はロリコンじゃないぞ!
あと、別の掲示板で『ギルドの垣根を越えた三人の友情サイコー』とか『あの三人の映像だけでご飯がおいしい!』とか『まとめてprprしたい!』とかの書き込みもあった。
最後の書き込みはすぐ運営によって削除されたので本当かどうかは知らない。
二人が十分に堪能した頃、ようやく第2回戦の開始が告げられ、ルーレットに生き残ったギルドの名前が刻まれた。運命を決める針、正確にはずれているが、対角線上にあるのでこの時点で近くにあるギルドとは戦わないことが決まり、あちこちで安堵の声が響き渡った。まあ、できればトップギルドやフルメンバーが残っているギルドとは当たりたくないもんな。
そして運命のルーレットが回り始め、次々と戦う相手が決まっていく。
俺が知っているギルドで唯一となってしまったヴァルキリーは終わりの方、第8試合に選ばれ対戦相手となるギルドは『セラフィム』と書かれていた。
「おおー。ある意味因縁の対決ですね」
「因縁?」
「はい。セラフィムもヴァルキリー同様女性プレイヤーだけのギルドですから。よくどちらが上かで揉めているらしいですよ」
揉める? あのカリンさんが?
「それはギルド全体で仲が悪いのか?」
「いえ、ギルドマスター同士は仲がいいそうです。たまに一緒にお茶してるとも聞いていますし」
なるほど。変にプライドが高い奴同士で絡んでいるわけか。
「ちなみに、二人はどっちが勝つと思う?」
「私はヴァルキリーですね。セラフィムは総合的に中堅なので、やはりトップギルドの一角であるヴァルキリーには敵わないかな」
「でも、セラフィムも最近は力を付けてきているよ? この前ギルドの方の装備を創ったけど、持ち込んだ鉱石ランク高いモノばかりだったから」
なるほど。話を聞いている限りだとどちらが勝ってもおかしくないか。
というか、俺情報知らな過ぎだな。せっかくのファイさんの忠告守れてないじゃないか。
そういえば、例のブローケンヴァイン対策何も考えてないや。どうしよ?
俺が考え込んでいる間も試合は進み、次の次がお待ちかねのヴァルキリーVSセラフィムとなった。
今行われる試合はあのモフモフ同好会と『XYZ』というギルドとの対決だ。
『XYZ』のプレイヤーは第1回戦を全員生き残っているがその構成は全員弓使い。第1回戦は初めからリングが廃墟の街をイメージしたものであったため、その隠密性や狙撃性を発揮し、勝利を収めた。
しかし、今回リングは変動せず初めのリングのままだったので遮蔽物は無く、モフモフ同好会の魔法使い三人によって蹂躙された。彼らに走りながらでも矢を射る技術があればもっと善戦できたのだろうが、いきなりそんなことを出来るようになるわけもなく、結果モフモフ同好会が勝利した。なにげにやるなモフモフ同好会。
「さて、次はいよいよ本命だな」
「本命って、それはひどいよアルケさん」
シュリちゃんから批難の視線が浴びせられ少し反省。気を取り直して戦いの開始を待つ。
そして二つのギルドの所属する戦乙女たちがその姿を現した。




