第十六話:進化<お礼
何件か感想欄に書かれていたことですが、前話の“運営からの制裁”は第十二話『セリムさんの恩恵』の最後のネタが修正前のモノになっていたためです。以前は『乱暴に扱うと~』と書いておいたので状況的にセリムさんを酷使しているため、制裁があるのでは!?とアルケは恐れていたわけです。
この更新後、編集しておきます。
お騒がせして、申し訳ありませんでした。
これと言ってアイディアが浮かばず、いつものようにダイブインする。
今日も床を埋め尽くすアイテムがあるがセリムさん曰く「この前よりは少ない」とのこと。そして本日売り子担当のマリルさん曰く「大量に来店する客たちの中で同じ人をあまり見ない」とのこと。
このことから、彼らの目的は『【錬金術】の完成品を獲得することであり、使用することではないのでは?』と考えた。もしそうなら少しすればこの波は収まるが、あくまで仮説にすぎない。
そこで俺が取った行動がアトリエの生産性の向上だ。ちなみに、これは俺が考えたわけではない。
オウルの店に装備のメンテナンスをお願いした時に相談してみたところ「数が足らないなら増やせばいいんじゃないか?」と言われた。
詳しく聞くと、オウルはフェアリーガードの装備を創り、メンテできる存在だ。そのため、装備作成やメンテの依頼をよく引き受けており、そのため裏の鍛冶場には多くの鍛冶用の道具がある。つまり、道具を増やすことで複数の依頼を同時進行させているのだ。
当然、オウルだけでできるわけがなく、鍛冶場には見習いや弟子が何人かいるらしいが。
その手段を俺も利用しようと思ったのだ。実際、セリムさんは俺がいないときはアトリエの錬金窯を使っているが、俺がいると自前の簡易錬金窯をしようしている。
この簡易錬金窯は両手で運べるサイズの錬金窯で、一応錬金術が使用できる。しかしどんなにうまくいっても効力がCまでにしかならず、さらに【連続調合】が使えない。
そこで、セリムさん用の錬金窯を購入することにした。幸いと言えばいいのか、ルーチェの儲けやこれまでの冒険で得たコルはほぼ使ってなかったので資金はたんまりあった。ちなみに、その合計は13万4千セル。
普通は装備やアイテムでそこそこセルを使うが、俺の場合、装備はアトリエ入手後から変わってないし、アイテムは自作だ。それでも溜まってるほうだろう。まあ、そのおかげで資金不足にはならなそうだ。
さっそくダイブアウトしパソコンのCWO公式ページを開き“アイテム購入画面”のページを開く。CWOにダイブ中でも出来るのだが、もうじき夕食の時間だったのでダイブアウトすることにした。
購入項目の欄に『錬金術』と打ち込んで検索するといくつかのアイテムが表示された。中には“アトリエ”もあり、その値段は驚きの『20万セル』。しかし、それは単に場所だけで中は全くの空っぽ。まあ、これを買うまでには道具は揃ってるだろうから問題ないのか?
「さて錬金窯、錬金窯っと、あった」
本棚や他の調合用道具をスルーし、目当ての錬金窯を見つける。
しかし数が少なく、販売しているのは三つのみ。
一つ目は今使ってるようなその名も“錬金窯”。特にこれといった機能は無く、単に【錬金術】が使えるタイプ。当然一番安い。それでも5万セルはするが。
二つ目は“速攻錬金窯”。どういう意味で速攻かと言うと、調合時間を短縮する機能が付いているのだ。その代わり、ランクや効力が落ちることになる。こちらは7万セル。
そして三つ目、一番高い12万セルもする錬金窯。あまりにも高額だが、この錬金窯の機能はそれに見合う機能を持っていた。その機能とは『完成したアイテム数+1』。しかも、Cランク以下・効力:C以下ならランクと効力は落ちない。
画面の前で悩んだが、現状求められているのは質よりも数だと思い、三番目の錬金窯“増幅錬金窯”を購入した。
それはいいとして、他にネーミングなかったのか、運営?
夕食はちょうど降りてきた空と一緒に食べる。空はいよいよ開催されるPVPに向け、調整しているらしい。
「しかし、何を調整するんだ?」
「それは当然チームワークだよ。心ちゃん達とはよく一緒に冒険したけど、今回はギルドの威信がかかってるからそのギルドのベストメンバーが選出されてるんだ。でも、そういう人たちとは全く組んだことが無い人もいるから苦労することが多いんだ」
「例えば?」
「同じようなスキル構成ならいいんだけど、全く違うと行動が分からないんだよ。簡単に言うと、私は遠距離攻撃型だから同じ遠距離を得意とする魔法使い系や同じ弓系の人とは息を合わせやすいけど、前衛と呼ばれてる剣士系とか拳闘士系はなかなか上手くいかないんだよ」
確かに自分と同じならアクトを出すタイミングとかも予測できるが、異なるタイプなら難しいか。そうなると俺はどのタイプになるんだ?
「ちなみに兄さんは遊撃系だよ」
「なんで口に出していないことに対応できるんだお前は?」
「全国の妹なら持ってるパッシブスキルだよ」
ニコニコ笑うがその笑みが怖いです。あと、おそらくそのスキルを持ってるのはごく一部だと思うぞ?
「で、遊撃系はお前のような遠距離系と相性はいいのか?」
「うん、いいほうだよ。遠距離系はどうしても攻撃する時に一旦立ち止まる必要があるから敵の目を錯乱できる遊撃系がいると助かるよ。なんなら兄さんヴァルキリーに入ってみる?」
「……男性禁制じゃなかったか?」
「見た目女だからばれないと思うよ?」
「いや、お前兄って説明していたんだろ?」
「そうだった!? 何たる失態!!」
「おい!? 本気だったのか!?」
和気あいあい? な夕食を終え、ダイブするとセリムさんが転移してきた。どうやら採取に行ってくれたようだ。
「お疲れ様。すいませんねいろいろこき使ってしまってるみたいで」
「かまわない。これはこれで楽しいから」
笑みを見せるセリムさんを見てるとホントに楽しんでいるようなので安心する。もしかしたらこの笑みがあるから俺に制裁がないのかもしれないな。
「そうだ。今日はプレゼント、というかお礼があるんだ」
「お礼?」
俺はウィンドウを操作して、購入した“増幅錬金窯”を具現化する。俺がいつも使っている錬金窯の隣に現れる新しい錬金窯。見た目同じだが色が違うし、なにより魔法陣らしき紋様が描かれている。
一瞬、この魔法陣を引用できないかと考えてしまった。たぶん無理だよな?
「これは?」
「注文が増えたからセリムさん専用の窯を用意したんだ。気に入ってくれるといいんだけど」
俺の言葉を聞いてセリムさんが動き出す。錬金窯に触れ、中の水をすくい、いろいろ検査している。そして全てのチェックが終わったのか、俺の近くに来たセリムさんはなぜか困惑した顔をしていた。
「いいの、これを頂いても?」
「えっと、気に入らなかった?」
俺の言葉に首を横に振るセリムさん。ではなぜそんな顔をする?
「これはあなたが使うべきじゃないの? どう考えても今使ってる錬金窯よりも良いものよ?」
「ああ、そういうこと」
セリムさんからすれば俺がこれを使い、セリムさんは俺が今まで使っていた普通になってしまった錬金窯を使えばいいと思ったのだろう。
確かにそれも考えたが、この窯は最初からアトリエに備わっており、そして俺がクエストに失敗したせいでその機能を奪われた。しかし、俺が成長すればその機能は復活する。なら、俺はこの窯を使って今後も錬金術の腕を磨き、この窯本来の姿を取り戻したい。
そんな俺の想いを伝えるとセリムさんも納得してくれ、さっそく採取した素材を新しい錬金窯で調合し始めた。
「……」
しかし、その動きはすぐ止まり、またしても困惑顔でこっちに振り向く。
「ところで、この窯を混ぜる杖はあるの?」
俺は急いで購入ウィンドウを開き『錬金術 杖』で検索するも存在せず。なので老人の店に行き、相談すると素材さえ集めれば創ってくれると約束してくれた。
その素材は『(ランクR以上)木×2+(ランクR以上)調合水×5+(ランクR以上)の宝石』だった。ちなみにこれでできるのが、俺が最初に持っていた〝錬金術師の杖″なのだ。というか、創れるのかよ!?
しかし、〝錬金術師の杖″があれば今後〝~の核″を手に入れた時にも役立つ。どうやら合成とかで付けた特殊スキルの中には一緒に存在すると効果を打ち消すモノもあるらしい。
簡単に言えば【火属性】と【水属性】を同じ武器に付けることができないと言うことらしい。まあ、そう簡単にメド○ーアができたらゲームバランス壊れるよな。
ちなみに、スキルとして習得するのは可能。ぜひとも火と水の魔法を同時に唱えて相克せず合体した魔法を見てみたいものだ。
さて素材だが、木に関してはパロンさんに交渉してみよう。あの巨大樹なら間違いなくランクRは超えているはずだ。交渉のために新しいアイスを考えておかなければ。
さらに調合水。これは〝清水″があるので問題なし。
ここまでは聖樹関連でなんとかなる。問題は宝石だ。
「入手場所は、あそこしかないよな」
気分転換に寄ったあの宝石店。まさかあの店がこんなところで関わることになるとは。
「狙いは、PVPの最中だな」
エルジュには悪いが観戦できないかもしれないと心の中で謝りつつ、俺はあの戦場に足を踏み入れる決意をした。




