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VRMMOの錬金術師  作者: 湖上光広
第二章:新たな力
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第十四話:うごめく影

視線を移すとセリムさんは俺に手に持っていた根を俺に差し出した。

セリムさんから渡された根を【識別】してみるとそれは俺も知ってるモノの根だった。



薬草の根・素材アイテム・UC

回復性分以外の要素を含んでいるので、食べたら危険。

30%の確率で【毒】状態になる



「毒!?」


あまりの驚きで思わず大声を上げてしまう。まさか回復の代名詞と言える薬草の根にこんな作用があったとは。


「……それで、これをどうしろと?」


驚いてしまったがそれだけでは何もできない。しかしセリムさんは首を横に振った。


「私ができるのはここまでみたい」


その言葉から運営の干渉だと気づく。それは逆を言えばこの根を使えばブローケンヴァインを倒せるということでもある。


(考えろ!)


セリムさんから渡されたのは毒の効果がある根。つまり、この毒をブローケンヴァインに与えられればいい。あとはその方法。


(誰かに根を持って突撃してもらう? いやそれなら根を俺に差し出す時点で禁止されるはず。)


おそらく根を使って何かを作り、そのアイテムがブローケンヴァインに有効なのだろう。

そして俺にはそのアイテムに心当たりがある。


〝ポイズンボトル″


しかし、それにはガラス砂が必要だ。それを入手するにはこの先に行かなければならない……


(あれ? なんでガラス砂が必要なんだ?)


突如思いついた疑問。これまでポーション系を調合した際、いつも試験管のような瓶に入っていた。オリジナルのアランジアイスにも木の棒が付いていた。

要するに、調合アイテムを簡単に持ち運びできるためのモノは常に調合成功すると一緒に生まれていた。


ガラス砂は名前からしてガラスの材料だと思い、それが必要な理由は毒に直接触れないようにするためだと思っていた。

しかし、常に容器があるのならそれは必要ない。


(つまり、ガラス砂は補強するためのモノってこと……)「うん?」


そこまで考え、あと一歩で何かが導けそうな時、俺の体を誰かの手が引っ張る。


「何してるの!? 逃げるよ!」


逃げる? その言葉に意識を現実に戻すとそこには蔓があった。

そしてブローケンヴァインの大きさが元に戻っていた。


「何アレ!?」

「見てなかったの!? 再生能力が私たちの攻撃を上回ってもう手がつけられないのよ!」


見れば獣人族は全員元の姿に戻っていた。どうやら獣化の制限時間が終わったらしい。結構短いようだな。


俺の体を引っ張ってくれたファイさんにお礼を言い、俺も全速力で走りだした。


なお、セリムさんはいつのまにかいなくなっていた。【転移】早く習得したい!




「さて、強硬策も通じなかったが、どうする?」


俺たちは最初に集っていた家に再び集合していた。その雰囲気は最悪と言っていい。唯一通用する策が潰えた今、もはや残された道は周囲を犠牲にしても範囲が広い攻撃を取り入れるしかない。


だれもが消沈している中、俺は密かに行動することを決めていた。


結局話し合いは解決せず一旦解散となったので、俺はファイさんを連れ出しビーストライドを探索していた。ファイさんは気分展開として新しくなった街を探索するため、そして俺は必要な素材を探すために。


そんな中でプレイヤー、それも女性プレイヤーがたくさんいる店を見つけた。遠巻きに見ているのかと思ったが、どうやらまだ開店前らしい。


「あの店は知らない店ね」


ファイさんが言うからにはおそらくアップデートで更新された店なのだろう。


興味本位で「行ってみます?」と誘うと「そうね」と答えてくれたがやはり元気がない。

女性プレイヤーがたくさんいるので女性に人気なのだと信じ、俺たちはそこに足を向けた。


外にいた女性プレイヤーの近くに並ぶとウィンドウが現れ『26』と表示された。ファイさんにも確認すると彼女は『25』だった。


「何かの順番か?」

「あら、あなた知らないの?」


俺の呟きに前にいた女性プレイヤーが振り向く。


「ここはあるアイテムの専門店よ。でも在庫が少ないからこうやって出来上がるのを待ってるの。そしてその数字は順番待ちの札よ」

「あるアイテム?」


その質問がいけなかった。女性プレイヤーは先ほどまでと違い、眼を輝かせている。


「そう! 宝石よ!」

「宝石!?」


その単語が聞こえた瞬間、落ち込んでいたファイさんが復活した。いや、今まで見たことないほど興奮している。


「どんなのがあるの!?」

「さすがにダイヤとかはないみたいだけど真珠が一番多いみたいね。一番の目玉はエメラルドらしいわ」


ワイワイ話始める二人だが俺は完全に蚊帳の外。というか宝石に興味はない。


なのでファイさんに後で合流しましょうと言ってその場を離れ、ついでにメールで同じ内容を送っておく。俺の言葉に応えてくれたがあの状態だと覚えてるかどうか不安だしな。


結論から言って無事に合流できたがファイさんは目当ての宝石を買えなかったようだ。と言うのも在庫の数がほんとに少なく、早い者勝ちだったので店内に入る頃にはガラス玉しかなかったようだ。


だがその情報は俺にとって宝石以上の輝きがあった。

あの後ガラス砂を求めて歩き回ったが、どこにもなかったので諦めていたのだ。しかし、ガラス玉を作れるということはガラス砂の入手場所を知っているかもしれない。


となればその店主に話を訊いてみたいが、どうやら店主は店内の工房にこもって作業しており、その奥さんが販売を担当しているとファイさんから教えてもらったので難しそうだ。なにより、店主に会うためにはあの女性プレイヤーの群れを超える必要がある。


さらに宝石のことはすでに掲示板でも騒がれている。購入できる宝石はカットしているだけなので職人プレイヤーが指輪用などに加工しており、その様子が掲示板に載せられ、さらに買えたプレイヤーがその場所を公表したので明日からはさらに人が集まることになるだろう。


相手が主婦ならまだ同じ戦場に立てるが、それ以外では男の俺では足を踏み入れることすら難しいだろう。

ならばと協力を求めたエルジュや後輩三人もすでに情報を知っていたのでお願いしておいた。なぜか俺も参加を強制された。容姿が女に見えるからだとさ。


ついでにブレイズにもその話が伝わり、ラインから《なんとか調合できないか?》とリンクが届いた。どうやら女性陣から援護を要請されたようだ。

当然《無理》と答えておいた。ついでに補習のことも伝えておいた。


しばらく返信が無かったのでそれ以上は知らない。




しかし、俺はそんなことに集中している場合じゃなかったことに気づかなかった。


それに気づいたのはダイブアウトして情報を集めるため掲示板を覗いているときだった。


ある一つの掲示板がすごい勢いで更新されている。まだ例のPVPが始まってないのにそんなにたくさんの人が興味を示す物なんてあったかなと思い、その掲示板を確認してその名前に驚いた。


「『【錬金術】関連掲示板』!?」


さらにその内容は効力の説明やその効果の検証結果、さらにレシピの分量でなくても成功する事例なども掲載されている。


「もうここまで進んでるのか!?」


驚愕したが、すぐさま冷静になる。忘れたわけじゃないが、今日はアップデート初日。幾ら廃人とはいえこのスピードは明らかにおかしい。


「となれば、誰かが情報を今までの情報を公開しているのか」


よくよく思い返してみれば、俺が目立っているので俺しかいないと思われがちだが、当然最初の段階で【錬金術】を習得したプレイヤーはいるはずなのだ。

そして、彼らの中に検証組に加わっている者がいてもおかしくない。実際、アトリエを獲得した時も『その人物は検証組じゃないのか?』という意見が一番有力視されていたし。


俺は掲示板を開き、そこに書かれている内容よりも書いたプレイヤーを確認する。個人情報保護により書かれているのはVR機器のIDだが、それでも情報にはなる。


「ID:IKE0729TA」


それがこの掲示板に一番情報を書き込んでいる者。

内容自体は〝初級錬金術教本″に載ってる内容でそこまで重要ではないが、【錬金術】を始めたばかりのプレイヤーにとっては自分たちの進む道を示してくれる存在となっている。実際崇めてるプレイヤーも少ないがいる。


「神にでもなるつもりか? このプレイヤー」


この段階では俺には関わりないと思っていたこの展開。

しかし、これが俺にとってとてつもなく厄介なことになるのだった。

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