表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VRMMOの錬金術師  作者: 湖上光広
第二章:新たな力
88/229

第十一話:正体と願い

「お久しぶり。覚えてくれてたかな?」


声が終わると共に煙が晴れる。

そこにいたのは一人の少女。

これまでにも多くの女生とCWOの中で会ってきたが、一番謎に包まれていた少女。


初めて会ったのは聖樹。そして二回目はドワーフ族の街。


「セリムさん、ですよね」

「うん! 覚えていてくれてうれしいよ」


にっこりという表現を体現したように笑うセリムさん。

密かに会いたいとは思っていたが、いざ会ってみると何も言葉が出ない。


「とりあえず、質問いいですか?」

「いいよ。何?」

「あなたは何者ですか?」


こういうときはストレートに訊くのが一番。変なごまかしは通用しないだろう。


「ホムンクルス」


…………


「よっしゃーーーーーーーーーー!」


両手でガッツポーズし、大声を上げる。

もしかしてと想像した存在が実在する! まさかこれほどうれしい事だったとは!


「え~と、そこまでうれしいことなの?」

「当然!!」


セリムさんが引いているのはわかってるが、俺の溢れるこの感情を止めることはできない!


「あまりうるさいと帰るよ?」

「orz」

「ってそんな落ち込まなくても!?」





「さて、気を取りなおしたところで」

「ずいぶん時間かかったね」


気がつけば十分以上も落ち込んでいた。さすがに悪いことをしたなぁ。


「結局、君はホムンクルスなんだな?」

「そうだよ。そしてお父様はこの館の主だった人」


そう言ってセリムさんは上を指差した。おそらく屋根裏部屋で見つけたあの日記のことだろう。

となれば、あの中に書かれていた娘はおそらくセリムさんのことだろう。


「私がこうしてここに現れたということは上級錬金術師なんだよね?」


『【上級錬金術】のスキルを持っている』という意味だと判断し、肯定すると笑みを浮かべるセリムさん。

もしかして何かくれるのかな? なんて思ってるとその手をこっちに差し出した。同時に雰囲気が変わる。


「なら、私のお願いを聞いてほしい。その代わり、私を好きにして構わない」


口調まで変化し、その瞳に先ほどまで無かった強い力が宿る。


「その、お願いって何かな?」

「お父様の研究を完成させること」


そう言えば日記にも『封印している娘が引き継いでくれるだろう』と書かれていたことを思い出す。


そこまで思い出してふと気づく。


「その前に質問いい?」

「何?」

「君の封印を解いたのは誰なんだ?」


日記には『封印している娘』と書かれていた。となればその封印を解いた人物がいるはずだ。


「お父様よ」


想像通りの答えだが、なぜかセリムさんが語っているのは全てではない気がした。しかし、そこを問い詰めても欲しい答えは返ってこないだろう。


「それじゃ、お父様の研究は何?」

「〝コア・クリスタル″」

「!?」


その名も聞き覚えがあった。フェアリーガード総合隊長が言っていた、この世界における錬金術の極意。賢者の石のさらにその先にある神秘。


「わかった。引き受けよう」


正直に言うとその依頼を達成できるかはわからない。しかし、どうせ目指してたモノだ。

ならそこに追加要素があったところで俺の目標が変化するわけでも、遠くなるわけでもない。


そんな軽い気持ちでの返答だったのだが、次の瞬間、その気持ちが軽率であったことに気づく。





「……いいの?」


言葉にした途端、瞳から先程まで感じていた力が消える。その代わりそこに宿るのは期待と不安。いや、不安の方が大きい。

なぜかその理由がすぐに思いあたった。


「もしかして、今までもいたのか?」


俺の問いにコクンと首を振るセリムさん。


「あなたの想像通り、これまでにもお願いした錬金術師はいた。でも、みんな達成できなかった」


思い返しているのか俯くセリムさん。さらにセリムさんから溢れる雫が床を濡らしていく。


「俺なら期待できるの?」


正直、俺は【上級錬金術】を習得したがこのまえやっとLv10を到達できたばかりだ。中には俺以上に優れた錬金術師もいたはずだ。

当然、セリムさんを生み出したお父様の腕には遠く及ばないはずだ。


しかし、セリムさんは顔を上げしっかりと頷いた。


「あなたのことはずっと見てきた。外からの客人で唯一錬金術を極めようとした人だから」


なるほど、俺のことをずっと見て……


「それに、ジャイアントデーモンにも怯えず戦うだけの勇気を秘めた……」

「ちょっと待て! 何でそれを知ってる!?」


おかしい! NPCはあれに関しては“魔族が襲撃し、客人たちの協力もあって撃退した”としか知らないはずだ! 唯一被害があったドワーフ族は別だが、他のエリアに行けないNPCがそれを知ってるはずが……


「そう言えば、なんで、ドワーフ族エリアに?」


そう俺が監獄エリアを知ったのはセリムさんの助言のおかげだ。しかし、あの時も考えたように、NPCは他のエリアに転移できない。老人のように転移可能なアイテムでもない限りは不可能なはず。


「まさか、【転移】を使えるのか? それも他のエリアに行けるほど強力な力を」


再びコクンと首を振るセリムさん。それを手に入れた経緯を聞いてみると自分の胸を指した。


「ここに、〝無限転移石″があるから」


〝無限転移石″。名前だけでどういう代物か判断できる。

〝簡易転移石″も〝転移石″もそうだが、アイテムは一回使ったら無くなる。ポーション結晶のように一回限りではないモノもあるが、使用回数が決められており、最終的には無くなることには変わりない。


しかし、“無限”と付くからには当然何回でも使えるのだろう。ランクはLdに間違いない。


……と言うか、そこまでの腕前があっても〝コア・クリスタル″に到達できないのか!?


「どうする?」


セリムさんは再び手を差し出してくる。この手を握れば契約成立となる。

〝コア・クリスタル″は俺にとっても目標なので異論はない。

しかし、目の前の少女の期待に答えられるかと言えば完全にYESとは言えない。


少しの沈黙。


俺は……その手を握った。


「約束する。きっとお父様、そして君の無念を晴らして見せる」

「……あ」


そう、お父様の願いを叶えるのもそうだが、この少女が長年苦しんできたモノも背負わなくてはならないのだ。


俺の言葉に今度は大粒の涙を流し、俺に抱きついてくるセリムさん。


前にシュリちゃんやアリサさんにも抱きつかれたことがあったので抵抗無く、その体を抱きしめる。



後に泣きはらした顔で「ずいぶん慣れてるのね」と疑惑の目で見られることになったが。




俺はアトリエに帰ってきた。セリムさん曰く「あの館にはもう何も残っていないから」とのこと。


思わずセリムさんを封印していた装置なり技術を少しでも盗めないかと思っていたが、セリムさんが起きて館を離れる時にセリムさん自身の手で破壊されていた。

なんでも『お父様の無念を達成するときまで自分に安らぎなんていらない』という決意の表れらしい。……残念ながら俺はそっちの錬金術には関わるつもりはない。


そしてセリムさんは今、アトリエ内に置かれたルーチェで溜まったコルを使って購入したソファベッドで横になっている。正確には寝ている。


ホムンクルスであるセリムさんは食事を必要としない。ならその動力源はなにかと言うと魔力だ。そのため、魔力が少なくなると寝て回復を待つしかないと先ほど説明された。


毛布とかがあればいいのだが、あいにくそんなモノは無い。


安らかな寝顔を見ていると、この少女に感じた想いが強くなる。


少女が、そのお父様が果たせなかった悲願。〝コア・クリスタル″。

まだ名前しかわからないそれに到達できるかは今後の俺次第だ。


「ドでかいモノを背負っちまったな」


しかし、それは苦になるだけじゃない。今後の調合生活にセリムさんも協力をしてくれることになっている。


なんでもセリムさん、お父様が錬金術師だったので錬金術関連の知識があり、さらに例の転移能力を使って採取にも行ってくれるらしい。ついでに隠蔽能力も持っているとのこと(それを使ってジャイアントデーモンと闘う俺を見ていたと説明してくれた)。

あまり便利者扱いしたくないが「願いを叶えてくれるお礼と思ってくれればいい」と本人はそれを望んでいる傾向がある。おそらく、素材があれば錬金術ができ、それによって早くランクアップしてほしいとでも思っているのだろう。……多分。


そんな感じで、俺のアトリエに新たな住人が加わった。

チートスペック満載なホムンクルス、セリムさんが参加。その詳細は次回で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ