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VRMMOの錬金術師  作者: 湖上光広
第二章:新たな力
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第八話:未知のエリア

「植物に対抗できる魔法ですか?」


俺は『水仙』でアリサさんと話していた。

CWOにダイブしてすぐにアリサさんに『魔法ってモンスターではない植物にもダメージを与えられますか?』とコミュを送ったのだ。

すると『意味がよく分からないので直接話しませんか?』と返ってきたので『水仙』に集合することになった。


「ええ。実は厄介な依頼を受けまして」


俺はアリサさんに獣人族エリアに発生した謎の蔓の話をする。クララさんには秘密にしたように本来なら気軽に話してはいけないことなのだが、協力してもらうからには状況をきちんと説明する必要がある。

当然、話し始める前に「このことは他言無用で」と伝えてある。


「・・・・・・なるほど」


少しの沈黙の後アリサさんが考え込む。

この反応だともしかして対策があるのかもしれない。




「結論から言えばわからないわ」


考え込んだアリサさんの回答は俺にとって希望となるとは言えないものだった。


「と言うのも、試したことないからね」

「まあ、そうでしょうね」


魔法の使い道はモンスターへの攻撃手段か、ティニアさんが清水を氷にしたように生活を豊かにするかのどちらかだ。

俺が期待したのは生活を豊かにする手段として『植物をコントロールする』方法がないかである。土魔法で土壌を整えたり、火魔法で雑草を燃やしたりとそんな使い方もしてないかとおもったのだ。

普通そんなことに魔法は使わないと思うが、彼らNPCはCWOの世界で日々を生きる住人だ。俺たちが機械に頼ることに魔法を使っていてもおかしくない。


そのことについても訊いてみると「それは確かにある」と答えてくれた。


「姉さんに限らず、妖精族の薬剤師はみんな土魔法を使って独自の薬草を育ててるわ。その方がすぐに薬を作れるし、実験もしやすいからね」

「実験?」

「新しい薬の開発も実験よ。アルケさんもそうじゃない?」


確かに俺も実験はするが、それはランクや効力を高めるための実験であって、アリサさんの話とは違う気がする。……アランジアイスはオリジナルだから実験とも言えるのか?


「そう考えると植物に魔法は有効かもしれないわね……」


そこまで言って再び考え込むアリサさん。

そして再び顔を上げると何か決意したような表情になっていた。


「アルケさん、私からも他言無用の話をしていいかしら?」




翌日、俺はいつもと様子が違っていた。朝起き、学校に来て、授業を受ける。それは変わらない。

しかし、その間ずっとそわそわしているのだ。


「どうした? まるで発売日当日、早く放課後になって買いに行きたい俺みたいになってるぞ?」


そこまで自分を客観的に見れるのもすごいと思うが、俺は反論できずにいた。

内容こそ違うが、それに近い心境だったからだ。


「兄さん朝からこんな感じなんですよ」

「珍しいですね」


空と心ちゃんが俺を心配そうに見つめる。世羅ちゃんは体育で暴走した栞ちゃんの付き添いで保健室にいる。

なんでもバレーボールでスパイクを決めたらネットを止めるポールにぶつかり、そのまま返ってきてノックアウトされたらしい。栞ちゃんには悪いが是非とも見てみたかった。


「一体何なんだ?」

「悪いが、こればかりは言えないんだ」


努の質問にそう返すもだれも納得しない。それも当然だと思いながら俺は放課後を待った。




放課後になり、俺は今まで一番早く自宅帰宅した。おそらくタイムセールの時でもこんなに急がなかっただろう。

帰宅した俺はすぐさまCWOにダイブ。そして時間を確認する。


(あと30分か)


外は未だに暗く、普段の俺なら絶対外に出ない時間帯だ。そもそもこの時間帯は大抵CWOにいないことが多い。

それでも、今日だけはどうしてもこの時間帯が必要だった。


それは昨日のアリサさんの一言。

「もし可能なら、私たちの里に来てみませんか?」


アリサさんが里と言うからには、その場所はハイフェアリーの里と言うことだろう。今まで誰も行ったことのない未知の場所へ行くということも楽しみだが、それ以上に俺の心をワクワクさせるのはその場所に至る途中。


(まさか、麻痺草が生えてる場所があるとは!)


しかも、話を聞く限りでは結構ランクが高いモノらしい。アップデートまで待つのが嫌だった俺にとって、まさに渡りに船のような話に何も考えずに首を縦に振っていた。


そんなふうに思いふけっていると約束の時間が近付いていた。待ち合わせ場所は万が一に備え『水仙』にしている。

万が一というのは他のプレイヤーに見られないようにするためだ。里には【転移】スキルで行くため、まだプレイヤーには使えないはずのスキルを、NPCであるアリサさんの助けがあるとはいえ、プレイヤーの俺が使っているのを見られるわけにはいかないのだ。


アトリエから転移魔法陣で『水仙』に向かう。

そこにはたくさんの遊女が忙しそうに足早に動いている。やはり夜の方が儲かるのだろうか?


「さて、急ぎますか」


アリサさんに会うためいつもの部屋に向かう。途中でクララさんとクラリスさんに出会う。しかし、今は仕事中なので会釈するだけで横を通り過ぎてしまう。その仕草に少し残念な気持ちになるが、時間が押しているので俺も部屋に急ぐ。


部屋に入るとアリサさんともう一人女性がいた。その女性もアリサさん同様魔力光を発しているのでハイフェアリーなのだろう。


「こちらが?」

「はい」


しかし、アリサさんがいつもと違いおとなしい。

こう言うと失礼かもしれないが、アリサさんはどちらかと言うと感情表現が豊かな方だ。そのアリサさんがまるで深層の令嬢、いや正座して座っている様子から大和撫子と言った方が正しいくらい、清楚な雰囲気を醸し出している。


「失礼。自己紹介もしておりませんでしたね」


女性がドレスの裾を持ち俺に一礼し、慌てて俺も一礼する。

飾りが少ない桜色と言えるくらい薄いピンクのドレス。それだけなのにそれがまるでその女性のためだけに作られたようなドレスにしか見えないくらい、女性に合っている。薄い緑の髪が肩に届き、全身から発せられる魔力光の光が女性をより輝かせている。


そんな女性が口を開こうとしたところでアリサさんの口が動く。


「もうしわけありませんが、お時間が……」

「あら? もうそんな時間?」


はて? と思い、時間を確認するとちょうど待ち合わせ時間となった。


「しかたありません。では自己紹介は向こうでしましょうか」


そう言うと女性は裾を掴んでいた手を離し、右腕を床と水平にする。それだけで床に魔法陣が描かれる。その魔法陣は俺がさっき使った魔法陣に似ていたことから転移魔法陣だと思われるが、問題なのはそれを構築する速さ。


魔法陣は普通に魔法を使うよりも強力だが、当然陣を描くために時間がかかる。そのため、魔法陣を使う場合、事前に描いておき、そこまでどう誘導させるかが重要となる。


しかし、女性は腕を動かしただけで魔法陣を描いてしまった。いくらハイフェアリーが魔法に優れていると言ってもこれは異常だ。同じく魔法が得意なエルフ族でも無理だろう。


(彼女は一体!?)

「お待ちを……!」


俺が女性のことを考え、アリサさんが何かを言おうとした瞬間、魔法陣が放つ光に俺たちは包まれた。







「……ケさん! ……ルケさん!」

「……んん?」


目を開けてみればそこには木々の葉が風に揺られ、俺の体は草原に横たわっていた。


「アルケさん! 大丈夫ですか!?」

「ええ。何とか」


痛みや異常が無い体を起こし、声が聞こえた方を見るとアリサさんが俺を見ていた。

その瞳から涙を流しながら。


「って、何で泣いてるんですか!?」


いきなりの展開に俺の頭がついていかない。


「すいません。私の責任です」


聞こえてくる別の声。その聞こえた先、後ろに振り向くとあの女性が申し訳なさそうに立っていた。


「つい急がねばと思い、いつものように転移魔法陣を発動させてしまって」


話を聞くとハイフェアリーのように魔力が強いと魔法抵抗力も強く、また以前アリサさんから聞いたように魔力光はバイヤーのような力もある。

それがどう関係しているかと言うと、里の位置はスプライトから結構離れているらしく、そこまで転移するためには当然強力な転移魔法が必要であり、複数を転移させるには先ほどの魔法陣を使う。そして魔法陣を使用する場合はさらに魔力が必要であり、魔法抵抗力が低いとその魔力だけで俺のように気を失うこともあるらしく、場合によってはそのまま目を覚まさないこともあるそうだ。


実は結構やばい状況だったことを知ったことでアリサさんが泣いてる理由もわかった。

俺はアリサさんの頭をなで「もう大丈夫です」と声をかける。するとアリサさんは俺に抱きついてまた泣いてしまった。

俺は戸惑ったが、アリサさんの背中に腕を回し、泣きやむまでその背中をなで続けた。

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