第五話:獣人族エリア
一応投票の中間結果発表。
自分が予想していたキャラと全く予想していなかったキャラが同率一位でなかなか興味深い争いとなっています。
詳しく紹介しちゃうとその二人に意見が偏るかもしれないのであえて名前は出しません。
休日の昼過ぎ、俺はCWOにダイブせず、獣人族エリアの情報を集めていた。ファイさんと会ってから掲示板を見る機会がずいぶん増えた。そして実感する。情報は大事だと。
「『獣人族エリアフィールド“ワイルドストリート”は場所によっては危険である』か」
先ほどガラス砂を調べた時にも出てきたが、いろんな地形が混ざり合っており、進むのは結構大変そうだ。
「しかもモンスターがその地形の恩恵を受けているのか」
ワイルドストリートに出現するモンスターの数は全エリアで一番多い。そしてそれぞれが地形に合った特性なので攻撃する側としては厄介だ。
そのため、ワイルドストリートは全エリアで一番攻略が遅れている。
「その分、俺にとっては素材の宝庫の可能性があるな」
特に森林がある場所ならもしかしたら麻痺草もあるかもしれない。
そんな風に考えながらどう進もうか考えているとスマホが震えた。差出人は買い物に出かけた空。
「どした?」
「タイムセールで玉ねぎが安いけどどうする?」
「いくら?」
「一玉10円」
「ん~、5個買っといて」
「りょうか~い」
さて、今日の昼飯は何にするか。
昼食の甘辛く炒めた玉ねぎを添えた豚肉の生姜焼きを食べ終えた後も情報収集をする。ちなみに空はとっくにダイブしている。どうやら後任の育成を継続しているらしい。
さて、ある程度は情報がそろったが、一つ面倒なのが見つかった。
「『獣人族と妖精族は仲が悪いらしい』?」
その情報を書き込んだプレイヤー曰く、妖精族のそのプレイヤーがスキルのレベルアップのためワイルドストリートに挑もうと獣人族エリアに転移すると周りの獣人族NPCから敵意を向けられたらしい。
実際、話しかけても何も言わず、終いには話しかけようとするとその場から離れてしまうらしい。
さらにそれを体験したのはその人だけではないため、獣人族と妖精族の不仲説は結構有効な説となっている。
「まあ、関わりを持つわけではないから大丈夫、だよな?」
こっちの目的はワイルドストリートでの採取だ。さすがにそれを制限されることはないだろう。
そして俺はCWOにダイブした。
ただ今ワイルドストリートで採取中のアルケです。
現在の状況、囲まれています。
モンスターハウス? 近くには一体もいませんよ?
「つまり、ここには採取以外の目的で来たわけではないと?」
「はい、そうです」
答える俺を厳しい目で見つめる獣人族NPCのみなさん。虎や犬の耳をしており、全員その手には武器を所持している。
そして全員が統一された服装をしていた。
(フェアリーガードみたいなものか?)
獣人族は鳥人族とは別で地上での動きやすさに特化した種族で、武器はともかく防具はなるべく軽くて動きやすいモノを好むと事前に調べた情報に書いてあった。
現に、今目の前にいる獣人族NPCが着ているのは見た目黒のベストに茶色のスラックスみたいな装備だ。
「どうする?」
「嘘を言ってるようには見えない」
「しかし……」
初めは進入禁止されていた場所に入ったとか採取してはいけないモノを採取したのかと思ったが、どうやらどちらも違うようだ。
「すまないが、今日はこれで帰ってもらえないだろうか?」
集団の中で唯一赤い羽が付いた帽子をかぶった獣人族NPC(虎耳)がそう言ってきた。
「わかりました」
正直採取できた素材は少ないのでもうしばらく採取していきたいがここで変に抵抗するのは悪手だと思い、素直に指示に従うことにする。
「協力に感謝する」
「いえ。その代わり質問してもいいですか?」
俺の問いに警戒心をあらわにする警備団らしきNPCたち。
「何かな?」
そんな中でも動じることなく訊いてくる隊長らしき人に俺は訊きたかった質問をする。
「この先に光る砂浜があると聞いたのですが、どう行けばよろしいですか?」
俺の質問に考え込む隊長さん。
この質問には複数の意味がある。
一つは純粋に“道を尋ねる”という意味。
二つ目は“光る砂浜は存在するのか”という意味。
そして三つ目は“光る砂浜に行くための道はあるのか”という意味。
さて、隊長さんはどう答えるかな?
「あなたが言う光る砂浜は確かに存在する」
これに関してはすでにあると情報を入手しているから嘘ではないだろう。
「そしてそれはこの先の道を左に曲がれば見えてくる」
お? 素直に道順まで教えてくれたぞ?
「しかし、今その道に入ることはできない」
「それは、光る壁があるからですか?」
ここまできたらもう一歩踏み込んでみようと思ってさらに質問をする。
「光る壁? ああ神から宣託か。 いや、それとは別の理由だ」
「別の?」
「すまないがこれ以上は言うわけにはいかないのだ」
ふむ。 気にはなるが情報は入手した。後は確認だが、これは俺ができる領域を超えている。
「わかりました。貴重な情報ありがとうございます」
お礼を言い、俺は集団のわきを通り、獣人族の街へと戻ってスプライトに転移した。
あ、獣人族の街は“ビーストライド”でした。
「と言うわけで何か知ってないか?」
「それ、俺のセリフじゃないのか?」
場面変わって教室。いつもとは逆に俺が努の席に近づき情報を求めている。
「それならムルルに様子を見に行ってもらうよ」
「いいのか? この忙しい時期に」
「確かに忙しいが、重要な案件が一つ消えたからな……」
しまった。迂闊なことを言ってしまった。
「まあ、ドンマイ」
「おう……」
すまないブレイズのみんな。今度アイテムを送るからそれで許してくれ。
なんとかムルルとは連絡を付けてくれたようで後日調査結果を報告するとムルルからメールが届いた。
となれば俺がやることは毒草の採取だ。
毒草も火薬草同様樹海の入り口付近に生えていたのでランクを調べながら採取していく。
そういえば【識別】もすでにランクアップ可能なんだよな。早くポイントを溜めたいものだ。
そうして必要量の毒草の採取は終わり、ついでに薬草も採取しておく。最近ポーション系は効果が高いモノを調合してないから念のために。
アップデートには『イベント予告』もあったからな。
……さすがにまた侵攻は無いよな?
アトリエに戻るとムルルからメールが届いた。やけに早いと思ったがその理由はメールの内容を見てすぐに分かった。
『道が蔓のようなモノでふさがれており、今NPCたちが必死で切っているところだった』
「“蔓のようなモノ”ってどういうことだ?」
その下に続きがあったのを見つけ、ページを下げていくと、どうやらモンスターらしい。
しかしここで疑問が生まれる。
モンスターが相手ならなぜその存在を隠そうとするのか。
そしてメールには獣人族であるムルルですらその討伐に参加できないと言われたと書かれていた。
「なんだか面倒なことになってそうだな」
気にはなるが、好奇心は猫をも殺すと言う。ここは放っておいてNPCが対応してくれるのを待つことにしよう。
「さて、調合調合っと」
そしてクラリスさんからのコミュで届いた品物を調合し、店に届けていく。
前は持っていくときにもフェアリーガードの隊員にお願いしていたのに今は俺が持って行っても何も起きないのだから平和になったものだと思いながらルーチェの扉を開いた。
「そこを何とかお願いできないでしょうか?」
「しかし、もう在庫が無くて」
中にいたのはクララさん。どうやらお客様と話しているようだ。
するとクララさんが俺に気づいた。
「あ、アルケさん! ちょうどいいところに!」
クララさんの声が聞こえると同時にクララさんと対面していたお客さんが俺のほうに振り向く。
「「あ」」
俺とお客さんの声が重なった。




