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VRMMOの錬金術師  作者: 湖上光広
第二章:新たな力
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第三話:勧誘

ダイブアウトしてアップデートのことについて調べてみると、どうやら第二弾の発売前日の夜10時~朝の8時まで行われるらしい。


その内容も公開されており、その中にはファイさんが教えてくれた『各種族のフィールド拡大』も書かれていた。


他には『新装備の販売』とか『新イベント予告』があり、主に第2エリアがメインとなりそうな内容だ。


「なら、俺がすべきはアイテムの強化、そして〝上級錬金術教本″の獲得だな」


切り札である〝グレンダイム″も5個は調合に成功しているが、その代わり30個以上の失敗作がある。

一度調合に成功すれば多くの経験値が入るのだが失敗すれば素材が勿体ない。


そのため、今後しばらくは〝スノープリズム″や〝レインティア″の効力B以上を目標としよう。




「今はこれが限界かな?」


翌日、いつも通り放課後になってCWOにダイブし、調合を進めていく。


その結果、〝スノープリズム″の効力Bの調合には成功した。


効力の向上により持続時間がさらに増えたが、その反面効果範囲が狭くなってしまった。


俺にとって〝スノープリズム″は広範囲の“足止め”的役割を持つアイテムだと思っているので、ある意味でこれは失敗と言えるかもしれない。


「〝スノープリズム″は効力Cのまま使おう」


時間よりも広さを取り、次の〝レインティア″の調合をしようとして気づく。


「麻痺草が無いんだった」


アップデートにより先に行けなくなったので必要な麻痺草の在庫が残り少ない。


ほぼありえないことだと思っているが、また魔族侵攻なんてことがあった時のために必ず在庫は残そうと思っているので今これを使うわけにはいかない。


「さて、やることがなくなってしまったな」


暇になってしまい、また『水仙』にでも行こうかと考えたが、足が進んだ先はシュリちゃんの工房だった。


「こんにちは~」

「は~い! ちょっと待ってください!」


何か作業中だったのか奥の部屋から声が聞こえてくる。

しばらくしてシュリちゃんが出てきたが、いつもとは違う服を着ていた。


「あ、アルケさん!」

「やあ」


俺だとわかると笑顔を浮かべてくれるシュリちゃん。俺もファンクラブに加入しようかと一瞬考えたのは秘密だ。

……最近会う機会が多いからかシュリちゃんの笑顔に魅了されつつある自分がいることに気づき、「俺はロリコンじゃない、ラインと違う」と心の中でつぶやく。


「? アルケさん?」


そんな俺を不思議そうに見つめるシュリちゃん。「なんでもない」と言ってここに来た用件を伝える。


「昨日火薬草を取りに行ったから、何かいいモノでもできたかなと思って」


オウルから役に立つとは聞いたがそれがどういう効果があるかいまだに教えてくれないのだ。しかし、教えられないと聞かされれば知りたくなるのは人間の本性だろう。


「そうですね~」


シュリちゃんはウィンドウを操作し始める。

どうやら完成した武具をチェックしているらしい。もしかしたら保管庫のようなモノがあるのかもしれないな。アトリエの場合本棚だけど。


「一応、ランクが高いモノは完成したのですが……」


そう言って見せてくれたのは一本の剣。【識別】してみるとランクはR。しかしそれ以外の特徴は無い。


「見てもらった通り、ランクが高いだけで特に変化があるわけではないんです」


ふむ。火薬草の効果は“火力の向上”だったはず。となれば……


「【合成】みたいに混ぜ合わせるときに使えるのか?」


ただ武具を作るだけでは効果が薄いのなら別の方法に使えるかもしれない。

そんな俺の推測にシュリちゃんも「そうかもしれませんね」と同意してくれた。


「でも、最近は【合成】依頼は無いんですよね」


【合成】には武器もしくは防具とアイテムが必要だ。しかしそれ以上に重要なのは相性だ。ちゃんとその武器に合った特性を持つアイテムでないと【合成】は成立しない。


初心者装備が簡単に【合成】できたのは、エリア1の途中で出現する〝鉄蜘蛛″というモンスターがたまにドロップする〝鉄蜘蛛の核″があったからだ。


その特性は鋼鉄化。簡単に言えばさらに固くするという意味で、それによって武具自体の強度を強化できるということで、前のイベント開始直後は武装の強化のため鉄蜘蛛を狩るプレイヤーで溢れていたらしい。


ちなみに、杖とか弓など木製の武具を持つプレイヤーには関係なかった話でもない。木製の武具を強化する核を落とすモンスターも当然いる。


そのモンスターの名は“ファントムツリー”。なぜファントムなのかと言うと、このモンスターはノンアクティブモンスター、すなわちこっちから攻撃の意志を示さないと敵対しないモンスターで、普段は背景の木と同化しているためなかなか見つけられないのだ。

なお、強さは鉄蜘蛛よりは弱く、火属性の攻撃で簡単に倒せるらしい。


しかし、このどちらも対象となるのはランクCとUCの武具で、ランクR以上では効果が出ないのだ。

そのため、攻略組はおろか、すこし実力の付いたプレイヤーならだれも見向きもしなくなった。


以上の経緯から最近では【合成】をお願いするプレイヤーはほぼいないらしい。


「でも、もう少しすれば第二弾の発売ですからね。その時に検証してみることにします」

「うん。でもくれぐれも注意してね」

「はい。情報源は秘匿します。アルケさんに迷惑はかけません」


力強く言ってくれるのはうれしいが、個人的にはシュリちゃんがガラの悪いプレイヤーに脅されないかが心配だ。

……ファンクラブ連中が黙ってないか。


俺は追加で調合したインゴットを渡し、シュリちゃんの工房を後にし、アトリエに戻ってダイブアウトした。







「と言うわけで手伝え」

「いきなり言われてもわかるわけないだろ」


現実世界の教室。またしても休憩時間と共に努が俺の机にやってきた。


「いや、どうも暇そうな感じだからちょっと協力してほしいんだよ」

「確かに暇だが、それでもルーチェに納品するための調合はあるのだが?」

「そこを頼む」


手を合わせ頭も下げる努。その様子はボケてオチを待っているようではなく、真剣そうだったので話を聞くことにした。




昼休み、空と後輩三人組は珍しく教室で食事をするとメールが来たので俺と努も教室での昼食だ。

ちなみに、彼女たちが来ないのは今話し合っている内容がヴァルキリーに関する内容だからだ。一応情報の漏えいを気にしているらしい。


「そんな気にすることかねぇ」

「いや、結構重要だぞ。俺もそう願おうと思っていたしな」

「願うって俺達だけで食事を取るってことか?」

「ああ」


どうやら努の内容もギルド、ブレイズ関連のようだ。


「実は、ギルド内に工房を創ることにしたんだ」

「なるほど。 今後に備えて専属の鍛冶師を雇うのはわかった」

「お前にしては頭の回転が速いな」

「……お前より成績ははるかに上のはずだが?」

「ゲームに関しては負ける気はしないが?」


しばらく不毛な見つめ合いが続き、俺は続きを促した。


「で、問題の鍛冶師なんだが……」

「当てがない、か?」


俺の言葉に何も言わない努。

仮に俺が言った通りだとしよう。正直に思う。それを俺に言ってどうする?


「当てがないわけじゃない」

「ならさっさと頼めよ。ブレイズの専属を断るやつなんて今はいないだろ?」


ドワーフ族エリア解放の立役者であるブレイズに所属できる機会を棒に振る鍛冶師なんてまずいないだろうと思う。


しかし、努の口から放たれたその鍛冶師の名前は俺の想定外だった。


「実は……シュリちゃんに頼もうと思っている」

「ッ!?」


思わず口に入れた卵焼きを吐きだすところだった。


「どうした?」

「いや、なんでもない」


なんとかそのまま喉に流し、水筒のお茶を飲む。


「それで、どうするつもりだ?」


シュリちゃんがブレイズの専属になったらなったでそのように付き合うだけだ。それで縁が切れるわけじゃないし、ブレイズならシュリちゃんの身を守る盾としても申し分ない。


「どうすればいい?」

「は?」

「だから、どう説得すればいいか意見をくれ」


少しの間、俺が出した結論は一つ。


「それぐらい自分でやれ」




その後も努はしつこいぐらいに俺に意見を求めてきた。あまりにしつこいので「なんでそこまで俺に訊ねる?」と訊いたら「お前はシュリちゃんになつかれてるからだ!」なんて大声で言ったものだからクラス中から様々な視線が飛んできた。

クラスメイトはシュリちゃんのことを知らない人も多いからな。


その後もしつこい努があまりに面倒だったのでボディーブローを打ちこんで黙らせ、クラスメイトに状況を説明して誤解を解いておいた。無事クラスメイトも納得してくれようやく普段の空気に戻った教室で弁当の残りを食べた。

……足元でプルプル震えている努は無視した。

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