第七話:魔武具店の店主
この話は追加した話となります。
ミシェルから〝フェアリーサティファ″をもらった後、彼は本来の警備へと戻った。
別れるときに「明日は非番だから他にも案内しようか?」と言われたのでお願いした。自分で回ることも考えたが、ここは住民である彼のほうが詳しいだろう。
さっきラインが教えてくれた場所をエルジュが知らなかったように、他のプレイヤーが知らないNPC独自の情報もありそうだからな。
そんなことを考えながら、俺は教えてもらった店を訪ねてみることにした。そう、【魔力増強】の魔武具を扱っている店だ。本来なら行っても何も買えないし、そもそも装備できるかどうか分からない。言うならばただの興味本位だ。
「すいませ~ん」
「ん? 何か用かな?」
店のドアを開けると入り口すぐ横に座っていた老人に声をかけられた。しかしその老人以上に俺の注目を集めるのは店中に浮かべられた杖の数々だ。壁には剣や盾もあるが全体の武器数から見れば2割程度だろう。
杖が多いのは、やはり妖精族は魔力に長けた種族だからだろうか。中には杖の先端が尖ったエストックのような形状をした杖もある。
というかここでは杖を浮かべて売るのが常識なのだろうか?
「お前さん、フェアリーガードの関係者かい?」
「はい?」
ぼぉ~と空中に浮かぶ杖を眺めていると声をかけられた。見ると老人は右手の人差指で俺の首元を指していた。
「そのペンダントさ。〝フェアリーサティファ″だろ?」
そう言えばこの店はフェアリーガード御用達だったな。そう思い出し、ミシェルとの出会いからこの店を教えてもらったいきさつまでを話した。
「なるほど。見慣れぬ顔だと思ったら客人だったのかい。また面倒な奴らが来ることになるのか」
「面倒な奴ら?」
話からなんとなく予想はつくが、一応聞いておこうと思ったので聞き返した。
「お主は関係なさそうじゃが、以前ここを訪れた客人たちは客として最低での。『お前たちでは装備するには力が足らない』と丁寧に教えてやったのに『いいからよこせ! 金ならあるだろ!』とか言って全く言うことを聞かなくての。最終的には帰っていったが、またあのような連中が来るのは勘弁だのう」
やはり、ここでもβプレイヤーの悪行があったのか。ほんと何やってたんだか。多少は仲好くしておけば正式版序盤で魔武具が手に入ったかもしれなかったのに。
「すまんの。辛気臭い話をしてしまって」
「いえ、その人物たちが誰かは知りませんが、自分も同じ客人であることは変わりないので。すいませんでした」
頭を下げる。人によっては見知らぬ誰かの代わりに謝罪している“よくできた人間”と思うかもしれないが、実際はこのままプレイヤーの印象を下げたままだとこの店を利用できないと思ったからだ。
警備を任されているフェアリーガードの隊員たちが使う武器なら間違いなく〝初心者の杖″よりも性能は上のはず。まだ推測の域でしかないが、【錬金術】補正機能付きの杖だってあるかもしれないのだ。
そうでなくともこれからの冒険で強い武器は必要不可欠だ。
俺はVRMMOどころかゲーム自体も初心者のようなものだ。そして錬金術は素材が無ければ何もできない。ならば少しでもいい武具を装備しておかないと採取中にゲームオーバーになってしまう。
せっかく教えてくれた優秀な武器が獲得できるチャンスをここで捨てるわけにはいかない。
そんな邪念交じりの謝罪だったが、どうやら少しは機嫌を良くしてくれたようだ。
「素直な若者に会えたお礼じゃ。何か欲しいモノはあるかい?」
「では……」
欲しいモノを言ったところで今のままではお金が無い。なので一つ質問してみることにした。
「参考までに聞きますが、【錬金術】関連の装備ってあったりします?」
その瞬間、老人の気配が変わった。
座っていることや表情は特に変化が無い。
しかし、俺を見つめる目つきが明らかに先ほどまでと変わっている。
「お主、なぜそれを求める?」
老人の目に力が宿る。
その目に恐怖を感じる。しかし同時にある言葉が響く。
“この眼から目を逸らしてはいけない”
なぜかそんな声が胸の内から響いてきた。
「再び問うぞ。 なぜ【錬金術】の武器を求める?」