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VRMMOの錬金術師  作者: 湖上光広
第一章:ダイブイン
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小話2:インゴット

「さて、今日はどうするか」


緊急イベントが終わり、店を出すことを告げたことで追われる日々からも解放されたので久しぶりにのんびり調合ができる。


「そうだ、まだ読んでない本があったよな」


正確には途中まで読んであの時必要ないとしまっていた〝職人の心得″だ。


「何々、〝鉄″に〝銅″、〝鋼″か。結構たくさんあるんだな」


実はあの時もらった三冊の中で一番分厚いのがこの〝職人の心得″。

あの時は初めのほうしか見なかったのだが、どうやらこれ一冊でこのゲームに出てくるインゴットがすべて載っているらしい。本というより図鑑のようなモノだ。


残念ながらLvが足りないせいか全体の三分の一程度までしか読めなかったが。


「〝翡翠″も調合できるのか」



〝翡翠″

調合方法『〝調合水″×3+〝鉄(ランクR以上)″×3+〝フォレストの葉(ランクUC以上)″×10』



〝フォレストの葉″は文字通りフォレストと言う木の葉だ。木々があるエリアには大抵生えている木で、ここ妖精族エリアの樹海にも生えている。

木なのに森を意味するフォレストなのはなぜだろうか? ツリーじゃないのか?


とりあえずフォレストの葉を回収しに行く。その方法は『フォレストの木に攻撃を与える』だ。その衝撃で葉が落ちてくるので、それを拾えばいい。

しかし地面に落ちたのはランクが下がるので空中で捕まえるようにしている。


失敗する可能性も考慮して30枚集まったところで今度は鉄の素材である〝鉄鉱石″を採りに行く。

さすがに樹海には無かったのでドワーフ族エリアに転移し、鉱山に入る。


妖精族が鉱山にいるのは珍しいのか視線をいくつか感じるが無視してつるはしを振っていく。実は俺が例の動画に映っていたプレイヤーだったからなのだと後に掲示板で知った。


採取にはスキルが必要無いが、【鍛冶】を持っているとランクが高い鉱石が取りやすいらしく、隣で同じようつるはしを振るうドワーフ族が掘り出した鉱石は俺が掘ったモノよりも大きかった。基本的に同じ鉱石なら『大きい=ランクが上』なのだ。


俺も必要量より少し多くの鉄鉱石が手に入ったので鉱山を後にする。

鉱山でもそうだが採取する際は過剰な採取はしないのがマナーだ。これはそのフィールドでそれ以上アイテムが採れなくなる、いわゆる枯渇状態になるのを防ぐための処置らしい。




アトリエに帰ってきた俺はさっそく鉄の調合から始める。

調合方法は『調合水×2+〝鉄鉱石″×3』で調合レベルもそんなに高くない、というか【上級錬金術】なら楽勝とも言えるレベルなので軽い気持ちで調合を進めていく。


「ちょっとアレンジしてみるか」


すでに素材は投入し、このままかき混ぜれば完成だ。それで十分なのだが、ここ最近の調合と比べると簡単すぎたのか、俺の口からいつもは言わないようなことが飛び出した。


俺はかき混ぜる手を休めず、アイテムウィンドウから〝清水″を取り出し、それを投入した。以前オウルから「清水は鍛冶をするのに役立つ」と聞いていたのを思い出したので試しに入れてみたのだ。


入れてから「何やってんだ俺!?」と思ったが後の祭り。すでに投入されてしまったので仕方なくそのままかき混ぜ続ける。もしかしたらランクの高い鉄が出来ることを信じて。


そして、調合は成功した。いや失敗したとも言えるかもしれない。



〝清鉄″・インゴット・R

鉄から余分なモノを省いた純粋な鉄。純度100%。



完成した清鉄はきちんとした手順で調合した鉄よりも軽く、そしてすこし輝いて見えた。


とりあえず、清鉄は一旦しまっておいて、翡翠の調合に必要な鉄を調合していく。


無事ランクRの鉄が三つ完成し、余った鉄鉱石はアトリエで保管する。

そして翡翠に挑戦しようと思い、あることに気づく。


「これ、どうやって窯に入れるんだ?」


鉄の大きさは窯よりもわずかに小さいが鉄を入れたら中の調合水があふれるかもしれない。

しかし、ここに鉄を小さくするための機材など無い。


少し考え、取りあえず入れてみることにした。


結果、調合水は溢れなかった。というよりも、なぜか鉄を入れたはずなのに窯の中の調合水の高さは変わらなかった。……こういうシステムなんだと認識しよう、うん。


実際三つ全て入れても溢れることは無かった。さすがにかき混ぜるのに苦労したが、次第に鉄が溶けだし(この時思わず「調合水すげー!」と叫んでしまった)、かき混ぜるのに苦労しなくなってきたところでフォレストの葉を入れる。


そして翡翠が完成した。


その内容表記は〝職人の心得″と変わらなかったが、ランクはR。まあ上出来だろう。


せっかくなのでシュリちゃんにも見てもらおうとメールを送ると『ぜひ見たいです!』と返ってきたので、内心驚いてくれるといいなと思いながら再びドワーフ族エリアに転移した。




「なんですか、コレ!?」


俺が調合した翡翠を見たシュリちゃんの第一声は驚愕だった。それ自体は俺の想像通りだが、驚き具合が予想をはるかに上回っている。


ちなみにここはいつもの共同工房では無くシュリちゃん自身の工房だ。俺も使わせてもらっている翡翠製の武具の売れ行きが良く、ようやく前から気に入っていた空工房を買っていた。


「な、何かおかしいかな?」


あまりの驚きにそう尋ねる。特に変わった点は無かったはずだが?


「おかしいですよ!? なんでコレ【魔力抵抗・小】が付いてるんですか!?」

「は? 【魔力抵抗・小】?」


そんな表記は無かったはずだ。試しに【識別】を使ってもそんな文字は一文字も出ていない。


「もしかして、【鍛冶】スキルが関係しているのか?」


そう思い、運営に問い合わせる。そしてその考えは当たっていた。


生産職はその職が良く使うアイテム(例えば鍛冶ならインゴット)に関して特殊な目を最初から持っている。付属スキルと同じように思えるが、初めから備わっているためパッシブスキルに近いモノらしい。


そしてその能力は“他の職の人間が生産したモノ”限定で発動するため、俺達は今まで知らなかったのだ。


実際はβ時代で判明していたことで、この前ラインが俺に料理を依頼してきたのにはこれの意味も含まれていた。


ならなぜ今まで俺たちが知らなかったかというと、俺もシュリちゃんも初めの頃は掲示板を見ていなかったので、その情報を見逃していただけだった。


後日、報告も兼ねてラインに〝アランジアイス″を渡し、ラインの知り合いの【料理】スキル持ちのプレイヤーに見てもらったところ、【氷属性抵抗・小】が備わっていることが判明し、そのプレイヤーからレシピの問い合わせがあったので教えたのだが、【錬金術】とは工程が異なるようでいまだに成功していない。


なお、渡したアイスを使って【料理】をし、試行錯誤の末完成した〝アランジパフェ″は想像通り【氷属性抵抗・小】が付き、その情報が攻略組みにも伝わったため新たな客層を獲得できたと喜ばれ、またしても大口の依頼先の獲得に成功した。

……本心では〝アランジアイス″を錬金術の調合品としてカウントすることには未だに疑問なのだが。


ついでに例の清鉄も見てもらったが、これにも効果が付いていた。それは【攻撃力向上・小】と【防御力向上・小】。どうやら武器にするか防具にするかでどちらかの効果が発揮されるらしい。さすがに両方は無理のようだ。


その後、もう一つの用事でもある俺の〝翡翠の盾″の強化をお願いした。

使うのは先ほどの翡翠と清鉄の二つ。実は調合したのは強化素材を確保するためでもあった。


メインは当然翡翠だが清鉄の効果も捨てがたいのでどっちも使うことにした。失敗しても能力が下がるだけで壊れるわけではないし。


シュリちゃんの目つきが険しくなり、一切の音を無視し、目の前のことに集中する。これまでも見たことがあるが、本当に真剣そのものだ。


そんなシュリちゃんが失敗することなど想像できず、結果として無事成功。【魔力抵抗・小】と【防御力向上・小】の二つが追加された。


少し世間話をして帰ろうとするとシュリちゃんからインゴットの依頼を言われたので、引き受けた。

その際に、このインゴットはシュリちゃんだけにあげることを約束し、その代わりシュリちゃんにはインゴットのことは誰にも教えないよう伝えておいた。


今度はライン達ブレイズだけでなく、全CWOプレイヤーから狙われかねないからな。なんせ俺が作ったインゴットを使えば全ての武器が魔武具化してしまうのだから。


そのため、シュリちゃんにも今は創るだけに留めて売るのは早くてもエリア3が解放され、魔武具がNPC店で一般販売されてからのほうがいいとも伝えておいた。


シュリちゃんも理解してくれたようで承諾してくれた。

俺はシュリちゃんに別れを告げ、アトリエに戻りダイブアウトした。

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