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VRMMOの錬金術師  作者: 湖上光広
第一章:ダイブイン
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小話1:料理

「料理?」

「そ、錬金術と言えば料理だろ?」


休み時間になり、次の科目の準備をしているとそんなことを努が言ってきた。


「わざわざこっちまで来て何を言うかと思えば」

「いや、結構重要なことだろ?」


確かに空腹度システムが導入されたことで【料理】スキル持ちの露店が増え、中には本物に近い見た目と味で行列となっている店も増え始めている。


とくにスイーツ関連はすさまじく、どこかのプレイヤーが作ったショートケーキもどきの値段は1万セルもしたという。


出した本人も「まさか売れるとは思わなかった」と言っており、その後は誰でも食べられるよう千セルまで下げたようだが(それでも高いと思うのは俺だけだろうか?)。


ちなみに、その職人さんは今では自前の店まで持っており、連日行列が絶えない。中には彼の熱狂的なファンで、彼のために食材を確保してくるプレイヤーまでいるとか。


話が逸れたが、そういうわけでプレイヤーたちは各々の方法で空腹度システムに対応している。

……俺? 〝清水″がありますが?




「と言うわけで何か作れないか?」

「何が“と言うわけ”なのかよくわからないが、試すにしても本が無いぞ?」


忘れているとは思えないが、生産系のアイテムを作るには当然レシピが必要だ。


「そこは、オリジナルレシピがあるじゃないか」

「オリジナル、ね」




CWOにダイブインし、俺はアリアさんの雑貨屋に向かった。


「料理の本、ですか?」

「ええ、ありますか?」


本当なら『【錬金術】関連の料理の本』が欲しいのだが、そんなものが都合よくあるとは思えないので、まずは料理の本について訊いてみた。

この後フェアリーガードの書庫にも行ってみるつもりだ。そこならあるかもしれないからな。


「私が使ってるモノでよければ貸しましょうか?」


そう言ってアリアさんが持ってきたのは〝今主流の妖精族アイディアレシピ″と言う名の本。


「中を見てみても?」

「いいですよ」


許可をいただいたので本を開く。

内容に全部目を通したが、返却した。


「参考になるかもしれませんが自分には無理ですね」

「そうですか、残念です」


アリアさんは本当に残念そうな顔をしたがこれを受け取っても意味が無いのは事実だ。

なぜなら……全ての料理に〝薬草″が使われているからだ。


よく考えてみればタイトルに〝妖精族″が付いてる時点で気づくべきだった。彼らが好き好んで食べる〝薬草″が入っていてもおかしくないからな。


中には俺でも食べられるものがあるかもしれないが、苦手なものが入ってるとわかっている物を食べる勇気は俺には無い。


アリアさんの雑貨屋を後にして、フェアリーガード本部へと向かった。


結論、俺が望んだ本はありませんでした。




「というわけで、結局オリジナルしかないか」


アトリエの机に座り、レシピを考案する。初めてのオリジナルレシピが食べ物でいいのかと思うが、まあやってみるだけやってみよう。


「材料に清水を使うのは確定。 回復度がある物を使わない手はないからな」


後は何を作るかだ。一応、帰りにいろいろ食材は買っておいた。

数量ランクが高いモノがあると店員から聞いたので吟味して購入した。こんなところで現実の経験が活かせるとは思わなかったが。


「とりあえず、液体モノに挑戦してみるか」


【錬金術】の基本は〝ポーション″。

というわけでジュースみたいなモノに決定。


まず、調合水が溜まっている窯に清水を入れる。そして一口サイズに切ったオレンジの味がする赤い実、〝アランジ″を入れていく。

かき混ぜると光りだすが、俺は即座に窯から離れた。


そして起こる爆発。最近は光の度合いで成功か失敗かある程度分かるようになった。これも大量に作ったボムのおかげだ。……苦労したな、あの頃は。


爆発と言っても窯から煙が吹き溢れるだけで吹き飛ばされるたり、気絶したりすることなどない。それでも何度も味わいたいものではない。


「これだけじゃダメか」


試しに買っておいた他のフルーツ系統のアイテムを投入してみたが全滅。


「だからと言って諦めるわけにはいかないよな」


『失敗は成功の母』なのだ。その日、俺は調合に没頭した。




翌日の昼休み、努から成果を聞かれたが今のところ成功したモノは無い。


「そっか」

「悪いな」

「いいよ。 出来たらいいなと思っただけだからな」


そう笑う努だが、俺はそれを見てさらに闘志を燃やした。

その気はないのはわかっているが「所詮【錬金術】はこの程度か」と言われた気がしてしまったのだ。

そんなことを考えてるなど全く思ってない努と表面上は笑いあいながら、俺は頭の中で必死にレシピを考案し続けた。




「さて、今日も実験だ」


帰宅してCWOにダイブしてから一時間後、買っておいた食材はほぼ使い切ったのに、完成したアイテムは0。


「……本当に無いのか?」


闘志の炎が徐々に弱まっていくのが分かる。残っているのは最初に使った〝アランジ″が少しばかり。


そして時間的に夕食の時間となったので一度ダイブアウトすることにした。


どうやら空はまだダイブしているみたいなので一人で食事をする。適当にニュースを見ていると迫りくる夏に合わせてか夏特集をしていた。


「そういや今年の祭りはどうするか」


少し離れたところにある神社では毎年夏祭りがあり、毎年努と空といっしょに行っている。今年は後輩三人組も一緒に行けるかなと考えているとテレビに映るある物が俺の頭を刺激する。


「いけるか?」


俺は夕食を食べ終え、空の分をラップしておくと再びCWOにダイブした。




アトリエに帰ってきた俺は残っていた〝アランジ″を一口サイズに切り、それと清水を錬金釜に入れる。そこに追加である物を入れた。


そしてかき混ぜることしばしば、念願のアイテムが完成した。



〝アランジアイス″・料理アイテム・R

〝アランジ″の実が入ったアイス。さわやかな味わいが清涼感を引き立てる。

空腹回復度+10%



実は、追加で入れた物は〝スノープリズム″だ。

テレビで注目のアイスを紹介しており、その中に果物の果肉ごと凍らせたアイス、フローズンアイスの話があったのでもしかしたらと思って試してみたら、まさかの成功だったのだ。


ちなみに、なぜか棒アイスのようになって具現化された。どこから出てきた木の棒?

なお、試しに食べてみたら結構美味しかった。……当然ながら『あたり』なんてものはない。


「でも、コレどうしよう?」


完成したことはうれしいが、攻撃アイテムとして活躍できる〝スノープリズム″をこんなことに使うのはもったいないと思ってしまったのだ。


「一応、レシピ見てみるか」


オリジナルでも完成すればそれレシピに残る。

もしかしたら別の方法があるかもと思ってレシピを見てみた。



〝アランジアイス″

調合方法①『〝調合水″×1+〝水(ランクR以上)″×1+〝氷系統のアイテム(ランクUC以上)″×1+〝アランジ″×2』

②『〝調合水″×1+〝氷(ランクUC以上)″×3+〝アランジ″×2』



「氷!?」




翌日、アリアさんにランクUC以上の氷があるか聞くと「『水仙』ならあると思いますよ?」と教えてくれ、ティニアさんにもらえないか聞きに行った。

「何に使うんですか?」と訊かれたので「アイスです」と答えるも、ティニアさんは混乱顔。どうやらCWOにはアイスは無いらしい。


「なら食べてみますか?」と言って必要になるかもと思って用意しておいたアランジアイスを差し出し、食べてもらう。すると今度は驚愕し、そしてとろけるような笑みを浮かべた。どうやら虜になってしまったようだ。


無事氷は分けてもらえたが、そのランクはHR。なんと清水を凍らせたモノらしい。その方法は妖精族らしく魔法を使ったとのこと。

一瞬、【氷属性初級】を獲得しようかと思ったが、残るスキル枠はサブの一枠のみなので止めた。ちくしょう。


その氷を使ってアランジアイスを作ってみればやはりランクはHR。空腹回復度は+13%。一般的な料理の平均回復度が+15%なのでアイス一本でこの数字は驚異的だろう。

清水、いや聖樹様の恩恵は素晴らしい。


完成したアランジアイスはお礼として『水仙』に寄贈し、アリアさんにも食べさせてみた。反応はどちらも上々。ティニアさんからはお客様にも出したいからと追加の依頼まで受けた。

どのみち氷は『水仙』からしか手に入らないからお安い御用だ。


そして他のフルーツ系統のアイテムでも同じようなモノが出来たので、これも今度開店するルーチェで販売してみよう。

それによって余計な苦労をすることになるのを俺はまだ知らなかった。

時期的には遅いかもしれませんが、料理について考えている時に家族がアイスを食べているのを見て「これだ!」と思ってしまった作者を笑ってください。

*以前の『VRMMOの錬金術師』でも書きましたが、パイの登場予定はありません*

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