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VRMMOの錬金術師  作者: 湖上光広
第一章:ダイブイン
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第七十一話:それぞれの生産職

〝それぞれ″と書きましたが、実際に登場する生産職は(アルケを省いて)二人だけです。

アリアさんたちとの会話が終わり、俺はアトリエに戻ってきた。


そこでダイブアウトせず、老人の店を訪れた。『水仙』よりもアトリエからのほうが近いのだ。

用件は〝ブラックボム″についてだが、もう一つ訊きたいことができたのだ。


「……というわけで、このアイテムが何かわかりますか?」


そう言って老人に渡すのはピンク色のクリスタル。これはジャイアントデーモン討伐報酬なのだが、死亡したせいなのか俺が獲得したのはこれだけだ。一応セルも手に入れたが。

しかもこのアイテム、表記が『???』なのだ。試しに【識別】を使って見ても『Lvが足りません』と表記される。


そこで、老人を訪ねたのだ。もしかしたら知ってるかもという淡い期待からだ。


「ほお、面白いモノを持っておるの」

「おもしろい?」


知ってるらしいが言い方がおかしい。


「これは魔族の核。 言うならば魂みたいなものか」

「たましい、ですか?」


どうやら俺の想像以上の代物らしい。老人がアイテム名を告げたせいか、俺の元に帰ってきたそれにはしっかりとアイテム表記とその性能が表示された。



〝ジャイアントデーモンの核″・融合アイテム・Ld

イベントボスジャイアントデーモンの心が宿ったクリスタル。

武器に融合させることで【闇】属性のアクトを覚えられるようになる



「【闇】!?」


魔法の属性は様々あるが、【闇】は魔族専用の属性のはず。それを使えるというのか!?

老人にもそのことを告げると、老人は喜んでいる俺とは正反対の険しい表情をした。


「なるほど、そういう効果か。 なら今は止めとけ」

「へ?」

「その杖では耐えられん。 アクトを使った瞬間、すぐに壊れるぞ」


確かに、〝錬金術師の杖″のランクはUC。少し強い程度のモノでしかないのならば無理か。


「じゃから、まずは〝ゴブリンキングの核″を【合成】させてみよ」

「……え?」


そういえばそんなモノあったな。……なんで知っている?


「アリアという娘から聞いた話だ。ゴブリンキングを討伐したなら持っていてもおかしくない」


そう言って一本の剣を持ってきてくれた。【識別】してみろというので見てみるととんでもない一文が書かれていた。



〝剛鬼の剣″・武器・R

〝ゴブリンキングの核″を柄に埋め込んだ剣。

装備している間【威圧】を使用できる

【威圧】:攻撃を与えた敵を30%の確率で【硬直】状態にさせる



【硬直】はその名の通りしばらくの間動きを封じる状態異常だが、別のダメージを受ければすぐに解除される。しかし、逃げるときや魔法の詠唱時間を稼ぐ手段としては重宝されているスキルだ。


しかしここで重要なのはそこではなく、剣に使われている〝ゴブリンキングの核″だ。


「もしかしてこの核って……」

「わしが採ってきたものじゃが?」


おかしい。この老人、見た目だけなら80を超えていても不思議じゃないはず。どこにこんな力を秘めているんだ。


「不思議なことではないだろう? お前さんでもできることがわしにできないはずないだろうが」


いやこっちは4人いたのですよ? しかもフレイムボムを使ってやっと倒せたボスクラスモンスターを一人で? というかいつ、どこで?


「少し前に森が不自然に騒ぎ出したのとあの男が武器の研磨に来たからの。何かあるのではと思ってわしも森に入ったのじゃ。そこで五体くらい倒したかの?」


……確定。CWOに搭載されているNPC用のAIは異常だ。

ちなみに、あの男とはフェアリーガード総合隊長のことだ。まあ、唯一交友がある人らしいからすぐわかったが。


これ以上聞くのは精神的に良くないと判断し、俺は老人の店を後にした。

……あ、ブラックボムのこと聞くの忘れてたな。まあ、いっか。




「これが、〝ゴブリンキングの核″ですか~」


場所変わって解放されたばかりのドワーフ族エリア。

目の前で〝ゴブリンキングの核″を見ているのはシュリちゃんだ。


調べてみると老人が話していた【合成】は【上級鍛冶】の付属スキルだったのでシュリちゃんを訪ねたのだ。まあ、他の鍛冶師知らないし。


「そしてこれが〝錬金術師の杖″。 確かに不思議な形です」


露店には無かったが杖も創ったことがあるらしい。しかし剣などの近接攻撃系武器を使うプレイヤーが多いため、露店では出していないとのこと。


ちなみに、杖は【木工】でも作れる。というか、【木工】で創ったほうが【鍛冶】よりも性能が良くなることは検証組が発表済みだ。


「じゃあ、やってみますね」


シュリちゃんが二つのアイテムを持ち、炉の前に立つ。


一度深呼吸し、まず炉に〝錬金術師の杖″の先端を入れる。ここで言う先端はスプーンの形になっている石突のほうではなく、宝石があるほうだ。


本来は剣の刀身を全て入れるらしいが杖の場合先端部分だけでいいらしい。杖にとって重要なのは先端に取り付けられた宝石や木の実だからな。


そして十分に熱くなった頃合いで〝ゴブリンキングの核″を入れる。


そのまましばらく待つ。たまに回しているのは均等に熱を与えるためだろうか?




そして無事【合成】が完了した。


成功したわりには特に変化はない。しいて言うなら先端の赤い宝石に紫色が追加されたくらいだ。比率的には赤8:紫2くらいの微妙な変化だが。


さっそくその性能を見てみることにする。興味があったみたいなのでシュリちゃんにも見えるように可視状態にする。



〝錬金術師の杖(鬼)″・武器・R

〝ゴブリンキングの核″の力が宝石に宿る【錬金術】専用の杖。

装備している間【威圧】を使用できる

【威圧】:攻撃を与えた敵を30%の確率で【硬直】状態にさせる

『ランクアップボーナス:調合成功率+10%』



「ランクアップボーナス?」

「武器の中には強化の組み合わせによって外見が変わって性能が良くなる武器があるそうです。そういう現象は『進化』って呼ばれてます」

「それが発生する確率は?」

「結構多いですよ。 特に初心者装備は全部進化可能です。 まあ、同じ品質の強い武器に比べると劣るのでもう誰も装備していませんが」


少し悲しそうに言うシュリちゃん。おそらくシュリちゃんが進化させたのもあったのだろう。


そういえば、初めてこの杖を装備した時に合成とかランクアップと書かれていた気がするな。


「それからこれなんだけど」


一旦杖をしまい、取り出したのは盾。そう〝翡翠の盾″だ。


「あ、修理ですね」

「いや、返す」


武器の耐久値を回復させる方法は【研磨】なのだが、盾の場合はなぜか修理と言うのがCWOの鍛冶師界では常識らしい。

確かに盾を研磨したら防御力が削られそうだしな。薄くなるわけなので。


「え、何かダメでした?」


瞳に涙を溜めようとするシュリちゃん。

ヤメテ! ここ集団工房の中! 俺が殺されてしまう!!


「じゃなくて、あの時は借りただけだから返しに来たんだけど」


俺に贈られたものだが、これは俺が持つよりも他のプレイヤーのほうが有意義に使えるだろう。

そう思ったのだが、シュリちゃんは首を横に振った。


「それはアルケさんに差し上げます。 私を助けてくれたお礼だと思ってください」

「そう言われると受け取るしかないけど、でもいいの? これ貴重じゃないの?」


〝翡翠石″はあまり採れない鉱石だと聞いている。

しかし、シュリちゃんはアイテムボックスから何かを取り出した。


それは両手いっぱいの翡翠石。


「え?」

「実はあのイベントの後、たくさん採れるようになったんです」


俺はイベントが終わった後公式ページを見ていなかったのだが、捕らわれていたドワーフ族たちへの謝罪代わりなのか、鉱山で発掘できる鉱石が増え、今まで少なかった翡翠石の出現率が上がったそうだ。

当然、新しい鉱石は性能がさらに上なので出現率は低いが。


そのため多くのドワーフ族たちが鉱山に向かい、そしてシュリちゃんはいつものようにプレイヤーから寄贈され、多くの翡翠石産の武具をすでに販売していた。

当然〝翡翠の盾″もその一つだった。


そういうわけなら遠慮なく受け取ることにしよう。


そして盾の修理は今後もシュリちゃんにお願いすることにした。

「なんだか専属鍛冶師になった気分ですね」と照れていたシュリちゃんを見て「ファンクラブが出来るわけだ」と納得した。




後日、専属鍛冶師の件がラインにバレ、再びミーティングルームが裁判所になった。

……ちなみに発信源はシュリちゃん当人で、露店でうれしそうに話していたからだった。


頼むシュリちゃん! もう少し自分の立場をわかってくれ!

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