第七十話:終結?
いつも誤字報告ありがとうございます。
翌日、俺がダイブすると後輩三人組もダイブしてきたので速攻で謝罪した。
三人組は許してくれたが、今度何かおごることになりました。……現実世界で。
「まあ、制裁については後で続けるとして」
「おい!? 続けるってなんだ!?」
恐怖の宣言をしたのは三人組ではなくライン。彼の周りにはブレイズメンバーがそろっている。
「もちろん、俺たちも被害者だからな」
「……アーシェさんもですか?」
正直、鞭は勘弁です。
「私は直接被害受けてないから。むしろ感謝するべきじゃない、マスター?」
「ぐっ」
言われたラインではなくムルルが悔しがる。その理由だがムルルはアーシェに惚れてるらしい。だからって俺を睨まないでほしいのだが。
というか、シュリちゃんはいいのか?
「それでも追及はさせてもらいます。最後のアレ、なんだったんですか?」
全員の視線が俺に向けられる。言い忘れたがここはブレイズのギルド、裁判所改めミーティングルームだ。
集まっているメンバーはあの時参加したメンバー全員。NPCであるアリアさんたちはいないが。
「アレは〝中級錬金術教法″に記されていた最後の攻撃アイテムだよ。名称は〝グレンダイム″。形は手榴弾だが、中身はダイナマイトだと思ってくれ」
それを聞いて全員が黙り込んでしまう。まあ、当然だよな。
ちなみに形が手榴弾だからって中に破片等は入ってません。もしかしたら入れられるかもしれないけど。
「ちなみに、その性能は?」
「口で言うより見せた方が早いか」
俺は『レシピ』を取り出し、その性能が記されたウィンドウを展開する。
〝グレンダイム″・攻撃アイテム・HR
複数の〝フレイムボム″を合成させ、その性能を凝縮させた高性能爆弾。
HP-500
*ダメージは爆心地から2m離れるごとに-50*
「「「「「「「-500!?」」」」」」」
今度は全員が声を上げる。現状効力が高い〝フレイムボム″でもHP-200だったからな。
ちなみに、ジャイアントデーモンに使ったのは効力:Eの最低品質だが、それでも切り札にふさわしい威力だ。
それゆえに調合レベルが中級にしては異様に高く、成功したのは今回使用した2個だけ。これまでに三十回以上は失敗しているので、まだまだ修行が足らないということだろう。
また、このアイテムは今までのアイテムと違い発動者本人にもダメージを与えるので、今まで以上に扱いづらくなっている。
これで〝中級錬金術教本″なのだから上級ともなればどんなものがあるのか怖い半面、創るのが楽しみになるのは俺も錬金術師として染まってきた証拠だろう。
「ここまですごかったの!?」
「待てエルジュ。 なぜお前が驚く?」
この中では俺の他に唯一使ったことのあるプレイヤーのはずだ。
「あんな状況で効果なんかいちいち確認しないよ! 爆弾だって聞いてたし!」
「それもそうだな」
うんうんと頷く俺と驚きで何も言えない他のプレイヤーたち。
「とりあえず、〝グレンダイム″の話はここまでだ。 本題に入ろう」
復活したラインが全員の意識を戻す。そう、集まったのは俺の話がメインではない。
「結論から言うと、解放したドワーフ族、主にプレイヤーからの情報により、エルフ族に侵攻しようとしていた魔族はほぼ撃滅。わずかに逃したらしいが、エルフ族エリアに大きな被害はないようだ」
ラインの発言に安堵の色が浮かぶ俺たち。
ラインたちがジャイアントデーモンを倒した後、情報の規制が解かれ、捕らわれていた多くのドワーフ族プレイヤーが掲示板に情報を流し、魔族の次の侵攻目標がエルフ族であることが確定。
元から俺の情報で警備を整えていたので迎撃準備を万端にしているところ、偵察に出たプレイヤーがエルフの街から約10km先の森の中に隠れていた魔族集団を発見。すぐさま編成が組まれ、殲滅作戦が開始された。
数ではプレイヤーが勝っていたが、魔族はドワーフ族が創った優秀な武具を装備していたため序盤は結構苦戦していたらしい。しかし、念のため自分たちの種族の防衛をしていた他のプレイヤーが合流してからはプレイヤー側が優勢に立ち、最後には勝利を収めた。
しかも、損傷が少ない装備はそのままドロップできたようで「結果的に今回のイベントは良かった」なんて言ったプレイヤーもいたらしい。
まあそのプレイヤーは参加した他のプレイヤーにより本来なら禁止となっているアバターネームを公表されたため、捕えられていたドワーフ族プレイヤーから二度と支援されなくなったそうだが。
まあ、自業自得だろう。
「とにかく、これで今回の魔族侵攻は一段落ということでいいのよね?」
「おそらく、そうだろう」
アーシェとロウが話をまとめ、俺とエルジュ達はブレイズのギルドを後にした。
スプライトに戻るとアトリエに向かい、『水仙』に転移した。結果報告のためこっちの関係者全員に集まってもらったのだ。
なおミシェルだけは巡回中のためいない。「せっかく『水仙』でのんびりできると思ったのに!」と悔しい気持ちがこもったコミュをもらった。
付き合うと面倒だと判断し、『ファイト、ミシェル』と心の中でエールを送ってやった。
「今回は大変でしたね」
ティニアさんから〝生命の甘露″を注いでもらう。もはや当たり前になったなこの感覚。
「まあ、これでスプライトの安全も確かめられたので、ハイフェアリーとしても感謝します」
「そう言えば、それが始まりでしたね」
最初はアリサさんの石化事件から始まった。あのときはまさかここまでスケールが大きくなるなんて夢にも思わなかったな。
「でも、問題がまだ残ってますね」
「え?」
魔族の撃退も済んで何もかも解決したんじゃないのか?
見回すと分かってないのは俺だけのようだ。
「アルケさん、ここはどこですか?」
アリアさんが俺に訊ねてくる。
「『水仙』ですよね?」
「そうです。 では『水仙』はどこにありますか?」
今度はティニアさん。
「……遊郭街ですか?」
質問の意図が分からず、とりあえず思いついた場所を言う。
「それも正解です。 では、根本的な質問をします」
アリサさんは下を指差した。
「“ここ”は“どこ”のエリアですか?」
「………………あ」
そこまで言われてようやくわかった。そう、ここは“妖精族”のエリアだ。魔族が住む“共通”エリアではない。
「そうです。彼らは自在に他のエリアに転移できるのです」
「おそらくは魔法ね。他世界は無理だけど【転移】なら私でもできるわ。実際ここまで来てるし」
「大勢を必要とする儀式魔法ならいいのですが、それが個人の力で行えるのなら、またいつ現れてもおかしくないのです」
場の空気が鎮まる。
今回魔族はドワーフ族エリアに噴水以外の転移手段で現れ、さらにエルフ族エリアにまで転移している。
そして牢獄エリアで見たあの魔方陣。もしあれが本当にあの館と同じ転移魔方陣だとして、それを刻むことのできる能力を持った者が複数いるとしたら?
または魔王が個人の力で大勢の魔族やモンスターを他のエリアに送れる力を持っているとしたら?
「その方法が分からない以上、警戒は続ける必要があるということです」
アリサさんの発言に俺たちはそろって頷いた。
「失敗に終わったか」
「申し訳ありません」
王座に座る存在に頭を下げる魔族の男性。
「良い。 作戦の決行に了承したのは私だ」
その存在は壁に描かれたモノに目を向ける。それはこの世界の地図だった。
「例のモノは?」
「抜かりなく」
「それならばよい」
存在と男は地図の上に描かれた印に目を向ける。
「次はどうしましょうか?」
「邪神様は何も伝えてこない。 しばらくは力を蓄えることにしよう」
男は一礼するとその場から消えた。
残された存在もすぐに姿を消した。




