第六十九話(番外編):エルジュ達の戦い
本日は二話連続投稿なので最新から来られた方はご注意ください(どちらも番外編なのでどちらか読んでも問題ありません)
兄さんたちと分かれた後、私たちはNPCドワーフ族たちが捕らわれている場所を目指していた。
「あれかな?」
走ることしばらくして塔が見えてきた。飛べばもっと早く着いたかもしれないがどこに敵が潜んでいるかわからない中で飛ぶのは自殺行為だ。相手がここにいると素直に教えているみたいなものだし。
「よし、先に行くよ!」
だからそう言って飛んで行ったシオリンを「あのバカ!」と思った私は悪くないと思う。後ろの二人に振り向き、二人とも頷いたのを確認して私も空に上がった。
結果として襲撃は無く、塔に到着。シオリンを説教していると二人も到着した。
「さて、ここからどうしようかな」
「どうするって塔に入らないのですか?」
スワンが塔の入口を指すがここは敵地だ。扉にも仕掛けがしてある可能性がある。いや、待ち伏せということも考えられる。
そのことを伝えると三人とも納得してくれた。
「みんな、HP・MP大丈夫?」
「はい」
「だいじょう~ぶ!」
「問題ないです」
大声を出したシオリンを殴り、黙らせる。ここは敵地だって何回言えばわかるのかな?
「なら、ここでじっとしても意味が無いから突撃します」
『虎穴に入らずんば虎子を得ず』とも言うしね。
私が先頭に立ち、〝簡易解除道具″を使って扉に罠が無いことを確認する。
これはラインさんから「持ってたほうがいいよ」と勧められたものだ。さすがはトッププレイヤーだと感心し、同じゲーマーとして先を歩んでいるのを悔しく思った。
扉を開け中に入ると螺旋階段があった。一歩ずつ慎重に進んでいく。
途中捕らわれているドワーフ族を見つけた。床に横たわり、弱っている様子だったのですぐに助けようとしたが鍵が開けられなかった。
「鍵なら……最上……階に……あ……る」
隣の牢屋に閉じ込められていたドワーフ族の女性がそう教えてくれた。鍵を開けようとした牢屋のドワーフ族同様弱っているようだが、まだこっちよりは元気そうだ。
それでも牢屋の壁に背中を預けているのでもし壁が無かったら倒れこんでいただろう。
「わかりました。 すぐに助けますから」
わずかに頷いたのを見て、私たちは早歩きで最上階を目指した。
「おかしい」
私は思わずつぶやいていた。スワンが「何のこと?」と訊いてきたので私は答える。
「なんで敵がいないの」
すでに5分以上は階段を登り、多くのドワーフ族が閉じ込められている場所を通過してきた。それなのに戦闘は一度も無い。
「確かに、見張りもいないのはおかしいですね」
訊いてきたスワンが私の意見に同意する。
牢屋+門番は当然の組み合わせだ。それが一体もいないとなると考えられるのは一つ。
「最上階にいるのは結構ヤバい奴かも」
私の視界に入ってきた螺旋階段の終着点。最上階の部屋への入口の扉の前で一度止まる。
「みんな、武器とアイテムの確認を」
三人も急いで確認する。この先に待っているのは間違いなくボスクラスのモンスター、あるいは魔族の可能性が高い。
(こんなことなら兄さんだけもこっちに来てもらえばよかった)
ブレイズは6人に対しこっちは4人。人数的に考えればこっちに回すべきだが、街の中央から離れたこんなところに捕らわれているなら、そこを守護するモンスターくらい何とかなる+向こうは戦闘が多いだろうと思って兄さんを向こうに回したほうがいいと考えたのだが、どうやら裏目に出てしまったらしい。
「……みんな、いい?」
しかし今はそんなことを嘆いている場合じゃない。
三人に確認し、念のため〝簡易解除道具″で罠が無いことを確認して扉を開けた。
「「「「…………」」」」
扉を開けた先で私たちは誰も言葉を発することができなかった。
それはモンスターハウスに飛び込んでショックしているわけでも、巨大なモンスターが登場して驚愕しているわけでもない。
単純に呆然としているだけだ。
「だれも、いない?」
リボンの言葉が室内に響く。そう、中には誰もいなかった。
あるのは一脚のイスと机、ベッドが一台、そして壁にかかっている無数の鍵。
「……どうする?」
スワンの問いかけに「一応部屋の中を捜索してみよう」と提案する私。
しかし、結局何もなく、鍵を手にして螺旋階段を下る。
「どうなってるの?」
次々とドワーフ族たちを解放し、持ってきたポーションで傷を癒していく。
そしてある程度まで下がってきたところでだいぶ回復してきた一人のNPCドワーフ族に訊いてみた。
「ここを守っていた魔族やモンスターを知りませんか?」
知ってればいいな程度の質問だったのだが、その答えはまさに私が望んでいたモノだった。
「少し前に仲間を連れてどこかに行ったよ」
「……その仲間について詳しく教えてくれませんか?」
返答を聞いて更なる質問をしてみる。この時点で想像はついていたが、確認のためだ。
そしてその推測は正しく、ここを守っていた魔族とモンスターは私たちがこのドワーフ族エリアに転移してきた時に戦った魔族とモンスターたちだった。
「なんで全員? 魔族ってバカなの?」
シオリンが言っていい言葉ではないと思うが確かにそう思う。普通一人、いや一体くらい門番として残しておかなかったのかと。
実はそれに関してはここに残っているドワーフ族たちは逃げられないよう前日かなり酷使されていたのだが、それを私たちは知る由も無かった。
「ありがとう」
「どういたしまして」
私たちは鍵のことを教えてくれた女性を救出し、隣の倒れているドワーフ族の男性はポーションを与えても目を覚まさなかったので別のドワーフ族の男性が運んでくれている。本人も傷ついているのに申し訳ないと思ったが「気にするな。むしろお礼を言うべきはこっちなのだから」と言われ、その言葉に甘えることにした。
しかし、塔から出たところで私たちを待っていたのは敵の群れ。
しかも、エリア1のエリアボスであるデーモンの取り巻き、デーモンソルジャー(正しくはデーモンウォーリアー)だった。
「「「〔ウイングアロー〕!」」」
鳥人族専用弓技〔ウイングアロー〕。各種族には適応する武器があり、それを使うことでその種族限定のアクトを使用できる。人族はオールラウンダーなのでそれが無いが、一番成長速度が速いという利点もあるのでどっこいどっこいだろう。
三人が唱えた〔ウイングアロー〕は威力こそ弱いが広範囲に攻撃でき、MPが無くなるまで攻撃が継続される。それで足止めしてもらい、私が威力の高いアクトで仕留めていく。
これがとっさに思い付いた攻撃手段で、その案は今のところ成功している。なお、助けたドワーフ族は塔の中に避難してもらっている。
私たちも塔を背にしているので後ろからの攻撃は心配しなくていい。
問題は相手の数だ。
(十体なんて聞いてないよ!)
デーモンソルジャーは防御力は高くないが、鳥人族もそこまで攻撃力が高いわけではない。さらに弓技の最大の利点は当然射程距離の長さで攻撃に関しては後方支援が主な役割だ。前衛に真っ向から対抗するなんて普通はできない。
今の攻撃でようやく三体目を倒せたくらいだ。
現状はなんとか三人の広範囲攻撃で足止めできてるがこれも長くは続かない。もし援軍でも来られたらそこで終わりだ。
(なら、手は一つしかない!)
私は弓を一旦背中に戻し、代わりに手にある物を物体化させる。そして三人にチャットで作戦を伝え、タイミングを合わせてアクトを止めるように指示する。
「今!」
私の声と共に〔ウイングアロー〕が止み、代わりに三人の手から飛んでいくのは無数のフレイムボム。
それによる爆風で視界が悪くなったところに、私は兄さんから渡された攻撃アイテムで一番強力なアレとフレイムボムを同時に投げた。
この時私が考えたのは『一気に殲滅し、援軍が来る前にここから離脱する』というモノ。
こっちは攻撃力で劣っているし、なにより傷ついたドワーフ族を早く治してあげたいと思ったからこその考えだった。
……後で思えば失敗だったのだが。
先に導火線が燃え尽き、爆発したのは丸い物体。その威力はすさまじくまだ導火線が残っていたフレイムボムも爆発させた。
その威力で敵は全滅させたが、爆発の余波はそれだけで終わらなかった。
「「「「へ?(え?)」」」」
四人の声が同時に響き、私たちは全員爆風に巻き込まれた。
結論から言えば私たちのHPは若干残っていた。しかし私たち自身は“死んだ”と思えるほどだった。迫りくる炎と爆風に死んだように錯覚してしまい、気を失ってしまったのだ。
実際、静かになったので外の様子を見ようと扉を開けたドワーフ族がいなければ私たちはずっとそこで倒れていたかもしれない。
とにかく、私たちとNPCドワーフ族は兄さんたちと別れた場所までたどり着き、そこで待っていたNPCドワーフ族たちが捕えられていたドワーフ族たちと抱擁を交わしているの見て救われた気持ちになった。
本来ならあの後、兄さんたちを助けに行くのが当たり前かもしれないのだが、三人はよほど先ほどのことが怖かったらしく「今日はもう闘いたくない!」と言っていたのでダイブアウトしてもらうことにした。
私もそうしたかったが、私にはやることがあった。
そして兄さんのアトリエに到着したと同時に兄さんが帰ってきた。光に包まれながらの登場だったので向こうで死亡してしまったのだろう。
それを見て軽く文句だけ言って許してあげようとしたら、ガッツポーズをして喜ぶ兄さんを見て頭が“ブチッ!”となってしまい、気が付けば兄さんを矢でハチの巣にしていた。
悪いとは思っているが消して謝らない。
それ以上にこっちは怖かったのだから。
まあ、その日の夕食は私の好きなモノだらけのごちそうだったので良しとしよう。




