第六話:スプライト
ミシェルと名乗った男性の案内で妖精族のエリア“スプライト”を歩くことになった。
「このスプライトは最も樹海に近い妖精族の都だ。そのため私のような警備隊が常に街中や街周辺を巡回している。ちなみに、正式名称は“フェアリーガード”だ」
樹海とはフィールドのことで各エリアによってフィールドの呼称が変化している。共通エリアでは普通にフィールドと呼ばれ、エルジュ達鳥人族には嵐の空とも呼ばれるらしい。
「また、冒険を生業とする者のために食事をするところや宿屋も存在するが、外からの客人が使えるところは少ないだろうな」
「どういうことです?」
このCWOにはリアル同様三大欲求の食欲や睡眠欲が存在する。あと一つがあるかどうかは知らないが、食堂や宿屋が使えないとここを拠点にすることができなくなる。
「なんでも味が合わないそうだ。彼らはそろって『こんな苦いの食えるか!』と叫んでいたそうだ」
それほどまでなのかと疑問に思っていると、顔に出てしまったらしく近くの露店で妖精族が好んで食べる〝香草のパン″を奢ってくれたので食べてみることにする。
「……」
しかし、一口食べた瞬間に吐きそうになる。ゴーヤや抹茶など苦いモノ系にも抵抗が無いが、これはダメだ。というか、パンのはずなのに草をそのまま食べている、そんな味が口いっぱいに広がる。
一度食べたものを捨てるのはさすがにどうかと思ったので何とか完食するが、確かにこれをもう一度食べたいとはだれも思わないだろう。
「その様子だと、やはり外からの客人にはあまりおススメできないようだな」
「ええ。申し訳ありませんがこれは無理です」
「まあしょうがない。好みは種族それぞれだ」
その後もスプライトの案内が続く。ミシェルが所属する警備隊の詰所やアイテムを扱っている雑貨屋などいろんな場所を紹介してもらい、噴水まで戻ってくる。
「さて、これで一通り役に立ちそうな場所は案内したが、なにか聞きたいことはあるかい?」
少し考えて妖精族専用の武具はあるのか聞いてみることにする。
「専用とはいかないが、触媒は多く扱っている店ならあるな」
「触媒?」
聞きなれない言葉だったので思わず繰り返してしまう。
「触媒とは魔法を使いやすくするためのアイテムだ。そのまま使えるし、武器や防具に組み込むこともできる。そういえば、武器は何か持っているのか?」
そう言われたので〝初心者の杖″を見せることにする。
「なるほど、一応の武器は持っているわけか。ちなみに、私の装備はこれだ」
ミシェルは腰に差したサーベルを抜いて渡してくれた。
一度確認を取って【鑑定】を発動させる。
ちなみに〝初心者の杖″は以下の感じだ。
〝初心者の杖″・武器・C
初心者でも扱える杖。
そしてミシェルさんのサーベルはこうなっていた。
〝フェルトサーベル″・武器・HR
通常のサーベルに触媒〝フェルト″を合成させたサーベル。
攻撃力+20・消費魔力-15%・魔力増強【中】
〝サーベル″は刃が婉曲している片手剣で一般的な剣よりも攻撃力が高い。それをさらに強化している物を使っているのは、さすが副隊長ということだろう。
「お勧めの店はあそこだ。ほぼすべての商品に【魔力増強】の効果が付いてるからな」
【魔力増強】はスキルの一つだ。武器の中にはそれ自体にスキルが宿っているものもあり、それらは魔武具と呼ばれている。
「それは素晴らしいですが、結構高いのでは?」
β時代、魔武具はエリア3の一部のNPC店やエリア2のダンジョンで偶に発見されるくらいだ。それがいきなり登場しても手に入るわけがない。
「普通ならそうだな。そこで、これを渡しておく」
ミシェルから受け取ったのは緑色のチェーンに蒼い宝石が付いたペンダント。よく見れば宝石には紋章みたいなものが描かれている。
「それは俺たち警備隊の関係者である証だ。それを見せればあの店主は優遇してくれる。俺たちの武器を作っているのも店主だしな」
ミシェルの言葉を聞いて急いでネックレスを鑑定する。
〝フェアリーサティファ″・アクセサリー・Sp
妖精族の警備隊『フェアリーガード』の一員である証。
防御力+5
ランクがSp。これ相当珍しいアイテムなんじゃないか?
「いいんですか、これを受け取っても?」
「問題ない。これでも警備隊で教官も務めている。その俺が見込んだ相手ならだれも反対しないさ」
笑いながら肩を叩かれ、思わず頬が緩む。同時にこれほどの好意を裏切らないよう注意しないといけないと心に刻む。
「わかりました。遠慮なく受け取ります」
さっそくステータスを開き、〝フェアリーサティファ″を装備する。CWOでは防具を装備できるか所は頭・胸・腕・腰・足の五ヶ所だが、ネックレスやブレスレット、指輪などはアクセサリー扱いとなり、一度に三つまで装備できる。
アクセサリー装備画面を開き、一番上の空欄を〝フェアリーサティファ″で埋める。
装備確認画面でYESを選択すると握っていた〝フェアリーサティファ″が首元にかかっていた。
「ほお、なかなか似合うじゃないか」
男なのにペンダントが似合うのは少し恥ずかしいがここは我慢しよう。
変更点
序盤のスプライトの説明文「いざという時は全員が兵士となる」
⇒「樹海に近い都」と変え、住民全員が戦う設定を消しました。