第六十五話:救出!そして……
突然だが、武具やアイテムには耐久値というものがある。そしてその数が0になると【完全破壊】状態となり、ガラスが割れるようにひびが入り、やがてバラバラになって消える。
ここで注目するのはアイテムにも耐久値があるということ。つまり、耐久値は“人の手によって創られた”ならほぼすべてに存在するのだ。当然破壊不可能なモノもあるが。
【識別】を使って鍵を調べてみるとなんと耐久値のバーが表示されていたのだ。この牢屋はドワーフ族たちを閉じ込めるために魔族が創ったモノだからだろうか。しかし、ここで重要なのは耐久値が表示されていることだ。
そして俺が投げた黒いフレイムボムは当然通常のフレイムボムではない。その性能はある意味で最凶だ。
〝ブラックボム″・破壊アイテム・-
物体を破壊することに特化したフレイムボム。たいていのモノは耐久値を0にできる。しかし生物には一切のダメージを与えられない。
これはゴミ扱いの中でも最低ランクのフレイムストーンと火薬草を調合実験した結果生まれた異物だ。あまりに異物過ぎてランク表示すらない。
ちなみに作れたのはわずか1個だけ。残りのブレイズメンバーは鍵を壊して開けた。
「とりあえず、それは二度と作るなよ?」
「心配するな。 調合成功率は0.1%と表示されている」
ブラックボムも調合に成功したのでレシピに載っているのだが、これだけ『調合成功率0.1%』と表示されていた。……今度老人に聞いてみよう。他にも注意点があるかもしれないし。
俺達がやり取りをしているとアーシェたちが帰ってきた。彼らには同じように捕まっていたドワーフ族たちの救助をお願いしていたのだ。
その間に、俺・ライン・ロウの三人で周辺の捜索をしていた。残念ながらとくに成果は無かった。……妙なものは見つけたが。
帰ってきたアーシェによると捕らわれていたドワーフ族は全員プレイヤーで、さらに他のプレイヤー、特に実力者たちが別の場所に捕らわれているそうだ。
彼らが教えてくれた通りに進むと天井にまで届く扉が見つかった。先に進む道が無いためおそらくこの先に捕らわれているのだろう。
「さて、どうする?」
「そうだな。 できれば確実に助けるよう作戦を練った方がいいな」
実はこれまで魔族はおろかモンスター一匹すら出てこなかった。となれば待ち伏せは十分考えられる。
なお、救助したドワーフたちはすでにこのエリアにはいない。実は俺たちが捕らわれていた牢屋付近で、あの館で見た転移ゲートらしきモノを見つけたのだ。
当然ドワーフ族はその存在を知らなかったが俺とラインがそれに付いて話しているのを聞いた一人のドワーフ族が大声でそれを他のプレイヤーに伝えてしまったのだ。
実際は見た目が似ているだけなのだが注意する前に我先にと飛び込んだ彼らの自己責任だ。せめて本物であることを祈ろう。
扉の前で周囲を警戒しながらさっそくメンバー全員と何かを相談し合うライン。おそらくは突入後のフォーメーションとかだろう。
俺も残りの在庫を確認しながら扉を見つめた。
「すぐに助けてあげるからね、シュリちゃん」
「「シュリちゃん?」」
俺の呟きにラインとムルルが同時に俺を見る。気のせいかその目には何か異常な光が見える気がする。
「ああ、そもそもエルフ族エリアが襲われるのを知ったのはシュリちゃんからのメールだろ? そしてシュリちゃんの実力なら当然この奥に……」
「あ~アルケさん? もう言う必要ないよ」
「ん?」
アーシェの声を聞いて視線を戻すとすでに二人が扉に向かっていた。
「「シュリちゃんは俺が(僕が)助ける!」」
というかアクトを発生させ、扉を破壊して進んでいった。
……俺のブラックボムならともかく、なんで通常武器一撃で壊せるんだ? どうなってる運営?
「しょうがない、突貫と行きますか」
杖を握りながら別の手には鞭を握りしめるアーシェ。
「「「「……」」」」
アレ? アーシェッテ【両手持ち】スキルカクトクシテタッケ?
運良く(?)アーシェの鞭が使われることはなかった。
なぜなら、進んだ先はすでにラインとムルルによって制圧されており、ドワーフ族を救出中だった。どうやらそこは作業場のようであちこちにハンマーやインゴットが置かれていた。
助けているのはいいんだけど、ここにいたと思われる魔族やモンスターはどうした?
……いろいろ疑問は尽きないが、とりあえず救出には成功したので良しとする。
というかそう考えないとやってられないのが本音だ。
そういうふうに結論付け、すでに救出されたドワーフ族を見ていると、その中にシュリちゃんを見つけた。
「あ、アルケ……さん」
よろよろ立ちあがり俺に向かって歩いてくるシュリちゃん。しかし足に力が入らず倒れそうになるのを見て、俺は思わず【速足】を発動させシュリちゃんを支えて倒れるのを防いだ。
「よかった。 とどいてた……」
「ごめんね。 遅くなって」
フルフル首を振りながら俺にしがみつくシュリちゃん。つい手が伸び、頭をなでてしまうが、シュリちゃんは拒絶しなかったのでそのままなで続ける。
しばらくしてシュリちゃんが離れるとその顔は真っ赤だった。まあ、客観的に見れば『支える』と言うより『抱きしめる』のほうが正しいかもしれないからな。
「あ、ああの、わ、あたし!!!」
「うん、落ち着いてね」
見た目が子供だったので頭をなでると「ふにゃ~」なんて表情でトロンとなるシュリちゃん。
とりあえず無事を確認したので俺も救助活動をしようとして、ここがどこだかを思い出した。
「……」
「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」
俺たちを見つめるいくつもの視線。しかしその視線は嫉妬ではなく、なぜか心温まる光景を見ているかのような視線。それで思い出した。このアバター外見女性でしたね。
しかし、真実を知っているブレイズの面々はニヤニヤする者がいる一方、ラインとムルルは親の仇を見るような眼をしている。
「え~と……」
アハハと笑顔を浮かべながら頭をこれまでの人生で一番フル活動させる。
結果、俺が生き延びる道は一つしかなかった。
「じゃ、先にシュリちゃんを避難させるから」
簡易転移石の発動。すなわち、救出という名の逃亡である。
しかし世界は甘くなかった。
『エラー! 【転移】禁止エリアです!』
「え?」
「飛べ!」
ザシュ!
俺の肩を刃が切り裂く。
間一髪ラインの声が届いたので、肩で済んだが、遅かったら俺は真っ二つになっていた。
なおシュリちゃんは俺が再度抱きしめ一緒に飛んだので、なんとか刃の範囲から逃げていた。そのせいで刃を躱し切れなかったのだが。
そのまま床を軽く滑り、痛む肩を手で押さえながら振り返る。
「なんだ、こいつは」
俺を攻撃した正体、それは俺が初めて対面する魔族にして、エリア1のエリアボスと言われている“デーモン”だった。
いよいよクライマックス! 第一章ラスボスの登場です。
文中の序盤で鍵が壊せた理由ですが、この鍵はイベント専用アイテムだからです。
通常のフィールドに登場するこういう所の鍵は破壊不可能オブジェクトなので壊せませんが、監獄エリア自体がイベント専用エリアなのでこのような特殊な事例が発生しています。
*スキル説明【両手持ち】:【剣】や【鞭】・【杖】など武器系スキルを三つ以上ランク3まで上げることによって習得できるスキル。左右に違うタイプの武器を装備できる。持つ武器の種類によってはアクトが使えなくなることもある(当然アーシェはまだ習得できていません。単に持っていただけです)*




