第六十三話:内部へ
「移動している時に申し訳ないんだけど」
走りながらアーシェが訊ねてくる。はて、何か問題でもあったかな?
「さっきの吹雪は何? あんな魔法見たことないんだけど?」
「「あ」」
俺とラインの声がかぶる。そういえばブレイズのメンバーは俺が【錬金術】で産み出した攻撃アイテムを知らないんだったな。
「説明するとだな……」
あまり距離は無かったようですぐに街の門が見えてきた。門番と思われる魔族が二人戦闘態勢を構える。
「こういうことだよ!」
俺はフレイムボムを取り出して二人に投げた。
通常は赤いが今投げたのには黒が混じっている。
そのフレイムボムは導火線が短く、空中で爆発する。爆発規模は懐かしきゴブリンキングの時と同レベルと言ってもいい。そう、俺はあの時の威力に近いフレイムボムの調合に成功していた。
〝フレイムボム″・攻撃アイテム・R
〝フレイムストーン″と〝火薬草″の量を増やした強化版。
*わずかな衝撃でも爆発+投げてから爆発する時間短縮*
HP-200
効力:B
途中の*はデメリット表示だ。そしてこの『わずかな衝撃でも爆発する』がやっかいで、本当に少しぶつかっただけでも爆発するようになったしまったのだ。
……実は調合で使っているグローブにはすべり止めという目的もあり、今も装着している。〝麻痺粉″用なのも間違いではないのだが。
苦労する分その効果は絶大で、魔族二人に大ダメージを与え、追撃の〝フレイムボム″で跡形も無く消し飛ばした。同時にLvアップの音楽が流れる。
「うん。 まあまあかな」
「「「「「「……」」」」」」
その威力を見て呆然とするブレイズの面々。というかライン、なぜおまえまで? 厳密にはあの時の威力には若干及ばないはずだが。
そう考えるとやはり〝錬金石″の効果とんでもなかったんだな。
「一応補足しておくと、これらは【錬金術】で作った『攻撃アイテム』だ。アリサさんはこれらを見て新しい魔法も作ってたな~」
反応が返ってこなかったのでチラッと見てみると全員そろって〝簡易転移石″を使おうとしていたので慌てて止める。
「何してるんだ!?」
「いや、俺達必要ないかなって」
「うん。 あのアイテムがあるなら私たちいらないよね」
うんうんと頷く周りの面々。一方ため息をつく俺。
「あのな、あの威力を街中で使えると思ってるのか?」
さすがに街中であれを使うつもりはない。
「よし! 行くぞみんな! ドワーフたちをアルケの被害に合う前に救うぞ!」
「「「「「イエス、マスター!」」」」」
俺の指摘を受けて、途端に勢いよく街中に入っていくブレイズ。
「そんなに怖いかな? コレ」
そうなってしまうとエルジュに渡したのはどう見られるのだろうか? 間違いなくこの〝フレイムボム″よりも威力がはるかに上だからな。
そんなことを考えながら進んでいくとやがて中央部通じる通路に到着する。
すでにブレイズは戦闘を始めており、俺は後ろから様子を伺う。
(ラインは問題無し。他のメンバーもそれぞれ役割を保っている。カナデちゃんも、どうやら大丈夫そうだな)
館で会った時の印象から心配していたが、仲間を支援しながら近づいてきた魔族を〔スイング〕の強化版〔ブロウ〕を叩きこんでいる。
〔ブロウ〕は杖にMPを流すことで強度を増してから殴る技で、強度を増した分固くよりダメージを与えられる。
範囲も〔スイング〕と同じだからいきなりで使えないということもない。
「となれば、俺は捕えられているドワーフ族たちを探しますか」
俺はラインに《捕らわれているドワーフ族たちを探す》とリンクを送り、その場から離れた。
ブレイズの方に戦力が集中しているようで、あまり魔族と遭遇せず、見つかっても〝レインティア″で動けなくしてライジンディスクのコンボで倒しながらドワーフの街を歩き回る。とりあえず大きな施設を回っているが、なかなか見つからない。
そうこうしている間になんと一周してしまった。元々エリアとしては最小のドワーフ族エリアだったが、ここまで小さいとは。妖精族エリアの半分程度しかないな。
まあ、このエリアには歓楽街のような遊び場は無く、あるのは共同工房や個人工房、そしてインゴット販売店や武器屋くらいだからな。
フィールドも鉱石しか取れず、モンスターもそこまで強くないのでドワーフ族か生産職以外に価値はないし。
「誰も見つからないってことは、捕らわれているとすれば中央付近のどこかか、もしくは情報があった転移先とやらか」
残りのアイテム数を確認し、歩き出そうとすると足音が聞こえてきた。
しかも後ろから。
「っ!」
レインティアを準備し、振り向く。 しかし、それを投げることはなかった。
「君は!」
「お久しぶりですね」
そこにいたのは聖樹で出会った少女、セルムさん。
服装もあの時と同じ紫のドレスで、戦闘服には見えない。そもそもこんなところで会うはずのない人物の登場にどうすればいいのかわからなくなる。
「なんで、ここに」
かろうじて出た言葉を無視してセルムさんはある方角を指す。指先の先は街の中央だか、なぜか俺はそれが何を指しているのかわかった。
「ひょっとして、噴水か?」
「あらびっくり。 これでわかっちゃうなんて」
彼女に付き合っている場合でないのは十分わかっているのだが、俺の脚はいつかのように全く動かなかった。
「噴水に行くと新たに追加されてる場所があるわ。 そこに多くのプレイヤーが閉じ込められている」
「!?」
「行ってみる価値はあるんじゃない? 肝心の噴水は使い物にならないけどあなたなら転移は可能なんでしょ?」
(〝簡易転移石″のことも知ってるのか!?)
この時冷静になれれば妖精族の俺がドワーフ族エリアにいることでそう推測できると分かったのだが、当時の俺にはそんな余裕はなかった。
「きみはだれなんだ」
だから俺はそんな質問をすることしかできなかった。
「その答えはいつかわかるわ。 また会いましょう、ある意味『唯一の錬金術師』さん」
そう言ってセルムさんは歩き去っていった。共同工房の後ろに回ったところで足が動くようになり、急いで後を追うも曲がった先にはすでに彼女はいなかった。
「……」
罠の可能性はもちろんある。しかし、このままではいずれラインたちにも限界が来る。
俺は噴水を目指して走り出した。
「がんばってね」
その様子をはるか上空で見つめている少女に気づくことはなかった。
申し訳ありませんが、セルムさんについての質問にはお答えできません。




