第五十九話:無力
今回も短いです。
その知らせは一斉に飛び散った。
チャットを使えないNPCたちも神の神託から状況を知り、家に閉じこもる者や戦うために武器を装備する者などが各エリアで現れ始めた。
妖精族エリアでは事前に魔族用の対策をしていたこともあり、戦闘ができる者はフェアリーガード本部、もしくはその近隣の宿屋の空いている部屋に移住し、非戦闘民は壁で覆われている遊郭街へと避難するなどの行動が迅速に行われた。
一部工房に留まると主張する職人もいたが、最終的に彼らは自己責任という形で工房に残った。万が一のため、スプライトの出入口がある門からは遠いモノの、工房が多い北方面には少しばかり多めに戦力が用意された。
「結果として彼らが作った武具が防衛に一役買ってくれているのでいいことではあるのですが」
「ドワーフ族か。 彼らが作る武器は優秀だが彼ら自身がその武器を存分に活かせるわけではない。 そこを突かれたか」
ドワーフ族への侵攻からCWO内時間ですでに3日が経過した。
現実では経過したのは一日(=24時間)だけなので、そのままCWOにダイブし続けているプレイヤーもいるが、俺は学校があるのでログアウトし、学校が終わるとすぐにログインしていつものメンバー(ライン達ではなくアリアさんたち)と情報交換をしていた。
ちなみに俺、ミシェル、アリアさん、ティニアさん、アリサさんの五人はアトリエにいる。
なぜアトリエかというと、この状態でも俺はアイテムを調合しているからだ。
調合しているのは当然フレイムボムとイグナボムだ。そして、出来上がったアイテムと俺を保護するためにこれほどの余剰戦力が配分されているのだ。
なお、新しい攻撃アイテム各種は調合していない。説明したり効果を検証したりする時間的余裕が無いからだ。
ちなみにあの老人は武器を創るためのインゴットを調合しているので攻撃アイテムは全く作っていない。悔しいが俺よりも腕はあるはずなので手伝ってほしいが武器を製作するためのインゴットも重要だし、なにより今の俺では老人が創るインゴットは作れないため文句は言えない。
「ハイフェアリーも何人か里からこちらの防衛に回っているのでそれでなんとかなればいいけど」
「実際ハイフェアリー、特に魔力光持ちの存在は大きい。 彼らは妖精族最強の魔法使いだからな。 彼らがいるだけで住民の不安はある程度緩和できている」
人数は少ないが、街のあちこち、さらに門には2~3人のハイフェアリーが常駐している。それだけでも援軍が到着するまでなら十分耐えられるだろう。
「あれから魔族の動きはありましたか?」
MPが切れたので〝生命の甘露″で回復している俺にアリアさんが訊ねてくる。俺は首を横に振って答えた。
「これと言って重要な情報はないな」
現在わかっている情報は少ない。
まず侵攻当時に得られた「突然魔足たちが噴水から転移して襲ってきた」「多くの有力なプレイヤーが捕らわれどこかに転移させられた後噴水に何かを流していた」の2点。情報源は運よく魔族に見つからず隠れていたドワーフ族プレイヤー。
さらに捕えられていたが家で飼っている猫のせいで切断が遮断され、ログアウトできたプレイヤーが掲示板に書いた情報によると「魔族の目的はドワーフ族が製造する武器や防具」であることも判明している。実際そのプレイヤーも武器を創らされていた。
なお、捕えられているせいなのか経験値は入らなかったそうだ。
できればドワーフ族エリアに斥候を何人か送りたいがドワーフ族エリアへの転移ができない現状ではできることは防衛の強化くらいしかない。
「となると、魔族の姿が見えない理由で考えられる可能性は二つですね」
俺の話を聞いてティニアさんが二本の指を建てる。
「一つはドワーフ族への侵攻の際に打撃を受けて他に回す余力が無い」
確かに可能性の一つしては十分考えられる。しかしティニアさんの顔は次のほうが可能性があると思っているのか険しいままだった。
「もう一つは……」
ポーン
突如鳴り響く音。これはメールの着信音だ!
すぐさまメールを確認する。
(相手は、シュリちゃん!?)
「他のエリアへの侵攻準備をしているか」
『まぞく、えるふえりあ』
俺がメールを確認したのと、ティニアさんの仮説が当たったのは同じタイミングだった。
シュリちゃんから送られたメールは彼女がフレンドリストに登録した全員に送られている。送り先を見て確認した事実だ。
しかしそこに希望が無いのを俺は知っていた。なぜならそのほとんどが同じドワーフ族で、例外は俺一人だからだ。
シュリちゃん自身は初めてのVRMMOなのでたくさんの友達を作りたいそうだが、俺がブレイズで裁判にかけられたようにシュリちゃんはプレイヤーの間で高い人気がある。
それが容姿なのか創る武具なのか理由は定かではないが一種のアイドル的な存在の個人アドレスを知ることは、周りにいるファンを敵に回す行為であると彼らも知っているのか、だれも一定以上の線から近づこうとしなかった。
実際以前例のカフェでシュリちゃんが見せてくれたリストの名前には全員ドワーフの紋章があった。フレンドリストでは誰がどの種族かわかるよう名前の一番頭にそれぞれの種族の紋章が表示されるのだ。
……その時すぐに閉じるように言ったあの時がひどく懐かしく感じるのはこういう状況だからだろうか。
あれから新たにフレンドを作った話は聞いてないし、いまだに俺しかいないのだろう。
一応掲示板にはその情報はすでに書き込んであるが俺以外その情報を入手していないので半信半疑という感じだ。一応防衛は強めてくれているらしいが。
そして俺は先ほどから調合しては失敗するということを繰り返していた。その理由もわかっていた。
シュリちゃんたちが作った武具で魔族がエルフ族に向かっていることが分かっているのに俺は何もできないのだ。いくら攻撃アイテムがあると言っても俺自身の力はトッププレイヤーからすればかなり劣る。そのため、俺がエルフ族エリアの防衛に加わっても足手まといにしかならない。
直接助けに行きたくてもドワーフ族エリアの噴水広場は封印されているので転移ができない。
なので、俺はアイテムを調合しながらエルフ族の無事を祈るしかできないのだが、助けを求めてくれたシュリちゃんに対し何もできない自分が不甲斐なく、悔しくて調合に集中できずにいた。
なぜシュリちゃんだけが情報を送れたのかはいずれ説明されますのでしばしお待ちください。




