第四十八話:アップデート
総合評価が早くも10,000ptを越えました!評価していただいた皆様、ありがとうございます!
*8月12日修正:【飢え】の状態異常を「一歩も動けなくなる」⇒「全ステータス―20%+アクトの威力―40%」に変更しました*
*8月19日誤字修正:NPC好感度システムが表面され⇒表面化され*
*誤字修正:時間が減る→時間が経つ*
「知ってるか、例の話」
「ああ。 というかメール届いたしな」
昼休み、最近定番になりつつある努・空・後輩三人組と食事をしていると努が話してきた。見れば他の四人も食事の手を止め、話に興味を示している。
「今日はログインできないのですよね」
「残念だよね! ホント!」
「お、落ち着いて栞ちゃん」
今日も元気いっぱいの栞ちゃんを落ち着かせようと必死な世羅ちゃん。やはりこの二人は名前を交換すべきだ。どう見ても性格と名前が一致していない。
「でも、内容は興味深いな」
俺の意見に全員首を縦に振る。アップデートは明日の午前3時までの予定なので、学生の俺たちは明日の放課後からのログインになる。
アップデート内容は全部で三つ。
①新たな<エリア>の追加:お待たせしました!エリア1の最後のダンジョン及びエリア2が解放されます!β版よりも強化されていますので、βプレイヤーの方々も楽しめる仕様になっています!
②新システム<空腹度>:よりリアルな冒険生活を味わって抱こうと新たなシステムを導入します。『空腹度メーター』はMPの下に新たなバーが表示されます。現実同様、時間が経つと減り、バーが一定以上下がるとバッドステータス【空腹】が発動し、全能力が-5%されます。さらにバーが0になると【飢え】状態となり、全ステータスが-20%+アクトの威力が-40%となります。そして、各食糧、料理に【空腹度回復+~%】が新たに表記されます。
③NPCのAI強化:これまでは普通のNPCがより人間に近くなります。さらにNPC好感度システムが表面化され、NPC全員に各プレイヤーへの好感度設定が反映されるようになります。今まで以上に人間に近づいたNPCたちの反応を見て楽しんでください。
「エリア2までのルートが今まで見つからないわけだ。まさか実装されていなかったとはな」
少し悔しそうにパンにかぶりつく努。「うんうん」と空も同意している。
「私は空腹度が心配ですね。これまで食糧なんて持っていませんでしたから何を用意すればいいのでしょうか」
「確かにねー。パンとかなら売ってるの見たことあるけど、『フレンス』ってテイクアウトあったっけ?」
「どうだったかな?」
三人組は【空腹】の心配をしている。俺はめったに戦闘をしないからわからないが、全能力-5%は結構厳しいらしい。
ちなみに、集中しすぎのプレイヤー用なのか【空腹】時には「くぅ~」、【飢え】時には「ぐ~」と音が鳴るらしい。……必要か、コレ?
「なんでわざわざ音まで再現するかね」
「ほんとだよ!」
俺のつぶやきに声に上げて怒る空。三人組も、どちらかというとそっちのほうが心配のようだ。さすが女子。
「NPCのほうも気になりますね。どう変化するのでしょうか?」
心ちゃんがサンドイッチを咥えて話してくる。これに関しては憶測でしか話が弾まないが、すでにその恩恵を受けているプレイヤーはいるはずだ。〝紋章付きのフェアリーサティファ″や〝フェアリーガード正式装備(旧式)″がいい例だろう。
「さあ、どうなることやら」
もしかしたら単純にサービスクエストの報酬でしかないかもしれないため、特に何も言うことなく昨日の残り物の一口サイズのハンバーグを口に運んだ。
放課後、いつもならすぐさま帰る努は教室で死んでいた。
もちろん実際は生きてるが、その姿はまさに「返事がない。ただの屍のよう……」
「何を言ってるのよあなたは」
「いや、こういう時はお決まりかと」
やれやれと首を振るのは委員長こと秋庭優理。
「まあ、そう言いたくなるのはわかるけどね」
秋庭さんが見下ろす視線の先には当然机にひれ伏す努の姿。
先程の授業でいきなり小テストがあり、30点以下の者は明日の放課後に再テストを受けることになっていた。内容は先週習った範囲だったので全く難しくなかったのだが、頭が残念な努は見事28点。楽しみにしていたCWOがプレイできないと絶望したのだった。
「まあ、いい薬だろう」
「そうね。それじゃ、また明日」
「おう」
去っていく秋庭さんの後ろ姿を見送って、俺も教室を去ることにする。
「うらぎりもの~」
後方から恨めしさを隠さない声が聞こえてきた。同情はするが、ここは心を鬼にする。
「心配するな。 ブレイズには俺のほうから連絡しておくよ。『ラインは現実の戦場に身を投じているってな』」
「やめてく、うわぁ」
教室を出るときに誰かが立ち上がる音と何かにぶつかる音、そして誰かの叫びと何かが倒れる音が聞こえてきたが、無視してそのまま廊下を歩いた。
「さて、今日もこの時が来たか」
お馴染みスーパーのタイムセール目前。
今日こそはお肉だろう。そう思っているのか、お肉コーナーには大勢の買い物客、いや戦士たちが集結していた。
しかし、みなお肉の前には陣取っていない。それでは店員がここまで来られないからだ。
そうなると別のところに行ってしまうかもしれないため、店員が通るルートを開けておくのは無言の条約となっている。
やがてタイムセールの時間となる。予想通り土台を持って現れる店員。さあお宝は鶏か、豚か、もしくは……
「ただいまよりタイムセール! 本日は牛肉が全品二割引き!!」
その瞬間、そこは戦場、いや地獄となった。
「一パックだけか」
地獄を突破し、手に入れた財宝は牛肉300g一パックのみ。これだけではさすがに少ないと考え、野菜売り場に向かう。
「お、白菜が安い」
確か豆腐が家にあったはずだから今日はすき焼きにしよう。
「ん?」
頭上で豆電球が光るようにアイディアが一つ浮かんだ。
「もしかしたら、いけるか?」
俺は急いでレジに向かった。




