第四十七話:謎の少女セルム
*8月19日誤字修正:キュアポーション(ア灰色)″を見たことで⇒(灰色)*
予想通り、聖樹にたどり着くまでにほとんどモンスターと出会わなかった。出会ってもすでにボロボロで、〔スイング〕一撃で消滅した。ダメージの減少量からしてフレイムボムを味わって逃げてきたやつだろう。
実際、フェアリーガードの隊員が追ってきたし。どうやら『水仙』で会った人らしく、会釈して別れた。
そんなことを何回か繰り返し、俺は聖樹の元にたどり着いた。
相変わらず美しいとしか表現できない巨大な桜の樹。
しばらくその風景に見惚れていると、後方から草を踏む音が聞こえてくる。
振り返ると、木々の間から一人の少女が現れた。少女と言っても俺を変わらないくらいだと思われる。
太陽の光を浴びて金色に輝く髪、装飾が施された紫色のドレス、肩からは赤いバッグを提げている。靴を履いていないが、足元が薄く光っていることから魔力か何かで足を保護しているのだろう。
「あら珍しい。こんなところに先客がいるなんて」
妖精族独自の羽が見えないことから他の種族だと思われるが、あいにくどの種族かわからない。しかし隠しエリアに入れるということはそれなりに強く、妖精族にも認められた人なのだろう。
「初めまして。 セルムよ」
「ご丁寧に。 アルケと言います」
「ああ、あなたが……」
名前を告げると納得した顔をするセルムさん。するとつま先から頭まで視線を送り、その後俺の周りをくるくる回り出す。
「大して変わった感じはしないね。 ホントに本物?」
「本物って言われても、本物ですとしか言いようがないですよ?」
「それもそうだね」
にっこり笑うセルムさん。妖精族はアリアさんやティニアさんを代表するようにおしとやかな女性が多い。
俺の言葉に対して素直に感情を表現するあたり、やはり妖精族ではないようだ。
「そうだ! これ何か分かる?」
セルムさんは肩に提げていたバッグから瓶を取り出した。見た感じポーションのようだが……
「灰色?」
どこかで見たことがある。
「もしかして、石化解除用のキュアポーションですか?」
自分で言って思い出した。間違いなく俺が調合し、アリアさんに渡したキュアポーションと同じものだ。
「やっぱり!」
キュアポーションをしまい、俺の両手を握って上下に振り回すセルムさん。展開に全くついていけず、されるがままになってしまう。
「あ、ごめんね。ついうれしくて」
呆然としている俺に気づいたのか、手を離して数歩下がる。そしてごほんと一回咳きをすると、急に印象が変わる。
着ている服や見た目が変わったわけじゃないのに、纏う雰囲気がまるで違う。
表現豊かだった表情から感情が消え、まるで精巧な人形のような顔になる。彼女から発する空気に触れるだけで思わず膝をつき、頭を下げることを強要されているような錯覚を覚える。
その空気は一度体験したことがある。それは初めてティニアさんと会った時に感じた空気。上に立つ者が自然に放てるオーラ。
しかし、今感じているモノはティニアさんとは比べ物にならない。
「君は一体……」
「また会いましょう、会う機会もあるでしょうから」
風が吹き、聖樹の花びらが俺の視界を奪う。視界が開いた先、そこには誰もいなかった。
不思議な体験をしたが、とりあえずアトリエに戻ることにした。〝キュアポーション(灰色)″を見たことで、やる気があふれてきたのだ。
とりあえず、調合水と調合石を調合し、教本残りの四品の調合に挑戦する。
まずは〝調合粉末″だ。
これは事前に『〝調合石″×1+〝研磨石″×1』と分かっているので、その通りに調合する。研磨石は一度砕き、少しずつ入れるのがポイントらしい。
結果として成功し、試しにこれを使って〝錬金ポーション″を作成すると普通の薬草を2枚入れただけでも回復量が変わらなかった。これで薬草が節約できる。
他にも活用できるため時間と素材があれば量産しようと思い、次のアイテムを確認する。
しかし残りの三つはいまだに名前が未表示のままだった。どうやら、調合できないと表示されないらしい。ならば挑戦あるのみだ。
とりあえず順番通りに調合することにする。
最初の調合方法は『〝調合水″×1+〝錬金ポーション″×2+〝調合粉末″×2+〝調合石″×1』。
〝調合水″が入った窯に〝錬金ポーション″を入れ混ぜ合わせ、色が混ざったところで〝調合粉末″を加える。液が白く光り出したところで〝調合石″を入れる。しかしタイミングが早かったのか一度失敗してしまった。
再度調合し直し、今度は無事成功。完成したのは〝ポーション石″というアイテムだ。
〝ポーション石″・回復アイテム・UC
ポーション凝縮し、石化させたもの。
HP+50
使用回数3回
効力:C
「初っ端からとんでもない物だな」
完成したポーション石の効果を見て唸る。
基本的にアイテムは一回しか使えないのが常識だ。回復量は通常のポーションと同じとはいえ3回も使えるのだ。まさに【錬金術】パネェ、的な状況だ。
……そう考えると【錬金術】をクズスキル扱いしたあのカロンというプレイヤーが行った行為。あれはやはり【錬金術】の独占を狙ったのだろうか?
「……気を取り直して次の調合を」
ここで考えても答えが出るわけではないので次の調合に取り掛かる。
次の調合方法は『〝調合水″×1+〝調合石″×1』だ。
先程のポーション石よりも簡単かと思いきやかき混ぜる時間は三倍以上かかった。
そして完成したのは〝調合結晶″。効果は調合石の強化版。
「しかし、これは意味が無い」
強化版だけあって失敗確率は減少されているが今のところは調合石で十分だ。俺が攻略組に入ってるなら当然調合結晶のほうがいいが、今の俺は単なる一プレイヤーだ。
さすがにゴブリンキングのようなモンスターにはもう遭遇しないだろう。
そして最後の調合に取り掛かろうとしたがMPが切れてしまい、時間も遅くなってきたので、今日はログアウトすることにした。
翌朝、運営からメールが届いた。
内容は『アップデートについて』。




