第四十六話:世界の本質
なんとか立ちなおり、俺はアトリエに急いで戻った。
アトリエに到着した俺は全ての素材、調合アイテム、もらったアイテムを片っ端から見なおした。そのどこかに〝賢者の石″の原石があるはずだ!
「どれだどれだどれだどれだどこだどこだどこだ~~!?」
周りが散らかるのも関係なく、くまなく探す。
探すこと1時間後。
「見つからない……」
結局原石のようなモノは見つからず、残ったのは床に無残に散らばったアイテムたち。
幸いにして割れたり、汚れて品質が落ちたりしたモノはなかったが、気分は最悪だった。
「でも、ホントにどこに……」
≪アルケ今時間あるか?≫
どんよりした気分の中後片づけを始めようとしていた俺にラインからリンクが届いた。
≪どうした?≫
≪聞いて驚け! ついに隠しエリアを見つけたんだ!≫
リンクからでもラインの喜びが伝わってくる。それは大変めでたいが、俺にはどうでもよかった。
≪良かったな。攻略がんばってくれ≫
≪反応薄くねぇか、おい!?≫
しょうがないだろ。こっちは望んでも手に入らないものが手に入ると思ったら砂のように手からこぼれたのだから。
≪すまないが気分がすぐれないんだ≫
≪VR酔いか? それじゃしょうがないな。また連絡する≫
勘違いだが、今はそれにツッコム気もしない。
チャットを閉じ、片付けを開始する。
すると今度はコミュが届いた。
「差出人は、ミシェルか」
内容を確認すると、次の納品予定は分かり次第連絡する。これからその性能を確かめるため例の隠しエリアに向かうことが書かれていた。
「そういや詳しい効果を説明してなかったな」
悪いことをしたと謝罪のコミュを送ろうと思ったところで、続きがあることに気づいた。
「『忘れて行ったようなので、〝妖精の涙″はティニアさんに……』!」
そういえば、すぐさまアトリエに直行したから忘れてた!
散らかしたアイテムはそのままに、再び『水仙』へと転移した。
「はい、これが預かっていたものです」
「ありがとうございます!」
ティニアさんから〝妖精の涙″が入った箱を受け取り、すぐさまアイテムポーチに入れる。
「そういえば、前から聞きたいことがあったのですが」
「はい、なんでしょうか?」
「ティニアさんっていつも『水仙』にいますが、あまり働いているのを見かけないので、どういうお仕事をしているのかなって」
素材の選別中に遊女の方々にも手伝ってもらったが、仕事、もしくは接客があると言って途中出ていく人が多かったが、ティニアさんだけは最初から最後まで協力してくれたし、今もこうして会えている。
花魁ということだが、その仕事をしているところを全く見ていないのでどうしても気になってしまったのだ。
「私が相手をするのは妖精王や先ほどの総合隊長などの大物ぐらいなので、いつも暇しているのですよ」
「総合隊長ってさっきのフードをかぶった」
「はい」
偉いと思っていたがまさか警備隊の総司令官だったとは。
……というか大物“ぐらい”ってこの人の感性はどうなってるんだ?
「あと、総合隊長は元錬金術師でもあったのですよ」
「錬金術師!?」
「はい、その〝妖精の涙″はあの人が【錬金術】で作った最後の作品です」
「そんなもの、いただいても……」
いいのか、の言葉は口元に当てられたティニアさんの指に遮られた。
「あの人はそれで満足してしまい、以降【錬金術】を止めてしまいました。 それに、『道具は使ってこその道具』ですから」
「……なんでその言葉を?」
「この言葉は【錬金術】を多少知っている者ならだれでも知っている言葉です。 妖精族初の錬金術師がいつも口にしていた言葉らしいですよ」
出来ればその人に会って見たかったと心から思った
「少し話がそれましたが、そういうわけで私はほとんどここにいるだけなんですよ。よければこれからも来ていただけると嬉しいです」
「……それはお金を払って、という意味で?」
「そのサービスもお望みですか?」
にこにこ笑顔で、是非! と言ってしまいたいが、なぜかその後を怖く感じたので遠慮した。
……後ろから「あら残念♪」と聞こえたのはきっと幻聴だろう。
「さて、どうするか」
再びアトリエに帰ってきて床を掃除した。
散らばったアイテムは元の位置に戻し、〝妖精の涙″は念のため調合するための机に付いていた引き出しに隠すようにしまった。
普段は棚を使っているからここに入れておけば他のものと混ざってどこかに行ってしまうことはないだろう。
「しばらく調合するモノは、〝教本″があったか」
〝初級錬金術教本″はまだ調合水と調合石しか調合していない。しかしフレイムボム・イグナボムで疲れたので今日はもう調合したくない。
「まさか俺が“したくない”なんて思うとはな」
あこがれ続けた【錬金術】を実現できたのに、それを疲れたからやらないなんて、だんだんCWOがホントの現実になりつつある。
「これが、VRMMOの醍醐味なのかね」
そう考えているとのんびりしていることが勿体なく感じ、無性に何かしなければと思うようになる。
「といっても、することなんて」
そこで、先ほどのラインの話を思い出す。
人間族の隠しエリア。そのきっかけとなった妖精族の隠しエリア、その先にある聖樹。
「もう一度見に行ってみようかな」
幸い、モンスターたちは警備隊がそれぞれのボムの検証相手となっているからそんなにいないだろう。
そう考えて、俺は聖樹を見に行くことにした。