第四十四話:ギルド”ブレイズ”
*8月19日脱字修正:血を吸いたいと言ってから⇒言ってるから*
シュリちゃん(実は帰り際に「ちゃん」付けを強要された)と会った日の翌日、ラインから『ようやくギルドが完成したので、見に来てくれ』とメールが届いたので俺は“ブレイズ”のギルドを訪れていた。
ブレイズのギルドは二階建てで、この間探索した館(庭を含まない)くらいの面積があり、部屋数も今所属しているメンバー22人よりも多い三十部屋ある。
その中でも一番大きな部屋、作戦を立てたり話し合ったりするミーティングルームで俺は裁判に掛けられていた。
容疑は『超人気防具職人シュリちゃんをかどわかした罪』である。
「だから、シュリちゃんとはなにもしてない!」
当然、俺は無罪を主張する。というか、なんなんだこの裁判?
「異議あり! カフェ『フレンス』でデートしていたと目撃情報がある。 しかもシュリちゃんは顔を、顔を赤らめていたという事実も入手している!!」
異議を唱えたギルドメンバー(初めて見る顔)が平然と、途中から言うのを躊躇いながら発言する。赤らめていたのは多分【錬金術】のことを知って驚き大声を出して注意されたのが恥ずかしかっただけだろうけど、それを言った所で意味が無いことはもう分かっていた。
「なるほど。 それは重要な証拠だな」
メガネをかけた裁判長役のラインが鋭い眼光で俺を見つめる。他のギルドメンバーからも同じ視線が向けられていた。
「被告弁護人。何か意見はあるかな?」
「なにもありません」
弁護を全くしない弁護人役のムルル。もはやこれ裁判じゃないだろ。
「以上のことから決断を下す。 被告、アルケをギルドメンバー全員による串刺しの刑に処する!」
パチパチパチ!!
ラインの判決にあちこちから拍手が鳴り響き、見ればムルルも拍手していた。弁護人がそれでいいのか?
「では、刑の実行を……」
「してあげましょうか? ワタクシが」
ピキッ!
一瞬でギルドメンバー全員の動きが止まる。呆れて状況を見ているはずだった俺までも背筋を伸ばす。
聞こえてきた声からおそらくアーシェだと思うが、俺はおろかここに集まった全員が後ろを振り向くことが出来なかった。
「カナデ。アルケさんにギルド内の案内。できるわね?」
「は、はいぃぃぃ!」
おそらく扉付近にいたと思われるカナデちゃんが早足で俺の側に来て俺の手を握り誘導する。
その手、いや体全体がガクガク震えており、想像以上の恐怖が起こると悟った俺も早足で歩き、急いでミーティングルームを後にする。
なるべく見ないようにしていたが、やはり声の主はアーシェだった。その手にはあの館で手に入れた杖が、握られていなかった。
「久しぶりねぇ。【鞭】スキルを使用するのは!」
「「「ひぃぃぃぃぃ!!」」」
閉ざされた扉の向こうから大勢の悲鳴と風を切る音、そして何かがつぶれる音が聞こえた気がした。
「ほんとうに、すいません」
「いいよ気にしないで」
テーブルに置かれた紅茶のカップを口に運ぶ。なんだか昨日のリプレイみたいだが、ここはギルドの一室、食堂兼ダイニングルーム。
「全く、男ってみんなああなのかしら? ああ、アルケさんは違うって解ってるから安心してね」
「その中に俺も入れないで欲しいのだが?」
「ロウさんは興味無いのですか?」
「かわいらしいとは思うが、歳が離れすぎだろう」
現在ここにいるのは俺、カナデちゃん、スバル、そしてロウだ。
そしてあの処刑場、いやミーティングルームにいたメンバーも合わせてブレイズメンバー全員と会えたことになる。
ちなみに、βの時もブレイズは存在し、その時のメンバーはカエデを除くここにいる全員+ラインとアーシェ。そう言われるとあの時のメンバーが主力なのがよくわかった。
話を聞いていると「増えたメンバーは全員男なので残念だ」とスバルが言った。
「やっぱりアレのせいかな?」
「ラインさんはトップβプレイヤーの一角ですからね。しょうがないですよ」
現在進行形でお仕置き中のラインだが実力は本物で、ギルドメンバー誘致の際にはその力目当てで集まるプレイヤーは多かったらしい。
しかし寄生を嫌うラインの意向で一定の基準が設けられていた。
・最低でも二つ以上のスキルがランクアップしていること
・臨時パーティーを組んでも他人に嫌悪感を与えない気配りができること
・ライン自らが相手になってプレイヤー同士の戦闘、PvPの訓練モードでラインのHPを4割削ること
以上がブレイズに加盟するための条件となっていた。
最初の二つは頑張れば誰でも突破できる。メインスキル、特に戦闘系なら必ず使うからランクアップしているものは大勢いるだろう。
臨時パーティーに関しても、フィールド奥に行けば行くほど強いモンスターが出てくるのは当たり前なので、生き残ったプレイヤー同士が集まってパーティーを組むのも多いらしいからこれも難しくない。
しかし、最後の条件が相当難しい。
β時代からプレイしているだけあって動きに隙が無いし、武具も現状では最高ランクの品。少なくともレアランクの武器が無いとダメージは与えられないし、同じくらいのランクの防具が無いとすぐさま負ける。
実はすでに三ケタを超えるギルド加盟者がラインに敗れている。そういう面ではミーティングルームにいたのはそれなりに優れたプレイヤーたちのはずだ。
それを蹂躙できるアーシェは一体何者なんだろうか?
「あれ?」
そこまで考えて一つの疑問が生まれる。
「カナデちゃんって正式版からの参加だよね?」
「はいそうですよ」
それがなにか? と首を傾げ、上目遣いの目線で問うカナデちゃん。もしや、これで落とした?
「勘違いしているみたいだから説明しておくけど、カナデは私のリアル友達なのよ」
ドアを開けアーシェが入ってくる。手にした鞭が若干赤いのは仕様か模様ですよね?
「カナデは私がCWOに誘ったのよ。 ラインほどじゃないけど、私もそこそこ実力のあるβプレイヤーだし」
なるほど。そういう理由があってここにいるのか。
どうがんばってもラインにダメージを与えられそうにないカナデちゃんがブレイズに入れたのはアーシェが保護したからか。
「謙遜してるけど、アーシェにも二つ名があって『鮮血のじょおう……』」
「あら、まだ〝イリヤス″が血を吸いたいと言ってるから失礼するわ」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんな…………」
スバルの首元を掴み、引きずりながら扉を閉めるアーシェ。魔法使い系のステータスでも人が引きずれるほどの筋力があるのだと感心してしまう。
「これも若さゆえの過ちか」
「スバルさん、大丈夫でしょうか」
その光景に全く動じず湯飲みに入れたお茶を堪能するロウとアーシェたちが出て行った扉を見ながらおろおろするカナデちゃん。
そして扉の先から聞こえてくる悲鳴と風切り音。
ついでにラインから≪たすk≫とリンクが届く。
≪生きろ≫と送り、リンクを閉じて紅茶を頂く。
今日も“ブレイズ”のギルドは平常運転のようだ。
……たしかギルド加入招待状がラインから届いていたが、断っておこう。
俺はまだ死にたくない。
あと今後アーシェには逆らわないようにしよう。




