第四十話:廃墟の館
*8月15日誤字修正:文中の『ちなみに、パーティーは最大で6人まで編成でき、もう一人について聞いてみるとまだ検討中らしい。』の文ですが、すでに6人編成だったので削除しました。紛らわしいことをしてしまい、申し訳ありません*
ラインは後ろに立つプレイヤー、ギルド“ブレイズ”のメンバーを紹介してくれた。
まず同じ妖精族のアーシェ。
【火属性中級】を主に使い、【雷属性初級】を併用する典型的な攻撃型の魔法使いタイプ。
そこそこスタイルの良い体をしているとラインが発言した途端ラインの頭が火の玉に包まれる。まあ、街中ではダメージは発生しないがラインの頭はアフロ型になった。
しばらくすると元に戻り、だれも突っ込まないので俺もスルーする。
二人目はスバル。
こちらはエルフ族の女性だ。
見た目と名前から男性かと思ったられっきしとした女性だそうで、そのことを言うと背負った弓でハチの巣にされると紹介された途端、ラインの両足の間の地面に矢が刺さる。
なるほど、こうなるわけかと納得し、顔を青くしたままラインが次のプレイヤーを説明する。
三人目はムルル。
獣人族の男性だ。
武器らしい武器は持っていないところを見ると素手でのスタイルかと思ったが鉤爪で戦うそうだ。街中では物騒なのでしまっているらしい。
四人目はロウ。
竜人族の男性でこの中では一番背が高い。
力自慢な竜人族ではあまり見かけない盾を使う。しかしその力を活かし、かなり大きいタワーシールドを背中に担いでいる。さらにこの盾は特注品で、横の部分が扇のように広がり、より大勢の味方を守れるようになっている。
最後はカナデ。
これまた妖精族の女性でロウとは逆で一番小さい。実際この中では一番年下らしい。
闘うのは苦手だという理由から回復を専門にスキル構成している。しかしながら、その回復力は正式版から参入組の中ではトップクラスに匹敵する隠れた実力者だ。
「それと、俺のリアル友達のアルケだ」
「しがない錬金術師のアルケです。 本日はお邪魔にならないようがんばります」
ラインが攻略に力を入れているだけあって、他のメンバーもそれなりの武具を装備している。それに比べてこっちは珍しいとはいえ皮鎧だ。見た目的には劣ってしまい、さらに部外者でもあることから低い姿勢を取ってしまう。
それを見て爆笑するラインを杖で殴る。採取ついでの戦闘で【杖】のレベルも上げており、最近は前よりも素早く攻撃することができている。
次のステップまではまだまだだが。
「殴ることないだろ!?」
「もう一発行くか?」
こっちとしてはいつものような雰囲気だが、どうやらラインと努は性格が異なるようで俺たちの様子を見てブレイズメンバーのみなさんはキョトンとしていた。
さらに後日、掲示板に公開されたこの時の光景に『平謝りするトッププレイヤーとどうすればいいのか傍観するそのギルドメンバーたち。そして彼を仁王立ちで見つめる謎のプレイヤー』なんて名前が付けられ、軽く後悔することになった。
許しを得たラインとブレイズメンバーたちに目的の場所まで先導してもらう。そこに至るまでに出てきたモンスターはラインたちが掃討した。
ブレイズはギルド全体ではトップギルドに属している。
その中でも今日いるメンバーはラインが最も信頼するプレイヤーたちで、ブレイズの主力パーティーらしい。その連携はまさに一体となっているとしか言いようがなかった。
そんなことを考えながら、特に問題も起こらず問題の館に到着する。
「さて、ここから本番だが、みんな準備はいいか?」
ラインは全員の体制が整っていることを確認して、俺に視線で合図を送る。
合図を受け取った俺は〝錬金ポーション″を取り出してロウに渡す。俺の力では塀を超す高さを投げられないからだ。
ロウの手から投げられた錬金ポーションは楽に塀を超え、庭に落ちる。
本来なら落下ダメージで壊れる錬金ポーションだったが地面に当たる瞬間、青い光に包まれ、館へと消えた。
『扉の解除条件を確認。 扉を解放します』
無機質なアナウンスが流れ、塀の一部が地面へと沈んでいく。やがて人二人分の隙間ができると、ロウが盾を構えながら前進し、その後ろを他のメンバーが続いていく。
俺は最後から二番目に、殿はラインが務めた。
庭にある例の宝箱には目もくれず館に侵入する。なんでも明らかすぎるのが逆に怪しいらしい。
扉には特に仕掛けは無く、すんなりと館内部に入る。
ずいぶん前から人がいないわりにはきれいな内装に戸惑っているとすぐ通路が三つに分かれており、ラインが戦力を分散し始めた。
右側をスバルとムルル。左側をアーシェとロウ。そして正面、すなわち中央を俺、ラインとカナデの三つに分け、それぞれ進んでいった。
「さて、ここからは俺が前に出て、カナデは俺の援護だ。 そしてアルケは……」
「基本は杖によるラインのサポート。 後はポーションによる回復支援ってところか?」
「正解。 だんだんゲームのこと分かってきたじゃないか」
こんな状況なのに楽しそうなラインを見てカナデにも笑みが浮かぶ。どうやらうまく緊張がほぐれたようだ。
≪悪いな≫
≪気にするな。 むしろ当然のことだ≫
実はさっきのやり取りは事前に教室で伝えられたラインの指示だった。
同行するメンバーについて聞いている時に、戦闘が苦手なカナデに無理に戦闘に関わらせたくないというラインの考えに俺も同意した結果、一芝居しようとラインから提案されたのが明確に役割分担をしてカナデを後方に逃がすことだった。
なお、チャットに文字を打ち込む際カナデちゃんから疑問の視線が向けられていたが無視した。ごめんねカナデちゃん。でも君のためでもあるから許してほしい。
他にも戦闘になったときのフォーメーションや援護のタイミングなどを確認し、奥に進む。
しかしモンスターとの戦闘は無く途中で食堂を経由して廊下を歩いていく。やがて奥まで来たところで先ほど別れた他のメンバーと合流した。
「マスターも来れたってことはこの館は入り口のどこから進んでもここにたどり着くようになっているわけか」
ロウが意見を上げ、全員がそれに賛同する。
さらに奥には入り口と同じような扉があり、開けると庭が広がっていたので裏口と判断し、別のルートを進んだメンバーと意見を交換し合うとある疑問が生まれた。
「二階に続く階段が無い?」
「ああ、誰も見ていないそうだ」
塀の外から見た外見では少なくても三階はあると思ったのだが俺たちを含め誰も二階に上がるための階段を見ていないらしい。
「ここにきて謎解きか。 頭脳戦は苦手なんだがな」
そうつぶやいたのはムルル。鉤爪を使うことからも彼が肉弾戦を好むのは予想していたが、ここまで渋るとは。よほど自信がないのだろう。
「アルケさんは何か気づいたところがありませんでしたか?」
俺に尋ねてくるアーシェさん。ここに入る条件からして【錬金術】が関連していると考えたから俺に尋ねてきたのだろう。
「判断材料が少ないな。一応全部見て回ってみたほうがいいと思うけど、どう?」
ラインを伺うと「それもそうだな」と言い、中央には特に何もなかったので廊下を右側から一周することにした。
その途中気になることがあったのだが、まだ確信が持てなかったので何も言わず、反対側も歩く。
そして再び合流した場所に戻ってきたところで、再び訪ねてきたラインの質問に答えるため、俺は気になったあの場所に足を進めた。