第三十八・五話(番外編):指輪がもたらした影響
「笑い話が少ない」と友人に言われたので追加してみました。
*8月12日修正:アルケの外見が女性だった設定を忘れていたので話を書き換えました*
*8月19日誤字修正:遊女にはだれも合わせるつもりが⇒遊女には誰も会わせるつもりが*
「で、どうやってもらったんだアレ?」
「だから言えないんだってば」
ここは現実世界の俺の教室。そこで俺は努から何度目になるかわからない質問をされていた。
「いいから吐け」
「とうとう恐喝になってるぞ?」
「だってさ、間違いなくレアアイテムだろ?」
ちなみに称号の付属アイテムのためかあの指輪は装備品として扱われず、アイテム欄に埋まっているがアイテム重量はまさかの0。そう考えると確かにレアアイテムだが、効果は一切ない。称号を手に入れたという証なので指輪は単なる証明品でしかないようである。
「ランクはレアじゃないぞ?」
「その“レア”じゃねえよ」
ごまかせると思ったがうまくいかなかった。いつもならこの程度の嘘でも十分なはずなのだが。
「ちなみに、次の数学で小テストがあるとのうわさが……」
「じゃあな!」
言い終わる前に自分の机に戻って教科書を開き始める努。
……どうやら勘の良さはゲーム関連しか働かないようだ。
その後本当に小テストがあり、努には感謝された。
さて、場所は移ってCWOの中。
最近アトリエでしか活動してないので久しぶりに外に出ることにする。
一時は指輪のことで女性プレイヤーたちに追われる身となったが、それは一応の解決された。なんでもドワーフ族のある男性プレイヤーが俺の指輪をヒントに指輪の製造に成功したそうだ。今まではイメージがなかなかわかなかったようだが、それがようやく形になったということらしい。
感謝の気持ちとしてわざわざ噴水の前で待っていた彼は完成した指輪をプレゼントしてくれた。よく見ればどことなく俺の指輪に似ているデザインだ。
「で、実際どこで手に入れたんだ?」
「いい加減しつこいぞ」
そんな彼と同じく噴水の前で待っていたのはライン。用件は当然指輪について。
「システムコールをご希望か?」
「いやいや正当な理由として判断されるだろう」
防犯という名目でプレイヤーにはシステムへの直通連絡手段がある。主にハラスメント対策だが、このシステムコールはボタンを押すなどの動作は必要なく、ただ「システムコール」と言うだけでいい。ただしシステムコールの前後に音声が発生した場合は『単に話の中で出てきた』ということになる。
なお、システムコールの対応役は天使でそれなりに容姿に優れた娘ばかりだ。そのため、一時期システムコールの連発が発生した。そして多くのプレイヤーが天誅された。
「というわけで、システムコー……」
「ストッーーーーーープ!
容赦なく言おうとした俺の口をふさぐライン。やはり怖いらしい。
「ぷは。 そう思うのならいい加減諦めろ」
「いや、諦めない!」
「システ……」
「ヤメテーーーーーー!」
しばらくラインとそんな悪ふざけをして楽しんだ。いい気分転換になったな。
とそんなふうに思っていた数十分前。そして今、俺はアトリエの中で頭を抱えていた。
「なんだ、これ?」
それは掲示板の一つ『晒し版』だ。
なぜ俺がこんなものを見ているかと言うと、エルジュからメールが届いたからだ。
『兄さんのことが書かれてるよ』と書いてあったから恐る恐る覗いてみると、さきほどの噴水でのやり取りが話題となっていた。
なぜそれが晒しなるのかと言うと『トッププレイヤーの一人と所属不明のPCキャラが密会!?』という内容になっているからだ。
「やっぱりこの外見だと男に見られないのかな?」
初めてラインとエルジュと会った時も勘違いされたこと思い出し、キャラ変更も考えたのだが、そうするとせっかく手に入れたアトリエを失うことになるのでそれは出来なかった。
それがこんなことになるとは思わなかったが。
「一応、否定の内容を書き込んでおくか」
不慣れな操作を行いながら『話に上がっているプレイヤーとはリアルでもクラスメイトなだけでそういう関係ではありません』と入力する。
「これで鎮火されるだろう」
そう思い、掲示板を閉じて調合に挑んだ。
そしてラインは大勢のプレイヤーに追われていた。
「あんな可愛い娘とクラスメイトだと!」
「ちくしょー! トッププレイヤーはゲームだけでなく、リアルでも勝ち組なのかよ!」
「これは祭りを起こすしかあるまい!」
「「「「「「そうだ! 祭りだ! 祭りだ! 血祭だ!!!」」」」」」
「あのバカーーーーーー! リアルのことをかくのはマナー違反だろうがーーーーーー!」
結局、アルケがしたのは鎮火ではなく炎上なのだが、掲示板を見ていない彼がそれを知る由も無かった。
「「「「「「ひゃっはーーーーーー!」」」」」」
「ヘルプミー!」
ちなみに、追っている団体の中にブレイズメンバーが混ざっていたが、どうでもいいことである。
ラインが追われている中、その元凶とも言える人物はいつものように過ごしていた。
「ティニア様、お食事の時間となりました」
「ありがとう。 すぐ行きます」
アルケこと光子郎が危機的状況にありながらそれの元凶であるティニアはいつも通りの生活を送っていた。
食事の時間となったので大広間へ移動する。その際にあの部屋の前を通ることになった。
「本当に不思議な人」
最初は恩返しのつもりだった。それも個人的な都合だったので、場所は提供するが自分以外の遊女には誰も会わせるつもりが無かった。
しかし一生懸命鑑定する姿やミシェルという隊員と楽しそうに笑う姿、なによりたまに訪れた自分に接する態度が特に印象的だった。
(あんな“素”でいられたのはいつ以来かしら?)
対外的には〝フェアリートレード″取締役“『水仙』の花魁”である自分。ならばこそ自室以外ではいつも仮面をかぶっていた。しかし彼の前ではいつの間にか素の自分で接しており、彼と共に過ごす時間を楽しみにしていた。
だからこそ、フェアリーガードに協力してもらい、彼を長時間ここに留めたのだ。そして思惑通り【『水仙』の主】の称号を彼は手に入れた。
「フフッ」
それにより苦労していることは話しに聞いている。しかしそれでもティニアは後悔していなかった。
「次はいつ会えるでしょうか」
ティニアは今日も広がる青空を見ながらそう呟いた。
そしてもう一人の元凶、実際には(二人が出会うきっかけとなったという意味で)その大元とも言える人物は悩んでいた。
「なんでこうなったのでしょうか?」
依頼された薬剤を作っている時でもつい考え込んでしまう。
恩を返したいという気持ちには賛同できる。というか本来なら自分が率先してお礼をするべきなのだ。
それはお金やアイテムでは到底治まる物ではない。
そのために何をすればいいのか考えてる最中、あの話が飛び込んできた。
『“水仙の花魁”ティニア様が婚約を発表した!』
アリアも雑貨屋を営んでるためフェアリートレードの会合に参加している。その時突然舞い込んできた情報により、その日の会合は中断せざるを得ないほど衝撃を与えた。
(本気……なわけないですよね?)
その話を聞いた後急いでアルケにコミュを送り真相を伺ったが、彼ははっきりとNOと答えた。
しかしティニアのほうは『さあ、どうでしょうか?』というあいまいな答え。
(しかし、なぜ私が悩むのでしょうか?)
アルケは恩人でいつかご恩を返さなくてはいけない相手だが、そこまで親しいわけではない。
しかしあの話を聞いてからなぜか胸が、心が時々痛む。
「わたしは……」
木材の天井を見上げる。その頭にはアルケのことが浮かんでいた。
……その結果、薬剤の原料となる薬草は元が何かわからないほどの物体となってしまい、師匠でもある親から激怒されることとなった。
当然、アルケは二人の考えや心境を知るはずもない。
そして追いかけっこはラインが石に躓いて捕まり、全員からボコられるまで続いた。ちゃんちゃん♪