第三十四話:教本のアイテムたち
*8月15日誤字修正:〝調合石″の説明文中=同じような意志⇒同じような石*
翌日、いつものように学校を過ごし、CWOにダイブする。思えばここまでゲームにのめりこんだのは久しぶりだなと思いながらいつものアトリエが視界に映る。
「さて、今日は教本のアイテム調合だな」
〝初級錬金術教本″に書かれていたアイテムは全部で6個。しかし昨日読んだ時に読めたのは3個だけだった。
「そういえば、昨日ランクアップしてたよな」
そう思い出し、もう一度教本を読んでみるも数は増えない。しかしなぜ増えないのかは判明した。
「最初の三つが無いと調合できないというわけか」
必要な素材のところすべてに最初の三個が書かれていた。一つだけのもあれば複数必要なモノもある。
「そういうことなら、まずはこの三個を作らないとな」
『レシピ』を取り出し順番に調合に挑戦する。
まずは〝調合水″。
いつも窯に入っているあの水だ。今更だが、これが無かったからゴブリンキングの時に【錬金術】が発動しなかった。
さらにあの後ヘルプで【錬金術】を詳しく調べたところ、〝調合水″があれば窯が無くても【錬金術】は使用できることが判明した。ただし、一度調合したものに限り、窯で作ったものに比べるとランク・効力ともに低下する。
調合方法は〝普通の水″にMPを注ぎながら混ぜるだけ。まあ、【錬金術】をメインスキル枠に入れていることも条件なのだが。
しかし水を溜めるための容器が無いのでこれは後回しにしよう。すぐにできるし。
お次は〝調合石″。
〝錬金石″のようにストラップにつけることで【錬金術】を発動できる石だが、説明によると失敗することもあるらしい。簡単に言えば劣化版の錬金石、いや調合石が基本として存在し、その上に錬金石があるのだろう。もしかしたら間にいくつか同じような石があるのかもしれない。
あの老人に訊くのが一番早いがどうせ答えてくれないだろう。
「それは自分で確かめるのだ、若人よ」とかいいそうだからな。
調合方法は『〝調合水″×1+〝魔力が込められた石″×1』と書かれている。フレイムボムを作るのに魔力石を使いきったので改めて採取する必要がある。というわけでこれも後回し。
最後は〝調合粉末″だ。
名前から想像した通り、調合石の粉末だ。俺が錬金ポーションを調合した時に薬草の粉末を入れて混ぜやすくしたのと同じ原理で、混ぜることで調合の成功率を上げ、効力を上げることもできるらしい。
調合方法は『〝調合石″×1+〝研磨石″×1』と書かれている。〝研磨石″は初めて見るが、おそらく読めないアイテムの中に含まれているのだろう。
それぞれの調合方法を確認した結果ある事実が判明した。
「どれもできないじゃないか……」
せっかくのやる気が一気にしぼんでしまった。今日はこのままログアウトしてしまおうかと思ったが、そんな時一通のメールが届く。
「お、メール。てか本当に届くんだな」
CWOの説明書にもメールの存在は明記されていたが使う機会があるとは思わなかった。
実際これまで何かあればチャットを使ってたからな。しかしグレー表記の時はメールを送信しておけば要件を伝えられるということに気づく。
……これだから現実でも電話帳登録件数一ケタの人間は困る、と自分で自分にツッコミを入れる。
「差出人はどうせあの二人なんだろうけど」
俺のCWOのアドレスを知っているのは二人だけだ。ちなみにアドレスはアバターネームと同じ。宛先に相手のアバターネームを入力するだけでいいので現実よりやりやすいのはうれしい。
そういう意味では後輩三人も同じ条件だが昨日会ったばかりの三人が俺にメールを送るわけがない。
「???」
しかし差出人を見てあまりの衝撃のあまりに?マークを頭の上で量産する俺。
これがアニメとかなら?マークが俺の頭上をくるくる回ってるだろう。それほど差出人の名前が衝撃的だった。
「こんにちはー」
ドアを開け、店の中に入る。基本的に涼しい気温に設定されている外に比べて随分と暑い室内。出迎えたのは無人のカウンターと両壁に飾られている武具。奥からはハンマーを叩く音が響いてくる。
「こんにちはー!」
音に負けじと声を上げると音が消え、奥から一人の妖精族が出てくる。
「おお。あんたか。鎧は直っているから確認してくれ」
出てきた妖精族はオウル。先ほどのメールの差出人だ。内容は『鎧の修理が終わったからいつでも取りに来てくれ』の一文のみ。
カウンターに置かれた〝フェアリーガード正式装備(旧式)″は確かに直っていた。確認のため【鑑定】を使って【魔力増強:大】が機能していることも確認する。
装備して不具合が無いかを確認するとオウルは「じゃあ、またな」と言って奥に戻ろうとするので急いで引き留める。少し不機嫌に睨んできてので眼光が怖く、口を閉ざしそうになるが、どうしても聞かなければならないことがある。
「なぜ俺にメールができるのですか?」
「そのメールって名前は知らないが、『コミュ』は妖精族、いや全種族が使える情報伝達手段だぞ?」
オウルの発言を聞いて俺は口をあんぐり開けていた。ただ単に驚いていただけなのだが、その仕草から俺が『コミュ』について何も知らないと思ったらしくいろいろ話してくれた。
俺たちがメールと呼んでいるコミュはかつてまだ共通エリアしかなく、全種族が共存していて時代に生まれた魔法で、内容はメールと同じ。唯一違うのは呼び方だけ。
「そうだったんですか」
「ホントに知らなかったのか? 外からの連中でもたまにしていたようだが?」
オウルが見た光景はおそらくメールか掲示板への書き込み、もしくはチャットだろう。どれも操作自体は同じようなものだからそう考えてもおかしくない。
「いや、俺たちはコミュをメールと呼んでいるので」
「ふーん。まあ、世界が違えばそういうこともあるということか」
立ち寄ったついでに水を溜める容器がある場所を知っているか聞くと大きな桶をくれた。
鍛冶をする際に暑くなりすぎる部屋の空気がそのまま店の中にまで入らないよう、ドアの近くに温度を下げるようの冷たい水が入った桶を設置しているようだ。それ用に購入して使ってなかったモノらしく「俺には必要ないからやるよ」と言われ譲り受けた。
鎧といい、桶といい、オウルにはもらってばかりなので研究用に残しておいた火薬草を少し差し出した。オウルは喜んでくれたがこれではまだ不十分なのでフレイムボムが大量生産できるようになったらプレゼントしようと決意する。
アトリエに帰ってきてさっそく水を溜める。実はアトリエの裏に井戸があり、そこから汲むことができる。時間があれば近くの土を耕して薬草や火薬草が栽培できる畑を作る予定だ。
鍬とか肥料とか必要な資材がたくさんあるのだが……。そもそもできるのか? 畑。
それはともかく、ここの水は品質Rとそこそこ優秀なので効力Bの〝調合水″が作れた。
その勢いで〝調合石″も作りたいが、残念ながら魔力石が無い。
近所に転がっている石を【鑑定】してみたが、30個検査して当たり0なのでやはりフィールドに行かないとないのだろう。あの隠しエリアに行けば大量にありそうだが、一人で行ったら死ぬのが目に見えている。
「まてよ?」
ふと思いついたアイディアを試すために、俺はウィンドウを表示させた。




