第三十二話:通常の冒険
「っと、そろそろ時間か」
どうやらボーとしていたらしく、時計を見るとあと少しで集合時間であることに気づき、急いで調合を行い、アトリエの扉を開けた。
「まだ来てないのか?」
待ち合わせ場所はスプライトの噴水広場になった。これは俺のわがままでアリアさんに〝キュアポーション(灰色)″を渡すためだ。
完成した〝キュアポーション(灰色)″を渡した瞬間、泣いてお礼を言われた時は驚いたが、これで妹が助かると喜んでいたのでよかったと思う。報酬として5000セルとコップなどの生活雑貨数点をいただいた。
そしてもう一つ手に入れたモノがある。それは〝初級錬金術教本″。しかしもらった相手はアリアさんではない。
「なんで初めから協力しないかなぁ」
実はこれをくれたのはあの老人。偶然アリアさんの雑貨屋で買い物しているところに遭遇し、俺が〝キュアポーション(灰色)″を渡して店を出た後でくれたのだ。
しかもさらに衝撃の言葉と共に。
「何が『試験としてちょうどいいと思った』だよ」
そう、あの老人はどこからかアリサさんのことを知っていて事前に〝キュアポーション(灰色)″を準備していたのだ。なんでもハイフェアリーの誰かから依頼があったらしい。
そして俺がアリアさんから依頼を受けたこと知って俺にやらせたのだ。
「あの老人、いったい何者なんだ?」
俺が老人について疑惑と怒りを感じながら歩いていると前方からもう一人依頼と関係のある人が歩いてきたので声をかけた。正しくは約束だが。
「ゴブリンキングだと!?」
そう、その相手とはミシェルだ。昨日オウルも驚いていたが、やはりゴブリンキングは想定外らしい。
「報告感謝する。 これは急いで調査しなければ」
ミシェルさんは背中の羽を羽ばたかせ飛翔し、北東へと消えた。確かあっちには詰所があったはずだから上司に報告に言ったのだろう。というか、あの羽飾りじゃなかったんだな。
噴水広場に到着し、しばらく待っていると五人そろって現れた。
後輩三人組みもエルジュ同様鳥人族だった。
ただしスワンが白、シオリンはスカイブルー、リボンが赤とそれぞれ羽の色が異なっている。
そして今になってエルジュの天使の羽が普通でないことを知った。だって、三人の羽は明らかに鳥の羽って感じだったから。
ちなみに全員弓を装備していた。
「悪い、待たせたか?」
「いや、そんなに待ってないから安心しろ」
「こうし……じゃなかったアルケさん。ここは『今来たところ』って言う場面でしょ!」
「……男同士で言っても虚しくないか?」
相変わらずテンションの高いシオリンにツッコミを入れ、俺たちは共通エリア『最初の街』へと転移する。
久しぶりの共通エリアだが、スプライトのほうが落ち着くと感じるのは俺もこの世界に少しは馴染んできた証拠だろう。
「それで、今日はどうしますの?」
「まだ三人とも、というか兄さんが戦闘に慣れてないからエリア1の序盤でレベルアップだよ。最低でもレベル十二以上、主要スキルをステージ2に上げないとエリアボスはおろかフィールドボスもきついから」
スキルには段階が五段階まで存在し、例えばエルジュの【弓】は現在第二段階の【長弓】、ラインの【剣】も【長剣】となっている。段階が上がると今まで装備できなかった武器を装備できるだけでなく、アクトの威力や効果が飛躍的に上昇する。
なお、エルジュも言っていたようにそれぞれの段階を『ステージ~』で表現している。
というわけでさっそくフィールドに出ると、懐かしきワンワンが四匹の群れで出迎えた。
「じゃあ、兄さんよろしく」
「え、俺だけ?」
エルジュが後ろに下がり、ラインや後輩三人も後ろに下がる。
「兄さんと違いみんな少しは戦闘経験してるもん。だからこの程度のモンスターじゃ相手にならないの」
「了解」
βプレイヤー二人はともかく、一応後輩の三人には負けられないと〝錬金術師の杖″を構える。突進してきたワンワン達だが、その速度はゴブリンキングの剣と比べれば遅い。楽にかわし、カウンターの要領で〔スイング〕を当てる。
なんどか爪や牙が当たり、防具が初心者装備に戻っているので少しダメージが受けるも、なんとかワンワンの群れを全滅させる。
「「「おぉー」」」
パチパチと拍手の音が聞こえる。振り向くと後輩三人だった。ちょっとうれしくなるがそこをエルジュがしっかり注意する。
「はいはい、これくらいはできて当然なんだから、みんなもあまり兄さんを調子づかせないの」
エルジュの注意に「「「は~い」」」と息のそろった返事をする三人組。
その後もしばらくは俺一人での戦闘だったが、しばらくすると三人組も参加し、エルジュとラインの指導の下で訓練を行った。
結果、三人は【弓】の段階が上がったようだが俺の【杖】はまだまだのようだ。
そしてエリア1の最初のダンジョンの近くまで来たところで引き返すことにする。
エリア1には5つのダンジョンがあり、それぞれ出現するモンスターに特徴がある。最初のダンジョンはHPが高く、二番目は防御力、三番目は攻撃力、四番目はスピード、そして五番目がそれらの総合で5つのダンジョンを突破した先にエリアボスがいる塔があるらしい。
本音を言えばダンジョンを見て見たかったが疲労がたまっていたので断念することになった。
「お疲れ様です」
「おつかれ~!」
「おつかれ様でした」
街に帰ってきた俺たちは街の中にあるカフェにいた。味もきちんとしていて本当にデータなのか疑うところだ。
「さて、この後三人の武器を見に行くとして、兄さんたちはどうするの?」
カフェオレを飲んでいたエルジュが尋ねてくる。
「俺はもう一度エリア探検かな」
ラインは再び隠しエリア探しに乗り出すらしい。すると五人の目が俺に向けられた。
「俺はアトリエに戻って作業だな」
まずは帰って〝初級錬金術教本″を読まなくては。しかし俺の予定は残念ながら変更されることになった。
「〝アトリエ″って何ですか?」
リボンとしては単なる疑問だったのだろうが、その瞬間、廃人二人の目が変わった。
(しまった~!!)
そして逃げる暇すら無く二人の手が俺の肩を握った。