第二十八話:錬金術
思いついたアイディアを実行するために一旦調合スキルを視界の隅に置き、スキルウィンドウを表示し、保留ウィンドウを呼び出す。
保留しておいたスキルの中から一つを選び、そのスキルをサブスキル枠に入れる。
そのスキルとは【付加魔法】。
【鑑定】を一旦サブに入れ、近くに合った石を拾い【付加魔法】を発動させるも何も起こらない。
一瞬動揺するがすぐさま【付加魔法】の効果を確認する。
【付加魔法】:魔力がある物に魔法属性を追加させる。
それを見た俺は【鑑定】を発動させようとするもMPが無いことに気づく。
しかしこれについては打開策があった。
俺は急いでポーチからあるアイテムを取り出し食べた。それは〝アイムの実″というアイテムでその効果は“MP+10”。
それにより魔力を回復させた俺は【鑑定】で魔力を持った手ごろな大きさの石を拾い、【付加魔法】を発動。
これにより回復した俺のMPは0に戻る。そしてアイムの実は一個しかなかったのでもうMP回復はできない。
それでもさすがはランクSpと言うべきか、〝錬金石のストラップ″の調合は錬金釜が必要ないだけでなく、MPも必要としないため【錬金術】は使用可能だった。
拾った石に【付加魔法】を当て、先ほど見た〝フレイムストーン″を作り出す。これを作るために【付加魔法】を取得したのだ。
【鑑定】が使えないため品質とかは全く分からないがこの際そんなことは無視して調合ウィンドウを再び目の前に戻す。
そして完成したばかりのフレイムストーンをベースに採取したばかりの火薬草をありったけ混ぜ合わす。うまくいけば火薬草の効果でフレイムストーンの威力が上がると考えたのだ。
そう、俺が考えたのは錬金術の基本攻撃アイテムである“爆弾”の調合だ。
攻撃アイテムが存在しないCWOだが、錬金術はそんな『常識』に縛られない存在だ。その可能性を信じ、俺は爆弾の調合を試みる。
しかし、ここで思わぬ障害にぶち当たる。
『調合用の水が選択されていません』
その文字を見て思い出す。
これまで【錬金術】に使用していた窯にはある一文が添えられていた。
『中身の調合水はいくら使っても無くならない』と。
つまり、【錬金術】を使用するためには素材の他にそれらを混ぜるための特殊な水が必要だということだ。
そしてそんなものを俺は当然持っておらず、他のメンバーが持っているわけもない。
「ここまで来て!」
火属性を強化できる火薬草を使えばフレイムストーンを強化できるはずという考えは間違っていないはずだ。
しかし、創れないのならば意味を持たない。
「ちくしょう……」
俺の中で輝いた光が黒く覆われていく。
しかし考えを改め、せめてラインのフォローだけでもとランクの高い薬草を使ってポーションを調合しようとする。
『調合用の水が存在しません』
結果はやはり無理。他にもいくつか別の組み合わせを試したが、どれも『調合用の水が存在しません』のメッセージが表示されるのみ。
信じた光が潰え、その場で膝立ちになる。
視界の先ではラインがゴブリンキングの棍棒に吹き飛ばされ、HPバーが赤く染まる。
もう【錬金術】はあきらめ、〝錬金ポーション″で支援しようと調合ウィンドウを消そうと手を伸ばす。
「……」
次々とウィンドウが消え、いよいよこれで最後となった時、残っていたかすかな光が叫ぶ。
『なにをしている!?』
俺の本心が消すことを拒否していると感じた。それは光の俺が発した最後の叫び。
『見落とすな! すでに答えは表示されている!!』
「こたえ……?」
消していなかったウィンドウを見つめる。奇しくもそれは最初に試したフレイムストーンの調合画面だった。
そして気づいた。そのウィンドウと他のウィンドウの相違点に。
「『選択していない』と『存在していない』?」
ウィンドウはどちらも『調合不可能』となっていたがその理由が異なっている。
『存在していない』は文字通り調合のための水が無いという意味だろうが、『選択していない』ということは調合水以外でも調合が可能だということではないか?
そして俺のアイテムポーチの中には確かに水が存在する。
「…………まさか」
俺はウィンドウを一つ前の画面に戻し、〝フレイムストーン″と全ての〝火薬草″を選択。そして〝錬金ポーション″をそのリストに加える。
そして調合の文字を押すと『調合を開始しますか? YES・NO』が表記されたウィンドウが現れる。
「錬金の神よ、感謝します!」
おそらく受験以外で初めて神なる存在に感謝をささげ、YESを選択する。
一瞬目の前が白く瞬き、俺の手には一個の細長い赤い物体が握られる。
その光を脅威と思ったのか、ゴブリンキングがラインを再び吹き飛ばし俺に向かってくる。
地面に背中を強打しながらも起き上がったラインが「逃げろ!」と叫んでいるが、俺はゴブリンキングめがけて走る。
いまだにMPが足らず【速足】は使えないため現実世界の俺の走り程度の速度しかない。
自暴自棄になったと思ったのかゴブリンキングの口がニヤリと笑い、棍棒を地面に水平に構える。そのまま俺が近づいたら横に一薙ぎするつもりなのだろう。
俺は速度を落とさずゴブリンキングに近づく。
ゴブリンキングが棍棒を横に振りぬき、巨大な壁となって俺に迫る。
俺はそれをスライディングでギリギリかわす。
それでも兜に当たり、一部が砕け散る。しかし俺自体は傷を負わず、すぐさま起き上がり、まっすぐゴブリンキングにとびかかる。
これまでないほど驚愕し、動きを止めたゴブリンキングに向かって俺は手に握った物体を投げた。
物体は俺の手から離れた途端、物体の先に付いた紐が引火し、俺は手を交差させ顔を守り衝撃に備える。
そして物体がゴブリンキングの鼻先にぶつかり、爆発する。
フレイムストーンの特性と採取した大量の火薬草の効果で火属性が強化されたその威力は残っていたゴブリンキングのHPをすべて奪うほどの大爆発だった。
もちろん俺も余波で吹き飛ばされ、再び光の幕にぶつかる、はずだった。
「お兄ちゃん!」
ぶつかるその瞬間、横から飛んできたエルジュが俺にぶつかり、エルジュ共々広場を転がる。
「空、無事か?」
「なんとか。でも目が回る」
空、いやエルジュが無事であることに安堵し錬金ポーションで回復させる。ついでに俺も飲んだ。というか、HPの残量なら俺のほうが危険域だ。
……というかもし光の壁にぶつかっていたらそれだけで俺は死んでいただろうぐらいぎりぎりだった。
視線を上げるとラインがアリアさんを支えながらこっちに歩んでいる。
ラインは「無理しやがって」と言いたいような呆れた笑顔で、アリアさんはボロボロ涙を流しながら、同じく笑っている。
全員がそろったところでファンファーレが流れ、『Clear!』の文字が視界に表示される。
それを見て声を上げて喜ぶエルジュとライン。アリアさんにはこの表記が見えないので急に声を上げた二人に驚いている。
一方「俺はまだクエストが終わっていないのにクリア?」と全く違うことを考えていた。
そして配布される報酬。その上には『エキストラボス“ゴブリンキング”を討伐』の表記。
どうやらアリアさんのクエストと今回の戦闘は無関係だったらしい。
「だから、どうしてこう面倒事に巻き込まれるんだ……」
脱力する俺、報酬を見てさらにテンションが上がるエルジュとライン。どうしていいかわからずおろおろするアリアさん。
最後はグダグダになったが、こうして俺たちは無事ゴブリンキングの討伐に成功したのだった。