第二十六話:初めてのボス戦
*8月19日誤字修正:削りゆく作戦⇒削ってゆく作戦*
「グォォォォォォォォォォォ!!」
一際大きなゴブリン、『ゴブリンキング』の咆哮と共に戦闘が始まる。
襲いかかってくるエリートゴブリンたちをラインの光の一閃で迎撃し、倒し切れなかったゴブリンはエルジュの矢とアリアさんの魔法でとどめを刺す。それを阻止しようとアーチャーゴブリンやメイジオークが対応するが、こっちのほうがレベルは上のため、相殺できず威力の落ちた矢と魔法がゴブリンたちに降り注ぐ。
このクエストを受ける前にアリアさんは「それなりの実力があります」と言っていたが、【火属性魔法】でもステージ2にならないと取得できない〔ファイアランス〕を撃てるだけでも現在のトッププレイヤーに少し及ばないくらいの腕前だということだ。
そんな中で俺の役割はポーションを用いてのヒーラー。しかし戦闘開始してから五分程度たったが〝錬金ポーション″、しかも回復量が低いモノをラインに一回念のために使っただけ。
「他人から見れば完全に寄生だよなこれ」
寄生とは高いレベルのプレイヤーとパーティーを組んで行動し、レベルを上げる行為だ。モンスターから得られる経験値を自動分割できる機能がCWOにはあり(承諾は任意)、それによりレベルの低いプレイヤーを無傷でレベル上げさせるができるが、この方法はCWOの公式ページで『推奨しない』とはっきり明記されている。
行為そのものが卑怯というのもあるが、これはVRMMOだ。コントローラーではなく、仮とはいえ自らの体で行動するため、いざというときに何もできない事態が起こることを防ぐための処置とされている。
実はエルジュとラインから「せめてもう少しレベルを上げたほうがいい」と言われ、自動分割機能の使用を進められ、今現在それにより経験値が大量に入り、レベルがどんどん上がっている。しかし、俺の本命である【錬金術】は調合しないとレベルが上がらないから全く意味が無い。レベルが上がることでMPが増えることに関しては大いに助かるが。
そんなことを考えているとまたもラインのHPが2/3になりそうなので錬金ポーションを遠投する。放物線を描き、錬金ポーションは見事ラインの頭にぶつかり、瓶は割れ中身の液体がラインにかかる。回復量は落ちるが、今のように対象が遠かったり、飲む余裕が無かったりした時にはこの方法を用いることが多い。
戦闘開始から二十分ぐらいが経過し、ゴブリンキングの周りにいたゴブリンの数は最初の頃に比べて3割程度。しかしゴブリンキングはいまだに無傷で動かずにいる。
たまにエルジュとアリアさんが狙うも、近くにいるタンクゴブリンによって防がれている。
どうやらタンクゴブリンでもさらに上の個体らしく、【盾】のアクトの一つ〔ワイドプロテクト〕でより広い範囲を防がれている。
まあ、この調子でいけば勝てると思うが、難易度の高い隠しクエストがこの程度のわけが無い。
実際だれもこの状況を楽観視していない。
何かできることはないかと変わりゆく【鑑定】を発動させ、くまなく観察してみると何かが【鑑定】に引っかかる。
「!?」
すると俺たちに向かって転がってくる赤い石にとんでもない表記が書かれていた。
〝フレイムストーン″・合成アイテム・UC
付加魔法により火の魔力を付加された石。対象にぶつかる、もしくは衝撃を与えると爆発する。
HP-30
確認できた石の数は最低でも5個。あと少しでエルジュとアリアさんは爆破圏内に入ってしまう。おそらく二人が圏内に入った時に爆発させることで先に後衛を始末。その後、援護が無くなったラインを叩く作戦なのだろう。
少し横に離れている俺が含まれていないのは戦力外と思ったところだろうか。
すぐさま声を上げようとしたが、ここで声を上げれば作戦に気づいたことがばれ、すぐにでも爆発させようとするだろう。その証拠によく見ると、ラインが迫っているにも関わらず、タンクゴブリンに隠れるようにして数体のアーチャーゴブリンがずっと狙いを定めている。
打開策を考えるが、俺の武器は杖。そんなもので対処しようとすれば衝撃を与え即座に爆発させてしまう。
「ん?」
しかし杖を見ていてある考えが思いつく。成功すれば助かるだけでなく相手にダメージを与えられる。だが失敗すれば俺は爆発に巻き込まれ、最悪死亡してしまう。
その可能性を考え、躊躇してしまう。しかし転がってくる〝フレイムストーン″の一個が二人を爆破圏内に収めるともう迷っている暇はなかった。
「ならば、突攻あるのみ!」
俺は援護射撃を放っている二人の前を疾走する。
「兄さん!?」
「アルケさん!?」
二人から驚愕の声が上がるも振り向くことなく、視線を〝フレイムストーン″に向ける。俺が近づくのに気付いたアーチャーゴブリンが矢を放つが、距離があったため俺のほうが先に到着した。
そして杖を逆さにし、〝フレイムストーン″を石突のスプーン部分で掬ってゴブリンたちめがけて放り投げる!
投げた瞬間にアーチャーゴブリンの矢が肩に刺さるがすでにフレイムストーンは杖から離れ、タンクゴブリンの盾にぶつかり爆発する。
「なんだ!?」
近くで戦っていたラインやゴブリンたちが急な爆音で動きが止まる中、俺は残りのフレイムストーンを同様にゴブリンたちに投げつけていた。
爆発に巻き込まれないよう守備を固めるゴブリンたち。しかし、少し上に投げておいたフレイムストーンが盾を超えて落下し、集団にダメージを与える。
動揺している隙にラインが切り込み、エルジュとアリアさんも攻撃に加わり、ほとんどのゴブリンたちは殲滅。煙が晴れ、残っているのはゴブリンキングと〔ワイドプロテクト〕で守っていた数体のタンクゴブリンたち。
激怒したゴブリンキングは背負った棍棒を両手で握り、突進してきた。
なぜか俺のほうに。
「おかしいだろ!?」
普通なら攻撃力の高いラインから潰すんじゃないのか? と思ってラインに援護の視線を向けると残ったタンクゴブリンがすべてラインめがけて突撃している。
(あれでラインの動きを封じるってことか!)
ラインの援護が不可能と悟ったエルジュとアリアさんがゴブリンキングに攻撃を仕掛けるも、ゴブリンキングは矢を棍棒で払い、魔法は無視して突進してくる。魔法が当たりHPバーが減少しているが、何か耐性でも習得しているのかダメージ量が少ない。そのため、そんなものは気にしないとばかりに俺に敵意を向け走ってくる。
(確かに策を見破ったのは俺だけど、このゴブリンキング弱い物からしとめていくタイプか)
もしくは単に仲間が一気にやられたので怒っているだけかもしれないが、俺がピンチなのは事実。しかも考え事をしていたせいで逃げ遅れていたことにも気が付かないでいた。
(どうする!?)
あと少しで棍棒の攻撃範囲内となってしまう。
(考えろ! 何か策があるはずだ!)
遠距離攻撃は先ほどからあまり効果が無いようなので無理。そもそも俺に遠距離から攻撃手段が無い。
近距離攻撃は杖があるが、あの棍棒の攻撃を受け止めることはできないだろう。回避するにしてもそこまで俊敏な動きはまだできな……
「!」
そこで思い出す。最初に取ったスキルたち。その中で今まで一度も使ったことが無いスキルがあった。
「【速足】!」
最初に取ってから全く利用していなかったスキルを発動させる。その効果によりスピードが一時的に上がり、急いでその場を離れる。そのわずか数秒差で俺がいた位置を棍棒が叩き、地面にひび割れが走る。
一度はなんとかかわせたがそう長く続くわけがない。ラインもまだタンクゴブリンたちの包囲網から抜け出せないでいる。
ならばライン抜きでこの王様を攻略しなければならない。
(一番確率が高いのはこのまま逃げ続けてアリアさんの魔法で削ってゆく作戦だけど)
チラッとアリアさんに視線を向ける。アリアさんの様子は遠目からでもわかるほど疲れ切っていた。
(無理もない。妖精族が魔力量に優れていると言っても限界がある)
エルジュが必死に矢を放ち、俺に攻撃をしているため棍棒の妨害は無くその肉に刺さるも、ゴブリンキングの無駄に大きな脂肪によりダメージを与えられていない。
打開策が思いつかず、俺はひたすら【速足】で棍棒から逃げ続けるしかなかった。
変更点:
スキル名は声に出さなくても発動されるのだが、思わず声に出すほど俺は焦っていた。
⇒スキル名は“声に出すことで発動可能”に設定を変更させました。
(“勝手に発動するわけない”との指摘があったので訂正しました)