第二十四話:常識外?
「お、来た来た」
噴水の前で待っていると現れる二人の男女。
装備が多少変わっているようだが、間違いなくエルジュとラインだ。二人に手を振ってここにいることをアピールする。二人ともこちらに気づき、歩いてくる。
「今日はよろしくな」
「おう! しかしそれが例の鎧か」
「いいなぁ~。 なんで私は何ももらえなかったんだろう」
(それだけの実力があってもらえるわけないだろ)
その言葉は心の中だけに留めておく。これから戦闘なのにこんなところで体力を使いたくはない。
しかし我が妹には通用しなかったようでその目が俺をロックオンし、怪しく光る。
さてどうやってごまかそうかと考え始めた矢先、救いの手が指し出された。
「すいません、お待たせしてしまって」
アリアさんが現れ、二人の関心がアリアさんに向けられる。思わずアリアさんを女神のようだと思ったが、残念ながらアリアさんの登場は俺の救いにはならなかった。
「どういうことですか? 連れがいるとは聞いてませんよ?」
「しかもNPC。 お前どういうプレイしてるんだ?」
エルジュの目から逆に光が消え、口から黒い物が溢れ出ている。
一方ラインも眼が鋭くなり、吐くまで逃がさないとその視線が語っていた。
「そんな隠し要素があったなんて……」
「βの頃からNPCに使われているAIが高性能だとは知っていたが……」
今回のアリアさんの依頼の件を詳しく説明するとなぜか二人とも落ち込んだ。
「ところで、その服は戦闘用ですか?」
置いてけぼりのアリアさんに話を振ってみる。
アリアさんは黒と濃い緑を基調としたドレスのように気品のある服装だった。しかし所々にポケットがあるデザインのため、舞踏会のような煌びやかな場所用ではなさそうだ。
「はい。 〝コンバットドレス″と言って樹海で採取するときの戦闘服なんです。 男性用の〝コンバットスーツ″もあるので今度お店を紹介しましょうか?」
「興味はありますが、自分は闘いを主にするわけではないので」
「そうですか。まあ、旧型とはいえ警備隊の正式装備には劣りますしね」
大量発生したモンスターの討伐も警備隊の仕事。彼らを守る鎧が一般の妖精族でも手に入る防具に負けるわけがない。
「杖はお父さんから借りてきました。本人は薬剤師としての仕事があるので同行できないのですが」
杖は30cm程度の長さで漆黒の柄に木の実が先端につけられている。この木の実も触媒で【魔力増・小】の効果があるらしい。
「さて、そろそろ帰ってこい」
未だにブツブツ何かを口にしている二人の頭を叩き、正気に戻させる。
「悪い悪い、つい考え事を」
「それは後にしろ。こっちは一大事なんだからな」
そう、今回は石化したアリサさんを救出するための〝キュアポーション(灰色)″を作るための素材採取が目的だ。廃人たちの議論なんてどうでもいいことなのだ。
「なんか、変なこと考えてないか?」
「気のせいだろう」
昔からなぜか悪口には反応しやすい幼馴染を再度叩きながら、俺たちは薬草採取に出かけた。
スプライトを出発して十分は経過しただろう。これまで一本道を平然と歩いてきたアリアさんがあたりを見回し始めた。
「確か、このあたりのはずなのですが」
その言葉が聞こえて少し歩いたあたりで首元の〝フェアリーサティファ″が何かに反応する。
「こっちに何かあるみたいなんだが……」
自分でも疑問に思いながらある方向を指さす。その先にはたくさんのイバラの蔓でできた壁があった。ちなみにここだけでなく、妖精族のフィールドではこのイバラの壁がフィールドの端を表している。
そして導かれるようにイバラの壁に近づくと〝フェアリーサティファ″が瞬き、壁が淡く発光する。
「はい、間違いありません。この先です」
するとアリアさんは躊躇なくイバラの壁めがけて歩んでいく。
「ちょ……っ!」
止めようと出した声と伸ばした手は次の瞬間、その相手を見失う。アリアさんがイバラの壁をすり抜けたからだ。
「「……」」
エルジュとラインの二人もアリアさんが入っていった壁を見つめて何も口に出さない。するとアリアさんがイバラの壁から顔だけをこちらに出してきた。
「これも一種の結界です。本来ならいくつか工程が必要なのですが、やはり警備隊の恩恵は大きいですね」
急ぎましょうと言ってアリアさんは再びイバラの先へと消えた。
俺たちも続こうと二人を見ると、二人の視線が俺に、正確には首元の〝フェアリーサティファ″に向けられていた。
「ホント、ありえないよそれ。」
「この依頼が終わったらもう一度エリアを見直す必要がありそうだな。いやマジで」
「そうだね。フィールドにこんな隠し通路があったなんて。私たちの場合、さらに上空があるのかも」
ああだこうだと議論し始める二人。何を話しているかわからないが、おそらく自分たちの常識がこの世界でも常識とは限らないと思ったとかだろう。
実際あの老人を筆頭に、俺もこの世界は今まで聞いてきたVRMMOとは違うのだと認識してるし。
しかし、それは今ここで議論することではない。
「ほら行くぞ! 護衛対象から離れるわけにはいかないだろ。 それに……」
勿体付けるような言い方をすることで二人の関心をこっちに向けさせる。予想通り二人とも討論を止め、俺のほうを向いてくれた。
「こっから先が本番だ。戦力として期待しているぞ」
二人の肩を叩いて、俺はイバラの壁へと足を進める。
後ろから「ツンデレ?」なんて言葉が聞こえてきたが無視する。
……というか、いつデレた?




