第三十四話:ドリアードの里
お久しぶりです。あかぎれがひどく、アロエ軟膏や保湿クリームによって手がベトついてしまってキーボードを打てませんでした。皆様も乾燥には十分お気をつけください。
次の授業の準備をしていると努が近づいてきた。
「なあ、今何やってるの?」
「国語の小テスト対策」
「マジ!?」
そして昼休み。見事に小テストに轟沈した努がようやく復帰した。
「それでさっきの話だけどよ」
「来週の追試は手伝わないぞ」
「それじゃねえよ! いや、手伝ってください!」
後輩たちの呆れた視線を感じたがあえてスルー。
「それで何を聞きたいんだ?」
「お前CWOで何してるんだ? たまにルーチェに行ってもほとんど留守だから気になってな」
あれ、来ていたのか。えっと最近は……
「新しい錬金アイテム作ろうとして別のアイテム作って、妖精族の飛行を覚えて、素材集めるために鳥人族エリアに行ってたな」
「ああ、この間のアレって素材集めだったんですね」
「「「え?」」」
どうやら一人天然の後輩がいたようだがまたしてもスルー。こっちは『新しい錬金アイテム』の響きに目を輝かせている努を対処しなくては。
とりあえずどういうアイテムを作ろうとしているかだけ説明する。
「なるほど。確かに洞窟で爆発系は危険だな」
「参考までに、魔法使い系のプレイヤーは洞窟攻略の時はどうしてたんだ?」
「前衛が仕留め損ねた魔族を処理したり、バフをかけて前衛のサポートをしたりだな」
やはり洞窟だと魔法は使いにくいか。そうなると〝フレイムサイト″をたくさん用意したほうがいいかな。使い捨ての杖に合成させれば問題ないだろうし。
「そういえば、この間助けた第三王女様が動いているみたいだ」
「どういうことだ?」
「第三王女様たち以外にも逃げていた兵士たちや近隣の村から人を集めて対魔族軍を編成しているらしい。その中には俺たちプレイヤーも含まれている」
「近隣の村って、戦力になるのか?」
「正直微妙だ。だからこそ、俺たちはかなり期待されている。上手くいけば結構いい報酬がもらえそうだ」
「その報酬ってのがエリアクエストの報酬なのか?」
「だろうな」
気にはなるが戦闘となると俺も近隣の村人と同然、いや彼らよりも戦闘能力だけなら下だろう。俺はあくまで錬金術師だからアイテムが無いと何もできないし。
(そういえば【杖】を全く鍛えてないな)
せっかくだから鍛えておこうかな。最近は【錬金術】と【看破】くらいしか使ってないし。他のスキルも上げれるときに上げておかないと。
(それでも今は、ドリアードの里だな)
最後に残った肉団子を飲み込んだと同時に予冷が鳴ったので俺たちは急いでそれぞれの教室に向かった。
無事に授業が終わりCWOへダイブイン。本来なら今日ドリアードの里へ行く予定だったが、ダイブインしたらすでに夜時間だった。
これは無理かなと思いながらも集合場所に向かうとミシェルとエイミさんが立っている。
「こんばんは」
「こんばんはです。と言っても、もうすぐ日の出ですけど」
「こんばんは。集まったところでさっそく向かうか?」
すぐにでも向かえるならそうしたいが、夜時間だと出現するモンスターが……この二人がいれば大丈夫か。
「ああ。道案内は頼むよ」
「まかせろ」
そう言うとさっそく歩き出すミシェルを俺とエイミさんが付いていく。
想像通り出現するモンスターは昼の時よりも強いが、ミシェルの剣技とエイミさんの魔法で瞬殺されていく。
「今更ですけど、なんでエイミさんまでいるんですか?」
「私はフェアリーガードの用事も兼ねてるから。定期報告みたいなものだよ」
「俺が報告すると言ったのだが『休暇中なのだから休めるときは休め』とリオン隊長に言われてしまってな」
そういうことか。いい人だなリオン隊長。
歩くこと20分くらいだろうか。前方に大木が見えてきた。
「立派な木だな」
「門だからな。当然だ」
「へぇ~……?」
あれ? なんか変な言葉が聞こえたような?
そのまま大木へと到達し、ミシェルは迷うことなく大木へと進み、そして吸収される。訂正、大木へと姿を消した。
「驚きましたか?」
ドッキリに成功した人のように笑顔を浮かべるエイミさん。そりゃ、驚かないほうがビックリだ。
「『森を守護する一族』の名は伊達ではないということですよ」
そう言いながら俺の手を握り、そのまま走り出す。慌てて足を動かし、エイミさんと俺は大木に吸い込まれるように進む。
一瞬バチッとした感じがしたがそのまま進むとまさに『里』という感じの場所に出る。
辺りにはウッドハウスのような家が並び、多くの妖精族が談笑している。その風景は何度も訪れたことのあるハイフェアリーの里とよく似ている。前もってドリアードの方たちの容姿が妖精族と変わらないと聞いてなければここがドリアードの里だと思わなかったかもしれない。
先に来ていたミシェルは三人の妖精族と仲良さそうに話している。そういえば、ファムさんが言ってたな。ミシェルは妖精族とドリアードのハーフって。
「おや? エイミちゃんじゃないか」
「お久しぶりです、アル様」
「様付けは止めて頂戴。もう何年も前の話よ。ところでそちらは?」
「こちらは私たちフェアリーガードがお世話になってい『もしかして彼氏!?』るって違います! 何言ってるんですか!?」
こっちはこっちで何やら盛り上がっている。えっと、どうすればいいの?
しばらくして落ち着いたエイミさんが俺のことを紹介してくれた。異世界からの客人と知ると多くの人から質問攻めにあったがなんとか知ってる範囲内だったので答えられた。この辺も普通の妖精族と大差ないな。
その後、エイミさんはフェアリーガードの使いとして里長の元へ向かい、俺はミシェルと彼の親戚であるケインさんと一緒にファムさんが教えてくれた洞窟に向かっている。
道中ケインさんのことを軽く紹介してもらった。
ケインさんはミシェルと同じくサーベルの使い手で、なんとミシェルに剣技を教えた師匠とのこと。見た目は二十代にしか見えないが、すでに百は超えていると聞いて再度驚いた。
「せっかくなら君も習ってみるか?」と言われたが「剣は使わないから」と断った。その時【杖】について訊いてみたが「魔法の補助くらいにしか使わないから、教えられる人はいないねぇ」と言われた。まあそうですよねー。
「ここがその洞窟だ」
思ったよりも近い場所にあった洞窟はあまり人が来ないのか雑草だらけだった。
「ここにくるのも久しぶりだ」
「剣の稽古でよく来て以来だな」
「ここで稽古を?」
「「この洞窟は特殊なんだ」」
一言一句同じことを言って笑う二人。本当に仲がいいんだな。ちょっと羨ましい。
二人に続いて洞窟の中に入ると特殊と言っていた理由が分かった。
「ずいぶん明るいというか岩が光ってる?」
「正確には水晶だね。おかげで人に見られずじっくり指導ができるのさ」
笑いながら近くの水晶を叩くケインさんに対しミシェルは少し体を震わせている。どうやら優しそうに見えてスパルタな人らしい。「せっかくだからアルケさんが採取している間少し斬り合おうか」なんて言われて顔が青くなってるし。
ミシェル。骨は拾ってやるからな。
「これがアルケさんが探している物じゃないかな」
指した先を見つめる。ファムさんから資料を見せてもらっていたのでそれで間違いないが、一応【看破】で確認する。
〝シャープクリスタル″・素材アイテム・R
鋭く尖った水晶。しかし刺さるほど硬度が無いためすぐに壊れる。
確認が取れたので、採取するために握ってみると説明通りすぐに壊れた。確かにトゲトゲの素材だが、これほど脆いと使い物になるのだろうか。
それでも他に素材が見当たらないし、幸い固める素材はすでにある。さらに形状が【アーススピナ】にも似てるからもしかするとうまくいくかもしれない。
リィムダガーを取り出し、そっと根本を切るように削りながら採取を始める。最初は上手くいかず壊れてしまったが、なんとか要領を得て採取できるようなった。
後方でミシェルの悲鳴が響いてきたがそっちは見ないようにした。
生きろ、ミシェル。
次の投稿はバレンタインデー特別版になると思います。
では、また。




