第三十三話:名もなき聖域
もはや二週間も経過していますが、明け過ぎておめでとうございます。今年も投稿ペースがあいまいですが、がんばって投稿していきます。
2017/1/22 誤字修正しました。
邪魔な鳥どもがいなくなったので丘の頂上目指して飛行する。丘と言ってもそこまで高くないのでわずか数分で到着した。その割には寒いな。
「えっと、あれですね」
スワンが指した先には青白い草が生えている。近づいて【看破】を発動させると確かに俺が求めていたモノだった。
〝アイスウィード″・素材アイテム・UC
寒さによって冷えた草。それでも生き続けようとしているため、つながりを求める恋人たちや何かにチャレンジする人々に密か人気。
説明はロマンチックだが、見た目は雑草なだけにコレを探しに来る人は少ないだろう。それでも俺にとっては非常に役立つ代物だ。
(これまでつなぎとしての役割を果たすアイテムは〝パニヤードのきのこ″しかなかったからな。これがあれば色々活かせそうだ)
さっそく〝聖樹の籠″を出して採取を始める。その間後輩三人組にはモンスターの警戒をお願いした。本音を言えば採取を手伝ってほしいが他の雑草も生えているから鑑識系のスキルが無いと〝アイスウィード″以外も収穫してしまいそうなため断念。
個人的には他の雑草も欲しいが、今は〝アイスウィード″だけに専念してまた来よう。
「ん?」
〝アイスウィード″を採取していくと視線の先に花が咲いているのを見つけた。何だろうと思って近づこうとすると、急に腕を引っ張られた。
「アレはダメです。近づいたら氷漬けになりますよ」
引っ張ったのは険しい表情をしたリボンだ。
「あの花がこの寒さの原因なんです。NPCの方が言っていたのですが、ここはかつて聖域のような場所だったらしく、そこに祭られていたのが氷の精霊で、あの花はその名残なんです」
「聖域? なんでそんな場所がこんな荒地なんだ?」
かつて聖域だったにしては雑草だらけなんだが。
「なんでも世界がそれぞれの種族に分かれた際に影響を受けたらしく、氷の精霊が離れてしまったせいで聖域としての力を失ったようです。ちなみに、あの辺の石が散らばっている辺りが神殿だった場所ですよ」
リボンの指の先を見れば確かに崩壊した時の残骸のような石がたくさんある。しかし、氷の精霊か。
「……スフィレーン、聞こえるかな?」
言葉と同時に指輪が光り「なんでしょうか、我が主」と声が響く。急に聞こえてきた声に三人が周囲を警戒し始めたので事情を説明する。
「突然ですまないが、氷の精霊について何か知らないか?」
「私は水なので直接の面識はないです。ですが、主の近くからかすかに氷の気配を感じます」
どうやらここがかつて聖域だったのは間違いない様だ。そしてあの花は氷の精霊の力をわずかにでも受け継いでいるということかな?
「見えるかどうかわからないけど、あの花摘める?」
「残念ながら私には主が見ている物は見えませんし自由に動けません。ですが、私の加護を受けているパルセードなら可能かと」
え、いつ加護なんて受けたの? 気にはなったが、とりあえず採取できるなら採取してしまおう。おそらくアレは素材としてかなり優秀だと思うし。
「わかった……そういえばこれって魔力消費するんだよな。すまない」
「いえ、この程度なら少しの時間で回復します。ですが、やはり早く契約を結んでしまいたいです」
うーん、それはこっちも同じだけど、場所がいまだにわからん。こればっかりは気長に探すしかないか。
「いつか、必ずそっちに行くよ」
「はい。お待ちしております、我が主」
その後パルセードを召喚して可能な限り例の花を採取してもらった。その様子を三人組がまるで保護者のように見つめていたのはお約束だ。どこかのおつかいかよ。
そしておつかいの成果である花の性能を確認しておいた。
〝凍てつきの華″・???アイテム・HR
氷の精霊の力を宿した特別な植物。そのまま植えると辺り一面を凍えさせるほどの冷気を発するので扱いには注意。
またしても妙なアイテムを獲得してしまったが、きっとどこかで役に立つと信じよう、うん。
ルーチェに戻ってさっそく調合を開始。とりあえず固まるかどうかを確認するために〝スノープリズム″と〝アイスウィード″で調合してみる。
その結果、完成したのは〝フローズブリザ″。どうやら〝スノープリズム″に『固める作用の素材』を調合すると〝フローズブリザ″になるみたいだな。
一方で効果は今回のほうが高い。前は【冷凍付与・中】だったが【冷凍付与・大】に強化されている。これは〝アイスウィード″が同じ氷属性の素材だからだろう。
(しかし、これだとやっぱりトゲにはならないな)
作ろうとしているアイテムはアスフィリナの〔アーススピナ〕のようにトゲトゲが発生するアイテムだ。
「うーん、困ったなー」
「そんなに困ってるの?」
独り言に声をかけてくれたのはエイミさん。ここはいろんな人の意見を聞いてみるか。
「……ふむふむ。確かにそういうのがあると嬉しいね」
「自分は戦闘能力が低いので、こういうアイテムもあったほうがいいと思ったんですよ」
最初は洞窟とかで爆発物は危険だからという理由だが、逃走する時の時間稼ぎもできると思いついたのだ。俺には防御手段が少ないから何とか完成させたいのだが……
「トゲトゲにする素材に関しては残念ですが知りませんね」
「そうです「あ、でも」か……ん?」
思いついたかのように手を合わせるエイミさん。何か方法があるのだろうか?
「ここはファムさんに聞いてみましょう」
「誰ですか?」
「お忘れですか? アルケさんに本を渡したフェアリーガードの書庫番ですよ」
前回はリオン隊長に案内してもらった書庫だが今度はエイミさんと一緒だ。エイミさんも第六部隊隊長なので書庫の扉を開けることができるのをすっかり忘れてたよ。早めに相談すればよかった。
いつぶりか忘れるくらい久しぶりに入った書庫ではファムさんが本を机に積んでいた。話を聞くと新しい本が入ったので本棚の整理中とのこと。それを聞いてまた今度にしようと思ったがついでに探してくれると言ってくれた。
「トゲトゲの素材? よくわからないけど、探してみるよ」
そう言うとかつて見たように本たちが空中で舞い始める。改めて見て便利な魔法だよな~。現実に欲しい魔法の一つだろう。
机に置かれていた本たちが本棚に収容されてから少しして振り返ったファムさんは一冊の本を抱えている。
「う~ん、見つかったんだけど」
「場所が悪いんですか?」
「ううん。場所はドリアードの里にある洞窟なの」
ドリアード? 何だそれ?
「アルケさんは知らないよね。ドリアードっていうのは私たちと同じ妖精族なのですが、特別な役割を持つためにそう呼ばれている一族なんです」
「役割ですか?」
「彼らは『森を守護する一族』なんですよ。世界が分かれる前から妖精族が住む森の神を祀ったお社を守ってきた由緒ある一族ですね」
ほう、そんな一族がいるのか。もしかしてさっき言い淀んだ理由って……
「よそ者は里に入れないとか?」
「そういうわけではないのですが、アルケさんは異世界の方ですから、もしかしたら里を守護する結界に阻まれる可能性があります」
「普通の妖精族なら何も問題ないですから大丈夫だとは思いますが……」
ふむ。そうなると俺がNPC妖精族と大差ないことを証明するモノがあればいいと。そんな便利な物なんてと思いながらアイテムボックスを探る。
「あ、これは?」
色々見ていたら懐かしい物を見つけたので具現化する。
それはミシェルからもらったペンダント〝フェアリーサティファ″。最初のころはアクセサリー枠に装備していたが、今は〝調合石のストラップ″〝パルティリング″〝アスフィリング″で埋まってしまっている。
そのため今まですっかり忘れていたが、これなら証明として十分だろう。
「なるほど。その手がありましたか」
「ついでにミシェルと一緒に行けば? あいつもそろそろ休暇に入るころだし、親戚にも久しぶりに顔出したほうがいいと思うし」
「親戚?」
なにやら聞きなれない言葉が出てきたぞ。というか親戚とかいたのかミシェル。
「あれ、聞いてない? あいつドリアードとハイフェアリーのハーフだよ」
次回も完成次第の投稿となりますが、なるべく来週には投稿できるようがんばります。
それと、活動報告にてアンケートを出しますので、どうかご協力お願いします。
では、また。




