第三十話:妖精族の飛行(浮遊編)
今回はPCの入院のせいで遅れてしまい、大変申し訳ありませんでした。
タブレットとかあると便利なのかも知れませんが、現実は厳しいですね~。
少し休憩することにして近くの切り株に座る。普通は一人しか座れないがその切り株は五人くらい余裕で座れるほど長い。
周りを見渡してみれば先ほどの親子以外にも多くの親子が同じように空を飛ぶ練習をしている。あ、あの子結構高い位置まで浮いてるな……って落ちた!?
「あぶな」
その言葉は続かなかった。落下したすぐ直後に横棒が伸びる。さらに棒の先が分かれ、その間に魔力でできたネットが出現し、落下した子供を助けた。
あの横棒ってあのために存在していたのか。
「すごいですね」
「初めて見た人は驚きますよね」
思わず口に出てしまっていたらしい。少し赤面するが、気を取り直して他の子どもの様子も見てみる。少し浮いてる子、最初の魔力を感知する棒にじっと手を当てる子など様々な子供が挑戦している。
「そろそろ再開しますか?」
アリアさんに言われて立ち上がり、人がいない棒付近に移動する。
いよいよ俺自身が空に飛ぶ時が来た。
「まずは浮くことからですね」
「あ、はい」
ソウデスネー。
「さっき羽根の振動はできていましたから、あとはそれを強めるだけなのですが……」
「アルケさんは男性だから女性より重たいから余計に魔力量に制御が大事なんだよね~」
確かに軽いほうが必要な力が少ないから力が必要なのはわかるが制御?
そんな俺の疑問が表情に出ていたらしく、アリアさんはアリサさんに視線を送るとアリサさんが頷いて飛んでいく。そして少し高い位置になったところで静止した。
「試しにあそこまで届くと想像してみてください」
ふむ、よくわからないけど試してみよう。
アリサさんの位置は地上から5mくらいと予想。俺の身長の三倍より少し高いくらいなので俺が三人いると仮定してその高さをイメージ。そして三番目の俺の頭を踏んでる高さを付け足し、イメージを完成させると羽根を振動させる。
実は浮くのか不安だったのだが、足が地面から離れる感覚があったのでそのまま上昇する。
目を閉じているのでどれくらい上昇しているのかペースがわからないが、さすがに最初から早く浮けるわけないのでだいたい歩くよりも少し遅いくらいだろう。実際、浮くときも地面からゆっくり離れていく感覚だったし。
そしてようやく目的の高さに到達したと思って手を伸ばす。だって目を閉じてるからどこにアリサさんがいるかわからないから。しかし、なぜか一向に手を取ってくれない。
……
…………
………………
「え~っと?」
思わず口から声が出てしまう。知らない人から見たらだれもいないのに腕を伸ばしているだけにしか見えないから早くしてほしい。
それでも全く手を握ってもらえないので、勇気を出して目を開けてみることにする。
ゆっくり、ゆっくりと今飛んでいるイメージを崩さないように薄目を開ける。
(よし、なんとか成功。後はなんとかしてアリサさんを見つけ……ない……と?)
薄目だから全貌が全く見えないが、それでもわかる。今、俺は間違いなく空を飛んでいる。
……広場の棒がずいぶん下のほうに見えるくらいの高さで。
「なん」
思わず目を全開にし、疑問が言葉に出てしまう。その結果はどうなるか言うまでもない。
(お、落ちてるー!?)
浮いてるイメージ、というか力を失った俺の体は真っ逆さまに落ちていく。このままだと地面にぶつかるが横棒の存在を思い出して気持ちを落ち着かせる。
そして予想通り横棒が伸びてきてネットによって俺の体は守られた。よかった~。
「大丈夫~?」
そばに寄ってきたアリサさんが俺を見下ろす。そういえばアリサさんは何処にいたんだ?
「ちなみに、私はさっきまで同じ位置で浮いてたよ。アルケさんは浮いてしばらくして私を越して行ったけど」
「なんでその時に止めてくれなかったんですか?」
「先ほどアルケさんが疑問に思っていたことに答えるためですよ」
反対側にアリアさんが浮いていた。そういえばアリアさんは「試しに……」って言ってたな。
「実は妖精族は生まれつき風の影響を受けやすいみたいなんです」
「風の影響?」
「そうよ。体つきとか魔力の性質とか、いろいろ言われてるけど実際はわかってないけどね」
それはプレイヤーの俺にも該当するようで、ほんの少し浮いたと思っても現実ではあれくらいの高さに到達してしまっていた。その確認も込めて一度浮いてもらったということだ。
「とりあえず、一度地面に戻りましょうか」
アリアさんが横棒に触れると下がり始める。これって魔力を流して操作するモノだったのか。
その速度もコントロールできるようで地面が近づくにつれて遅くなり、ネットから降りると横棒は自動的に元の高さにまで戻った。
「でも、やはり目を閉じているのは危険ですね」
「まあ、そうだよね」
俺も激しく同意する。先ほどのことを思い出すとかなり怖い。
しかし目を開けた状態では魔力を流すことすら困難な状況だ。さて、どうしようか?
とりあえず今日はこれまでとダイブアウトして就寝。翌日何かヒントは無いかと昼休みに空を含めて後輩三人組、つまり鳥人族のみんなに飛ぶアドバイスを求めてみた。
「鳥人族の場合はすぐ飛べるようになるよ。固有スキルで【飛行】があるから」
「そのスキルが今はすごく欲しいよ」
「あはは」と笑いながら卵焼きを口に運ぶ空。ちくしょう、勝者の余裕か。
「飛んでる時の感覚はジェットコースターだよね!」
「それ危ないよ!すぐにもう一度レクチャーし直したほうがいいよ!」
一方栞ちゃんの発言に動揺している世羅ちゃん。俺もジェットコースターは遠慮したい。
「でも、空を飛ぶ技術なら心ちゃんが一番だよ」
ほう、それは意外だ。てっきり空だと思っていた。
「へ~え、そうなの?」
「ええ、まあ」
努に声をかけられた心ちゃんは何処か嬉しそうに答える。そして心ちゃんから空を浮くコツ、さらに飛ぶ秘訣を教えてもらった。
……すごく納得できるけど、なんで心ちゃんがそんなもの知ってるのよ?
「私、これでもソッチ方面は得意中の得意ですから♪」
「ちなみに、私も勝てないくらいの腕前」
リアリー?
家に帰ってきたCWOへダイブ。するとなぜかルーチェにアリアさんとアリサさんがいた。
「どうしたんですか?」
「昨日の続きをと思って」
「私も付き添い」
なんか申し訳ないな。でも、多分それも今日までだと思う。
「面白そうだから私も付いていく~♪」
エイミさんも付いてくるようだ。なお、セリムさんは素材採取のためどこかに出かけているとエイミさんから教えてもらった。
出来れば俺もそれに同行したかったけど、多分行けない場所なんだろうな~。
そして到着した広場。周りを見れば今日も子供たちががんばっている。
悪いな子供たちよ。先に大人の階段を上らせてもらおう。
「まずは魔力が流すところから始めましょうか」
「え、そこからなの?」
昨日のことを知らないエイミさんが驚くが、心配ない。その辺の対処も実は一緒に解決しているのだ。
そして俺の思惑通り魔力が流れ白色に変化する。もちろん、目を開けた状態で。
「あら?」
「お?」
「なんだ、できるんだ」
三者三様の驚きをいただき、いよいよ飛行準備だ。
「それじゃ、昨日みたいに上で待機してるから」
アリサさんが浮き、昨日と同じくらいの高さで静止する。
昨日は見当違いの高さに行ってしまった。今回は大丈夫だろう。なんたって、心ちゃん直伝の秘策があるのだから!
「では、行きます!」
俺は背中に魔力を流すイメージを行う。それは昨日のようなタンク&蛇口ではなく別の物。それでも、昨日と同じように羽根は振動し、ゆっくりと俺の足が地面から離れていく。
「あらら?」
「へぇ~、上手」
急激な成長に驚くアリアさんと俺の飛行に素直な意見を告げるエイミさん。
そのままゆっくりとアリサさんに向かっていく。するとアリサさんは少し右に移動した。それに合わせて俺も右にずれる。
その様子にアリサさんが目を見開く。昨日浮くことが精一杯だったはずなのに、どうして?という感じだ。
そのままアリサさんの横に並び、静止する。上手くいってうれしい気持ちだが、それ以上にきっと練習に付き合ってくれたアリサさんのほうが喜んでくれているだろう。
「……ええぇ~」
だが、現実に待っていたのは呆れたような信じられないような表情をしたアリサさんだった。
というわけで、今回は浮遊編で次回こそ飛行編です。
次回はなんとかがんばっていつもの次回に投稿できるようにしますが、間に合うかちょっと心配です。
ではまた。




