第二十四話:説明とお願い
だんだん暑くなってきましたね。このままだと夏本番は厳しくなりそうで今から憂鬱です。
少し遅くなって申し訳ありません。
Q.いきなり見知らぬ男が目の前に現れたらどうしますか?
「とりあえず通報……」
「いやいや、それは止めてくれたまえ。さすがに怒られてしまうから」
目の前の男はかなり嫌そうな表情なので間違いなさそうだ。さて、気を取り直して目の前の男のことを確認する。
白衣を着ているがその下は黒のスーツだ。CWOには存在していない。
「つまり、あなたも運営の方ですか?」
「いかにも。私はAI関連の主任をしている者だ。ああ、顔や体はアバターなのでそこはよろしく」
う~ん、なんなんだこの男。でもAI関連の主任ならこの状況を説明できるかもしれない、というか多分そのために出てきたんだろう。
「察しているようにこの状況になった時に現れるように調整させてもらった。ああ、周りには特殊な結界を展開しているから私と君は今誰からも見られないし、触れることはできない」
さすがは運営の関係者。しかし「この状況になった時に」と言ったことから今の状況は予想通りと言うことだろうけど、そこまで計算できるのか?
そんなことを考えていることなど白衣の男は知るよしもないが、男は一息つくと俺と視線を合わせてきた。
「まず最初に君にはテイム以外のもう一つのモノを説明しておこう。それは『契約』だ」
「契約」
その言葉には聞き覚えがあった。そう、スフィレーンだ。確か今は仮契約状態だったはずだ。
「契約とは精霊族との間に結べる関係のことだ。テイムはモンスター限定、契約は精霊族限定ということで区別されている。今君はパルセードをテイムし、アスフィリナと契約している状態だ。ここまではいいかな?」
俺は頷くことで意思を示す。
「先ほど説明した精霊族だが、君は水の大精霊スフィレーンを知っているはずだ。彼女もまた精霊族だがアスフィリナは最下層、ただの精霊族だ。その上には中級精霊、上級精霊、大精霊、そして聖なる霊と書いて聖霊がいる」
「もしかして聖樹も聖霊の一種なのか?」
「いや、あれはまた別の存在だ。今回は関係ないので説明することはできない」
関係ない、か。しかしかつて確かに声は聞いた。となれば、自分で確かめるしかないか。
「話を戻そう。君が二体のモンスターを従えられるのはそういうことだ。ちなみに、アスフィリナと契約しているからと言ってスフィレーンと契約できないわけではない」
「契約は一体だけではないと?」
「本来は一体だけだ。あまりにもバランスが崩れてしまうからね。しかし君は正規の手順ではなく【神聖融合】で契約をしている。これは複数と契約できる限りない条件の一つなので問題ない。……正直こんな序盤でそれを見ることになるとは思わなかった。本当に面白いな、君は」
とりあえずスフィレーンとも契約できるようなのでホッとした。これでもう契約できないと知ったら間違いなく悲しむ。俺としても偶然の結果出会えた存在だから、きちんと正規の手順で契約したいからな。
「以上が君の今の状況だ。これまでで何か質問は?」
「最後に『本当に面白いな』と言いましたね? 俺のことは前から知っていたのですか?」
「ああ、それはこの後話すことと関係してくるので今は保留にしてくれ。それ以外では何かないかな?」
そう言われたのでふと考えてみる……うん、今のところはないな。
「無いようなので次の話に移ろう。君はあるアイテムのテスターになってもらいたい」
「テスター? 俺が?」
「そうだ。そのアイテムはコレだ」
男が手を振ると螺旋状の腕にはめるブレスレットが現れた。そのブレスレットにはいくつかの水晶のように透明な宝石が埋め込まれている。
「これはトラストバンド。NPCの力を得ることができるアイテムだ」
「力?」
「一定以上の好感度を持つNPCから魔力をこのブレスレットに注いでもらうことで水晶に色が付く。水晶は16個あるので最大16人から魔力を得ることができる。そしてその者の能力の一部を扱うことができるというアイテムさ」
それ、人によってはとんでもないアイテムになるんじゃないのか?
「能力を使う時はレリーズと言えばいい。なお、解放は溜まった力を一度にすべて解放する。どれか一つだけを使いたいという使い方はできない」
「そんなすごいアイテムをなぜ俺に?」
すると男は笑った。ものすごく悪そうな笑みだが。
「君が今NPCからの好感度が最も高いプレイヤーだからさ。特にハイフェアリーとも仲がいいからとてつもない力を手に入れられる。言い忘れたが得られる能力は好感度が高いほどよりそのプレイヤーの助けになる効果となる」
「……それがどうしてその笑みになる?」
「運営が必死になって作ったシナリオを私が担当しているAIの力で攻略した時の彼らの唖然とした表情を思い浮かべると、ククク」
よし、通報しよう。今すぐ通報しよう。そうじゃないと俺が運営から抹消されそうだ。
「冗談だ」
「そう見えません」
「再び話を戻して、最も高い好感度を得ている君だからこそより良いデータを手に入れることができる。君は力を、私たちはデータを。誰も損しないwin-winの関係じゃないか」
言いたいことはわかる。だが、これは頷いていいものなのだろうか?
「心配しなくてもブレスレットはこの場で装着すれば他人からは見えない。ちょっと珍しいアイテムを手に入れて使ってみようくらいの気持ちで構わないさ」
「それだと戦闘でのデータを得られないのでは?」
「その辺は別のプレイヤーにお願いすることにしてる。さすがにテスターが一人ではデータとして信用性が無い」
考え、考え抜いて結論を出した。
「わかりました。テスターの件、お受けします」
すると急に接近してきて俺の両手を掴んで上下に振り始める。
「ありがとう! いや~断られたらどうしようかと思っていたよ~」
「いいから離せ!」
「おっと失礼」と言って手を放す男。思いっきり握られたので少し痛く、痛みを取るために振っているといつも間にか右手首に例のブレスレットが装着されていた。
「驚いてくれたかな? 心変わりする前に強引だけど装着させてもらったよ。ついでにソレ外せないから♪」
「運営への問い合わせ先は……」
「それは本当に止めてください」
とうとう土下座までする男。ここまでされるとさすがに怒る気力もなくなるな。
「使ってみて何か気づいた点や気になった点があればここに連絡してくれたまえ。私のアドレスだ」
再び男が手を振るとウィンドウが出現し、確かにアドレスが書かれている。後でPCのメールに送っておこう。
「それでは私はこれで失礼するが、その前に忠告だ」
「何か?」
「パニヤードのきのこは制御できなかった自らの魔力の集合体で、彼らはそれを食べることで生き延びている。それ以外を食べると不純な魔力として処理しようと色の違う巨大なキノコを生やしてしまうので食べ物を与えないように。では」
パチンと指を鳴らすと視界に色が帰ってくる。
視線を右腕に降ろすとそこにはやはりブレスレットがあった。
「なんか面倒なことに……」
巻き込まれたと言いかけて最後に忠告を思い出す。そういえばさっきセリムさんが……!?
「あぶな」
い、と続けたかったがそれは目の前に迫りくる無数の紫色の物体に遮られ、俺は錬金窯横の壁に直撃した。
(こういうことかよ、ちくしょう! もっとはっきりと言いやがれ!)
結局遊女たちの様子を見に来たティニアさんがキノコを燃やしてくれたおかげで助かった。その際室内も少し焦げてしまったが、それは後回しにすることにした。
実はティニアさんが助けに来てくれた後、こんなメールが届いたのだ。
『お久しぶりです。シュリです。例の魔武具についてご相談があるのですが、今晩空いてますか?』
感想コメントに今回のネタを先に書かれてしまって少し焦ってしまいました。やはり読者の方々は侮れないですね。
次回はプレイヤーのロリ枠シュリちゃんの登場です。
みんな「やっぱロリコンだろ」
作者「違う! ロリも好きだけど大人の女性もおっぱいも好きなんだ!」
みんな「もうダメだ」




