第二十一話:王女様に導かれて
22時を過ぎてしまいました! ごめんなさい!
危うく意識を落とすところだったがそれより先に兵士の二人によって王女様は俺から離された。
「な、なにをするの!?」
「ルーナ様落ち着いてください!」
「そうです! いくらラファエロが連れてきたとはいえ、相手はこの国の者ではありません!」
「はなしてー!」
あの王女様けっこう力強いな。思わずポーションを取り出して飲み干す。まあ、HPは減ってないんだけど、気分転換だ。
しかしその様子を見た他のプレイヤーたちは武器を構えだした。いきなり首を絞めつけてきたことから警戒しているのだろう。
そしてその気配を察したラファエロが戦闘態勢になる。おいおい、こんな狭いところだと向こうの独壇場になるぞ。
「とりあえず、全員落ち着け!」
両手をパンパンと二回叩き合わせ注意を俺に集中させる。意外に効果はあったようで暴れていた王女様もじっとこちらを見つめている。
「一応先に挨拶を。異世界からの客人の一人でアルケという者です。先ほどから察するにあなたがルーナ第三王女様ですね?」
「え? ああ、そうです」
王女様は冷静になったのか先ほどとうってかわってとても静かだ。それだけあの老婆は王女様にとって大切な人なのかな。
「私たちがこの地下通路を発見できたのは、先ほどもお伝えした通りアニエスさんからあなたを助けてほしいと頼まれたからです」
「そう、アニエスが……彼女は今も花に囲まれているのかしら?」
「えっと……植物がそばにあるのは間違いないです」
後方から「アハハ」と乾いた笑いが聞こえてくるが、間違いなくカナデちゃんだろうな。いくらなんでもアレを花とは呼べない。
回答に戸惑いつつも答えた俺に対して王女様はホッと息を吐いた。
「間違いなくアニエスですね。その反応からして彼女の植物園に入ったということでしょうから」
えー。城に勤務していた頃からあるのかよ、アレ。
「しかし、それだけではあなた方を信頼するのは不十分です。他にあなたが会ったのが本当にアニエスだという物はありませんか?」
「……その質問の前に質問いいですか?」
「? どうぞ?」
「口調変わり過ぎてません?」
とてもじゃないが、先ほど俺の首を絞めようとしていた王女様と今の王女様が一致しない。もしかして罠なんじゃないと疑うくらいに。
すると王女様は顔を赤く染め、こちらに頭を下げてきた。
「先ほどは失礼しました。しかし、アニエスが育てた植物園があるのなら、それは私たちにとって何よりの希望と……」
「「王女様!?」」「ガゥ!?」
兵士二人、さらにラファエロまでそろって反応するその言葉、希望。王女様も「しまった!」と表現するように自らの口を両手でふさぐが、それはこの状況下では逆に根拠ですと自ら証言しているようなものだ。
「「……」」
俺と王女様の視線がぶつかる。後方ではなにやら話し声が聞こえてくるが後ろを振り向く余裕はない。となれば、先にこちらが信用できる存在であることを証明させてから訊いたほうがいいだろう。
「あの老婆は特殊な効果が付いた笛を持っていました。なんでも植物性の魔物を操作できるそうですね」
後方からかなり大きな叫び声が上がってくるが無視。
そして、その発言が何よりの証拠となったようで王女様は肩の力を抜いた。
「その笛を持っているのはアニエスだけです。特殊な魔法陣を刻んでますから真似しようとする者はいないでしょう。まだ完全にではありませんが、あなたたちを信じることにします」
「それはどうも」
どうやら最初の一歩は無事に歩み寄れたようなので早速訊かせてもらおう。
「先ほど口に出てた希望とは何なのですか?」
「遠慮ない方ですね。でも、そのほうがこちらも話しやすいです」
「この先は中で話しましょう」と言うので俺たちは全員後に続く。兵士たちはラファエロと共に入り口を守るようだ。
そう、ここはあくまで入り口だった。中はまるでアリの巣のように様々な通路が入り乱れている。
「しっかり付いてきてください。勝手に別の通路に入って死なれてもこちらは関わりませんから」
「デストラップ付きか。アルケさんがいて助かったよ」
「デストラップということは、一発KOですか?」
「そういうことさ」
俺の隣を歩くのはティグルさん。列の先頭にはアステルさんと騎士団のメンバーが安全を確認してくれている。向こうが完全に信頼していないように、こっちも王女様のことを完全に信じていいわけではないからだ。辛い現実だねー。
五分ほど歩いてたどり着いた先には扉。王女様がなにやらドアノブを操作しているようだから扉そのものもトラップなのだろう。運営様? なにやら鬼畜になってませんか?
「これでいいわ」
開いた扉の先は個室だった。雰囲気としては安い宿屋の一室。最低限の家具しか置いていないそのベッドがわずかに上下している。誰か寝ているのか?
「国王様、お体はどうですか?」
「……る…………な」
「はい、ルーナです」
ベッドで横になる弱弱しい国王。これはまたしてもイベントかな。
「国王って生きてたんだな」
「てっきり最初に殺されたのかと思った」
みんなが感想を口々に告げる中、一人のプレイヤーの声が響く。
「麻痺毒!?」
その発言をしたのはセラフィムのプレイヤー。今までもずっと【看破】の発動をお願いしていた人たちの一人だ。
俺としては麻痺毒という単語にピンとこないが、俺以外の面々は顔をゆがめている。
「ティグルさん。麻痺毒とは?」
「そうか知らないのか。ツメが黄色い魔族が持つバッドステータスで文字通り麻痺と毒が同時に発生する。麻痺用、毒用のキュアポーションでは治療できず、同時に飲ませても効果は無かった」
うわぁ、なんだそのチート能力。いや、魔族だからか?
「毒によるマイナスダメージはそれほど高くない、そして麻痺のほうが先に治るから急いでポーションで回復してからキャアポーションで残った毒を消す、これくらいしか対応策が無い現状最もかかりたくないバッドステータスだよ」
麻痺毒という名前の通りの症状なわけか。しかし、どうやら状態異常であることは変わりない様だ。となれば、何とかなるかもしれない。
「王女様、国王の具合はどうなのですか?」
先ほどの【看破】持ちのプレイヤーに訊いたほうが早いかもしれないが、もしかしたら彼女なりの見解を教えてくれるかもしれないからという理由で王女様に声をかける。
「そこの少女が言うように麻痺毒に犯されている。正直、もう助からないだろう」
すると王女は立ち上がり、俺たちを見つめる。
「この通路を発見できたあなたたちだからこそ、頼みがある。どうか国王を、お父様を助けてくれないだろうか」
頭を下げる王女様。同時に〈緊急クエスト『国王の命を救え!』を開始しますか? なお、このクエストを受けなくてもエリアクエストは進むことができます Yes/No〉と記されたウィンドウが王女様の頭上に表示される。
王女様はまるで時が止まったように頭を下げたまま微動だにしない。実際、俺たちがクエストを受けるか否か決まるまでこの態勢なのだろう。
「どうする?」
「ここは助けたほうがこの先楽になるのだろうが……」
「キュアポーションどこかに売ってるかな?」
「それぞれの種族エリアの先にある可能性は?」
あちこちで始める議論。さて、またしても目立ってしまうが、この際しょうがない。
「全員注目!」
俺の叫びに「なんだ? なんだ?」的な感じでみんなが目を向ける。全員が俺を見ていることを確認して俺はウィンドウを操作する。
「今から国王を治す。異論ある人は?」
今後はポカーンみたいな表情を見せるみんな。あれだ、埴輪そっくり。
「え、あるの?」
「悪いがライン。麻痺毒用のキュアポーションは持ってない。持ってるのはコレだ」
アイテムウィンドウからさっき完成したばかりのアイテムを出す。それは白く光る十字架。
〝キュアクロス″・治療アイテム・HR
どんな状態異常も一回だけ治す。
使ったら壊れ、対象者は全ステータスが20秒間-20%。
ではまた来週。




