第十九話:地下への入り口
最近乾燥していますね。リップクリームの偉大さに感謝です。
バラバラに分裂したスライムはそのままどこかへと去っていった。あれ? こういう時は戦闘が発生するんじゃないのか?
「ねえ、今の何?」
そんな俺に声をかけたのはエルジュ。なんか体が震えているみたいだけど、とりあえず「スライムらしい」と応えると発狂しだした。
「木に化けるスライムってことは間違いなくツリースライム! なんてもったいない!」
エルジュの発言に他に同じように「もったいない!」と発言する者や「あれがそうだったのか」と納得する者など反応多数。とりあえず発狂しているエルジュでは話ができないと判断し、ラインに訊いてみる。
「そっか、お前あんまり掲示板とか使わないもんな。弓を作ることに関して徹底的に研究している職人、『弓職人』ってそのまんまな二つ名まで付けられたプレイヤーがいてな。その人がさっきのツリースライムのドロップから作った弓が現状最強武器なんだよ」
最強武器とはまたすごいな。しかし、そこまで熱心なら生産に特化しているはず。そんな人があれを狩れるのか?
「お前が疑問に思っていることは想像がつくから説明すると、その人は【弓】のスキルもかなり上げていてすでにランク4の【狙撃手・弓】まで上げてる。つまり、CWOにおいて弓に関してはあの人の右に出るものはいないのさ」
ほう、そんな人がいるのか。まるで自分みたいだな。
「感心しているようだけど、君だって【錬金術】を扱うプレイヤーの最高峰、いや別格なのは自覚しているかい?」
振り向くとティグルさんが乾いた笑いを見せていた。
「別格とまで言われるのか?」
「当然だろう? 君以外誰もが見向きもしなかったスキルなのに、新しく設立されるギルドでは【錬金術】を習得している者がいないギルドなど存在しないくらいさ」
そういえばギリアムが言ってたな。クズスキルの概念を破壊したって。アレは世辞でもなく環境変化そのものを指していたのか。
ようやく全員落ち着いてきたので改めて転送魔法陣を確認する。一応ルーチェで何回も使い、さらにエイミさんから簡単な講義も受けているので、具体的な場所まではわからないがどこに転送されるのか少しは理解できる。
「この文字は土だな。そしてこれは下だから地下に転移するのは間違いないな。あとこれは数を表す表記でこのパターンは3だったはず。つまり、最大3人までってことか?」
魔法陣を見つめながら教わった知識を思い出すが、残念ながらこれ以上は解読できない。そういえばスキル増強剤まだ使ってなかったな。このクエストが終わったら使って【魔法陣魔法】を習得しよう。【融合】が使えた今の俺ならできるはずだ。
ちなみに、その結果であるスフィレーンとの通話は既に切れている。何回か挑戦したが音沙汰無しなのでおそらくあの時間が限界だったのだろう。
「さて、誰から行く?」
「その前に、なんでそんなことわかるんだ?」
振り向いて誰がいけに……訂正、最初に突撃するか訊くと全員が驚いた表情を見せている。
「あ、そっか。魔法陣読めるほうが珍しいよな」
「誰に教わったの?」
「アステルさんは間違いなく知らないと思うから簡単に言うとNPCの一人だよ」
名前は元より妖精族エリアにも行かなそうだからフェアリーガードとか妖精族NPCで構成された警備部隊とか言っても無駄だろう。
「それって前に会ったイベントで一緒に行動した三人の誰か?」
「残念ながらその人たちでもない。というか、俺以外のプレイヤーで会ったことある人いないと思うぞ」
エイミさんと会えるのはルーチェに移転した工房かフェアリーガードの本部だけだ。第六隊の面々はあまり警備に出てこないからな。
「どうやったらそのような方と会えるのですか? 私としてはそのスキルが一番欲しいですね」
「アポロンさんに同意~。アルケさんが着ている鎧も~見たことないから~、多分NPC製だよね~?」
あらら。アポロンさんやミオさんまで興味を示しちゃったか。というか、ここにいる全員が同じ視線を送っている。
「とりあえず、その辺の情報は後で話すよ。今はこっちを優先しよう」
俺の提案に全員賛同してくれたので転移魔法陣を見つめながらそれぞれの代表者たちが話し合う。あとは彼らに任せて……
「とりあえずアルケは確定だよな。クエスト受けた本人なんだから罰は無いだろう」
「となると、彼は戦えないから我ら騎士団から誰かをサポートに回そう」
「あとは攻撃要員も必要」
「アステル? あなたは参戦しないのですか?」
「地下の広さがわからない。私の攻撃は範囲型」
「となりますと、やはり信頼関係があるラインくんですかね?」
「「「「異議無し」」」」
「ラインほどの実力者がいるのなら護衛がしやすいな」
「というわけで、準備してくれ」
なんで俺はクエストを受けてしまったのだろうと後悔した瞬間だった。
結果、転移魔法陣を使うのは俺、ライン、そして騎士団からバトラさんの三人。バトラさんの実力は騎士団の中で中くらいだ。そんな彼女が起用されたのは俺が「騎士団から女性プレイヤーを一人出してほしい」と頼んだからだ。
理由はもしかしたら第三王女がいるかもしれないからだ。あの老婆は第三王女のことを一番心配していた。となればこのクエストで最も重要な人物である可能性がある。そのことを指摘した結果、彼女が選ばれた。騎士団所属の女性プレイヤーでは最も防御能力が高いからだ。
「では、逝くとしようぜ!」
意気揚々と転送魔法陣へと歩いていくライン。その様子を見てバトラさんも慌てて後を追おうとするが、その腕を俺がつかむ。
「アルケさん?」
「実はもう一つだけ解読できたことがあるんだ」
ラインに気づかれないように少し声を落とす。そしてラインは止まった俺たちに気づかずに転送魔法陣を踏む。
「いざ! ちかめいきゅ――」
その後に響いたのはラインの声ではなく何かがぶつかる音。そして上空へと飛ばされたラインがそのままの態勢で落ちてくる。
そんなラインをスルーして再び魔法陣を見つめる。
「よし罠の解除確認」
「……一応ギルドマスターなので丁寧に扱ってくれない?」
「ダメージ自体はたいして無いよ。ちょっとしたトラップだからな」
「そのトラップをもろに受けて気を失ってますが?」
ブレイズの面々から送られる視線が痛いが、まあ、これが一番手っ取り早かったのからしょうがない。
「ではバトラさん。行きましょうか」
「え? あ、はい」
のびてるラインの足を持ち引っ張りながら魔法陣の中央に立つ。指を中央の印に当て、魔力を流すと光出す魔法陣。指から魔力を流すこと以外はルーチェの転移魔法陣と変わりないな。
「そして無事に到着と」
「本当に地下へ転移したんですね」
「……」
未だに反応が無いラインも無事に地下にだどり着いたので打ち合わせ通りエルジュにリンクチャットをつなぐ。
≪こちらアルケ。どうぞ≫
≪いや、そういうのはいいから≫
≪三人とも無事。魔法陣の様子は?≫
≪とくに変わりないよ≫
≪なら、三人ずつ来てくれ≫
≪了解≫
さてと、全員が到着するまで少し休みますか。
トラップ発動からの頭ガチーンはお約束ですよね。
ではまた来週です。




