第十七話:洞窟攻略戦……はスルー
タイトルを見て「あれ?」と思うかもしれませんが、詳しくは本文をどうぞ。
迎えた洞窟攻略戦当日。洞窟突入予定の13時より1時間早い12時過ぎ。洞窟近くの野営地でプレイヤーたちは攻略に向けて訓練や隊列の確認、正確には最後の調整をしている。
この野営地はサバゲーが趣味のプレイヤーたちが集まったギルド、その名も『サバゲー部』によって設立されており、どこから持ってきたのか鍛冶場まで完備している。
俺はその鍛冶屋を借り、〝フレイム・サイト″をブレイズギルド所属の鍛冶プレイヤーにお願いして合成してもらい、それの試作を試していた。
いつくかの失敗も重ねた結果、一番良い出来の物をラインに渡して試してもらう。すると突きの体制で構えた剣先から【フレイムレーザー】が飛び出てきた。その距離は目算で2㎞くらいだろうか。
「「「「「「おお!」」」」」」
周りからも声が上がる。効果は事前に知っていた俺もちょっと驚きだ。正直射程には期待してなかったのだが、これにより近接しかできなかった剣士たちも遠距離攻撃に参加できる。
……また掲示板が荒れそうだな~。レシピを公開できればそれがいいんだが、〝レッド・アイ″の入手方法がな~。
「ほう、いいじゃねぇか」
その声の主はギリアム。彼も試作品を見に来た見物人の一人だ。
「ブレイズの頭。いい友人持ってんだな」
「まあな。しかし、あんたまで見に来るとは思わなかった」
「クズスキルの概念を破壊しやがったヤツが新作、しかも武器に魔法攻撃を付属できる物を作ったと聞いて無視するヤツはいねえだろ」
クズスキルの概念を破壊か。確かに最初のころはクズスキル扱いだったが、それが今や第一線で戦うプレイヤーすら注目するようになったからうれしい限りだ。
「でも、コレをつけると耐久値がかなり減少します」
「メイン武器には使えないか」
そんな会話を耳にしながらも鍛冶プレイヤーと話し合う。剣を見せてもらうと数値にして元の耐久値の1/3程度が減少している。ここまで減るとちょっと使いにくくなってしまうな。
「うーん、となるともう少し改良が必要か」
「あとは武器の耐久値を高めるか、ですね」
武器の耐久値を高めるにはランクの高いインゴットを使うかより質のいいインゴットを使うしか今は手段がない。これに関してはいくら【鍛冶】レベルを上げても意味がないことをシュリちゃんからも聞いている。
「なら、次は耐久値を上げるアイテムでも考えてみるか」
「「「「「「「そんなことできるの/か/ですか!?」」」」」」」
周りにいた全員が一斉に問いてきたが返事は「今は無理」だ。しかし、可能性が無いわけでもない。なぜなら錬金術には無限の可能性があると俺は信じているからだ。
「というわけで、だれが持つんだ?」
完成した試作品を除いて残った〝フレイム・サイト″の数は5つ。もう少し時間があればよかったのだが、こればかりは仕方がない。本来この鍛冶場は最後まで訓練をしていたプレイヤーたちの武器の修理として使われることになっているからだ。
「とりあえず、俺が持っておく」
「なら、一本もらおうか」
声を上げたのはラインとギリアム。他にも欲しいと手を上げるプレイヤーが多数。
おいおいここで突発的なオークションとか止めてくれよ。ただでさえ、これから一緒に攻略するんだから。
今回の作戦だが、洞窟は狭いので攻撃力の高い戦士・盾持ちの重戦士・魔法使いの構成で行われる。まず戦士が二人並び、その後ろに重戦士二人、そして魔法使い二人の隊列だ。二人だけと思われるがそれくらいしか幅がないのだ。
最初に魔法使いから支援魔法を受けた戦士が攻撃を与え、戦士が死亡もしくは厳しくなると魔法使いが支援を止めて攻撃魔法を行う。つまり、最前線の戦士たちはほぼ死ぬことを前提となっている捨て石戦法なのだ。重戦士が間にいるのは防御が弱い魔法使いたちを少しでも長く生かすためだ。
正直聞いたときはどうかと思ったが前にいるプレイヤーほど、この洞窟で手に入る鉱石から作られる魔武具を先に獲得できる権利が得られるのだ。捨て石となるものへの対価みたいなものだな。
参加メンバーの数は80名程度だからそこそこ数は多い。これなら犠牲を出しつつも洞窟解放は可能だろう。
その前にこの一触即発に近い空気を何とかしないと。
「質問。それはどんな武器にも合成できるの?」
そんな雰囲気の中で響く声にだれもが視線を向ける。あの修道服の少女、アステルさんだ。
アステルさんの問いかけに全員の視線が、鍛冶をしてくれたプレイヤーも含めて、俺に向けられる。
「一応、可能みたいだけど?」
「なら短剣に付ければいい。それなら動きを妨害しない」
なるほど。確かに剣だと構える動作も必要だが短剣なら相手に剣先を向けるだけで済むな。一応剣でもできるけど結構隙だらけになるからな。
「いいアイディアだアステル。で、誰が持つべきだと思う?」
「ギリアムでないことは確か。持つのは重戦士」
「盾で防御しながら【フレイムレーザー】を当てさせるのか。しかも盾のおかげで剣先は見えないから向こうは対処できない」
「それと持つのは三団目以降。早い段階で使うと後で大勢来られた時に苦労する」
「なるほど……他に意見があるものはいるか!?」
ギリアムが大声をあげ周りを見渡すも反論はない。なお、アステルさんが言った「三団目」というのは、戦士・重戦士・魔法使いの組み合わせを今回の作戦では『団』と呼ぶ。つまり、三つ目の集団のことだ。
「というわけだ。すぐ用意できるか?」
「「「「「了解!」」」」」
各ギルドから集められた鍛冶プレイヤー、最も五人しかいないが彼らがギリアムの声に応える。五人しかいない理由は第3エリアでも生き残れる鍛冶プレイヤーを各ギルドが探した結果、五人しかいなかったからだ。言い方を変えれば彼らは職人でありながら戦闘も可能なあるいみ稀な鍛冶プレイヤーなのだ。
それでも鍛冶プレイヤーなだけあってすぐさま五本の〝フレイム・サイト″搭載をした短剣が完成。割り振りはギリアムに任せるとして俺の出番はとりあえずここまでだ。
「さて、それじゃ一旦ルーチェに戻るよ」
「おう! 作戦が終わったらすぐさま地下通路探索が始まるからいつでも出れる用意はしておいてくれ」
本来なら俺も残ったほうが早く行動に移せるのだが、悲しいことに俺のステータスだと第3エリアの敵にはかなわない。そのため俺は一旦避難することになっているのだ。
「さて、すぐ出ると言われても向こうも時間がかかるはず。その間にもう一つ試したい物をしておくか」
ルーチェに戻って錬金窯の前に立ち、アイテムを投入する。
使用するアイテムはこの間完成した〝パーリィードラッグ♪″と〝清水″、そして〝ポーション″だ。
〝パーリィードラッグ♪″そのものは劇物と言えるくらいヤバいものだが、毒だって利用価値はある。歯医者とかで使う麻酔だって大量に使えば人を殺すことも可能なのだから。
最初の結果は見事に失敗。窯の中が光りだし、また煙が充満するのかと思いながら避難。
「……あれ?」
爆発音がせず、部屋の中に煙が溜まってる感じもしない。恐る恐る振り返るとセリムさんが錬金窯に蓋をしていた。
「なんですか、それ?」
「もう煙は嫌だからアルケさんがいない間に作った」
そう言いながら蓋を外す。あら不思議、煙が出てきません。
「なんで?」
「この蓋は〝―――″。蓋の底に使った〝―――″が煙を吸収してくれる」
セリムさんが説明してくれたが肝心の名前や素材が聞こえてこない。これはまだ実装されていないのか、あるいは今はまだ知ってはいけない情報なのか。
どちらにしても俺には作れない代物だということだ。
「俺でも使えるのですか?」
「? 蓋の使い方の説明が必要?」
セリムさんは本当に不思議そうな顔をしてその蓋を持ち上げる。どうやら作れないだけで使うこと自体は可能みたいだ。
そして俺はこの蓋に二十回ほどお世話になりながらもようやくアイテムが完成した。やはり劇物は扱いが難しい。
完成に喜ぶと同時にラインから<遅くなった。すぐ来てくれ>とリンクチャットが入ったのですぐさま第3エリアに向かった。
というわけでアルケは参加しませんでした。戦闘職じゃないからね。しょうがないです。
本文最後に完成したアイテムは近いうちに登場します。あ、パーリィードラッグ♪の強化版とかではないのでご安心を。
……いっそ作ってみるか?
ではまた来週です。




