第十六話:新たな錬金アイテムたち
ルーチェにダイブインしてさっそく調合を開始……する前に今自分が作れる攻撃アイテムを確認すべく、それらを一度床に敷く。
「〝フレイムボム″・〝レインティア″・〝スノープリズム″・〝ライジンディスク″。これらが基本。他には〝グレンダイム″。そしてこの前のイベントで偶然の産物として調合した〝アクアブリザドン″。そしてもう無いけどさらに調合して完成した〝ヴェノブリザスタル″」
個人的に広範囲攻撃で状態異常も可能な〝ヴェノブリザスタル″は優秀なんだけど、イメージとして魔族って毒耐性持ってるような気がするんだよな。あと、広範囲すぎて味方を確実に巻き込む可能性大。
「となると、新しい攻撃アイテムが必要か。エイミさんからもらった〝レッド・アイ″も使ってみたい。
というわけで、まずは〝フレイムボム″を作る要領で〝レッド・アイ″を使って調合してみました。
「それで、こんな状況なのですか? ケホ」
「うん、ゴホ」
買い物から帰ってきたセリムさんが煙まみれの調合室でむせる。ついでに俺も。
まあ、この状況からわかる通り失敗した。しかも盛大に。
「しかし、アルケさんは無謀すぎ」
「そこまで言われるの!?」
「錬金術で作った物は魔力を持つ。なのに元から魔力が高い物を混ぜ込んだら爆発するのは当然」
ん? 錬金アイテムが魔力を持つ?
困惑する俺にため息をつきながらセリムさんは説明を始める。ところでその△メガネはどこで買ってきた?
「アルケさんも知っているように錬金アイテムは普通では持たない特殊な能力が多い。回復薬みたいな普通の物でも効力次第ではかなり異なる物にできる」
確かにいまだに錬金術以外の攻撃アイテムが出てきたという情報はない。そろそろ出てきてもいいころなのに。
「その理由は錬金工程の間に魔法陣から放ってる魔力を吸収してるから」
「へぇ~」
「……エイミさんはすぐ気づいたのになんでアルケさんが知らないの?」
そうは言いますがセリムさん? こっちは普通の人間よ? 妖精族の姿を借りてはいるけど、魔力なんて感じることができるわけがないのよ?
こちらの視線から俺が考えていることを察したのかそれ以上は追及してこなかったがその後も説明は続いた。
要約すれば『薬草や水など元から魔力を持たない物同士が基本。魔力持ちは同じように魔力持ちで組み合わせないと完成しても魔力が大きすぎて爆発する』ということだ。
「あれ? その理論だと〝清水″はどうなるんですか?」
「あれは聖なるモノ。如何なる物にも適合する力を持ってる」
ほう、聖なるモノはどんなものにも調合可能と。覚えておこう。
「……それって作った物が聖属性とかにはならないのかな?」
ふと思ったことだが、もしこれが可能なら魔族に対して最強のアイテムが作れる!
「ひじり属性? なにそれ?」
「え!? 光属性のさらに上とかじゃないの!?」
「そもそも属性に光なんて存在しない」
「……ちなみに魔族に属性ってあるのかな?」
「聞いたことない」
え~……
夕食を作るためにダイブアウトし、作り終えた焼きそばを食べながらネットを検索する。行儀が悪いが食べ終えたらまた調合しなければならないので今日だけは許してほしい。
「本当だ。魔族関連の掲示板に『~~属性の攻撃が有効』という一文が無い」
これが魔族関連最初のイベントである『ドワーフ族の隔離事件』後の話なら信憑性が無いが、今見てるのは最前線の情報を掲載している攻略サイトの掲示板。
属性攻撃の書き込みはいくつかあるがどれも目に見えての効果は記されていない。ついでに状態異常にも耐性があるようだ。
「となると、〝ヴェノブリザスタル″は完全に無意味だな。やはり〝フレイムボム″と〝レッド・アイ″のコラボしかないか」
さて、帰ってきましたこちらの世界の自宅、ルーチェ。先の煙充満だった模様からいつもの部屋に戻っています。
「危険だから監視してる」
「信用無いですね~」
さらに異なるのはセリムさんとエイミさんというギャラリーがいるくらいだ。まあ、これくらいならもう慣れた。
とりあえず〝フレイムボム″と〝レッド・アイ″+〝調合粉末″で試作してみた。
〝フレイムサイト″・補助アイテム・R
武器に合成すると5発だけだが〝フレイムレーザー″が撃てる。
HP‐100~150
*届いた距離によってダメージが変動する
完成したのは大きなビー玉くらいサイズの紅い玉。〝フレイムボム″の攻撃力に〝レッド・アイ″の火力を足し、なぜかビームになった。まあ、ビームだから狙いに当てやすくはなったな。
「しかし、これだといざという時には頼りになさそうだな」
というわけで次の調合。基本アイテムとしては最強の攻撃力を誇る〝ライジンディスク″に〝フレイムボム″を混ぜてみる。そして中和剤として〝清水″を入れる。普通に考えれば〝フレイムボム″の能力が消えそうだけど確認してみてかったのだ。
〝クリムゾンフォール″・攻撃アイテム・R
紅に輝く稲妻を落とすことができる。
30%の確率で当たった相手を【やけど】状態にする。
HP-200
おお、これはいいぞ。でも〝フレイムボム″の力は消えてしまうのか。やはり火と水では相性が悪いのか。
「では、次」
俺は取り出したアイテムを次から次へと錬金窯に入れる。入れているのは全て毒草だ。状態異常耐性が強いのであれば様々な状態異常を与えればどれかは効くんじゃないかなぁという想像から考えたものだ。正直完成してもあまり使いたくないが。
結局8種類の毒草、それぞれそのままの毒草、麻痺草、火炎草、昏睡草、冷凍草、混乱草、暗黙草、そしてバーサクシード。一応それぞれちゃんとした名前があるのだが面倒なので効果だけで名前付けしてる。バーサクシードは一応貰い物なのできちんと正式名称で。
さらに念のために〝調合粉末″と〝清水″を多めに入れる。これで混ぜやすくなっているはずだ。
そして失敗しました。
「さて、どうするか」
草たち+種を見ながらうなっている俺にパンという音が聞こえてくる。顔を向ければエイミさんが両手を合わせていた。
「そうです! この間アレが実家から出てきたの忘れてました!」
「アレ?」
疑問符を浮かべる俺をスルーしてエイミさんは自身の部屋に走り出す。なおセリムさんは一階で売り子を練習している遊女の新人を見に行った。
少しして戻ってきたエイミさんの腕に抱えられていたのはテレビとかで正月によく見るアレだった。
「臼ですか?」
「はい。ですがこうすると……」
エイミさんは臼の側面に描かれている魔法陣に触れる。おそらく魔力を流しているのだろう。するとみるみる臼が小さくなり、気づけばすり鉢の大きさになっていた。
「昔父が骨董品として買ったものなのですが使い道が無かったので実家に置いてあったのです。もしかしたら使えるかもしれないと思ってもらってきました!」
「それをいただけるのなら助かりますが……もし俺が使わないって言ったらどうするつもりだったんですか?」
「その時はフェアリーガードの広場の片隅にでも捨ててましたね」
魔法の臼、いや今はすり鉢哀れ。
ともかくすり鉢とアイスを交換し、満悦の笑みでアイスを口に運ぶエイミさんから離れて毒草たちをすり鉢ですりつぶす。これならば混ぜやすくなるから成功するかもしれない。
完全にペースト状になった時点で【看破】を発動させてみると〝状態異常満載の毒物″なんてとんでもない名前のアイテムになっていた。早く錬金窯に入れてしまおう。あと、調合終わったら中の調合水を高温にしておこう。なんか怖い。
そして先ほどと同じように調合してみた結果、想像以上の物が完成した。
〝パーリィードラッグ♪″・劇物・HR
あらゆる状態異常が込められた瓶。一舐めするだけで二種類の状態異常に陥る。一部で「いやなことがあった時の最後の切り札」と言われている。
*陥る状態異常はこれを作るために混ぜた物がすべて含まれ、ランダムで発生
「……これは要相談だな」
とりあえずこんな感じでいくつか新アイテムを用意できた。明日はいよいよ洞窟攻略戦。上手くいくといいのだが。
まあ、俺の本番はその後なのだが。
現実ではドラッグおよび劇物には絶対に手を出さないでください。
例えそれが殺したいくらいの相手でもです。 薬、ダメ絶対!
ではまた来週です。




