第十五話:真意
この話の前にホワイトデーの話も同時投稿しております。そちらも読んでいただけると嬉しいです。
結論から言えばアイスは大成功だった。集まった四人とも一口入れれば嬉しそうにまた一口と口に運ぶ。
「この間よりもこっちのほうがいいな」
「あら、あなたと意見が合うなんて。明日の天気は悪くなりそうね」
ああ、またしてもバラ様とボタン様が一触即発だ。まあキク様が止めてくれるだろう。
「これはいいものですね。お代わりはありませんか?」
「あ、アルケさん。私も欲しいです」
キク様ほどのハイフェアリーですらここまで欲しがるアイスの魔力。もし妖精族っぽいモンスターが現れたらこれで倒せないかね?
パロン様、訂正サクラ様はもう慣れたのでスルー。
そしてバラ様とボタン様も先ほどの空気はどこへやら「私も欲しいです」と顔に出ている。
「すみませんが、今日用意したのは皆さんの分だけです」
「そんなわけないだろ? 前と違って二種類の果実を使ってるのはわかるが、そこまで貴重じゃないはずだぜ?」
「あなたはだからバカなのよ。このアイスは前と違ってサクラの聖樹様の恩恵を感じるわ。だからこそ、量が前より少ないのでしょう?」
ボタン様に言われて気づいたがアイスの量少なかったのか? そこまでは見てなかったな。そしてさすがは聖樹の名前を借りている存在。〝清水″の氷にすぐに気づいたか。
「そういえばそれはどうやって調達したのですか? 場所からして私のところの聖樹様ですよね?」
「ええ。以前サクラの聖樹様付近の薬草が必要なことがありまして、その帰りに小枝をいただいたんです」
「「「「!?」」」」
あれ? みなさま固まってしまった。もしかしてやっちゃたか?
「それは驚きました。いえ、それだけ聖樹様の見通しが素晴らしいものだったということですね」
一人納得しているキク様に前々から疑問だったことを訊いてみる。
「今まで忘れていたのですが、やはりすごいことなんですか?」
「小枝とはいえ聖樹様のお力が込められています。おそらくそれを狙いに来る俗物がいてもおかしくないですね」
「……アリサをアルケさん専用の護衛に寄こしましょうか?」
そこまで言われてサクラ様はこちらに顔を向けるが俺は首を横に振る。
「ルーチェは常にフェアリーガードの方々が警備してくれているので大丈夫だと思います」
それにエイミさんもほぼ滞在しているから余計に大丈夫だろう。……あれ? もしかしてエイミさんがいる理由ってそれも兼ねていたりするのか?
「さて、本日はアイス以外にもあなたにここに来ていただいた理由があります」
キク様が食べ終わったアイスの皿とフォークを丁寧にテーブルに置く。ちなみにどちらもアリアさんの雑貨屋で購入したものだ。
「他にも?」
「ええ。先ほどの話が無ければよかったのですが」
そう言ってまたしてもあの聞き取れない呪文を唱える。唱え終わると空中、キク様の正面に青い球体の何かが浮かんでいる。さらにその中に何かが見える。
「おいおい!? それってキクの聖樹様の苗木じゃないのか!?」
「ええ!?」
「うそ!?」
はぁ!? 聖樹の苗木!? それって貴重って言葉以上にとんでもないものじゃないのか!?
「いいんですか!? そんなものを!?」
「ええ。むしろこれを渡すためにあなたをここにお呼びしたのです」
同じ顔が困惑、動揺、呆然と三種類並んでいる。いや、俺の顔もそのどれかになっているだろうけど、とりあえずキク様の意図を聞いてみよう。
「それが目的でアイスはついでだと?」
「はい。あなたをここに呼ぶ口実を探していたのですが、サクラ様はいいタイミングでよい物を持ってきてくれました」
笑みを浮かべるキク様。一応アイスも楽しみにしてくれていたようだ。そういえばお代わり注文してきたのもこの人だった。
「さて、どうしてこれを渡すのかというと、実は私がこの苗木を見つけたときにキク様のお言葉が聞こえてきたのです。『いずれ関わりを持つ異邦人にこの苗木を渡してほしい』と。その少し後に神から『異世界から多くの客人がこの世界に現れる』とお告げがあったので私はキク様の苗木を保管し、その時を待っていたのです」
「それだと、自分では無い可能性もあるのでは?」
「いえ。間違いなくあなただ私の勘が告げています」
え、勘なの? それでいいの?
見れば他の三名も同じような視線をキク様に送っている。
「それも含めて確認のために来ていただきました。同じようにサクラの聖樹の恩恵を受けているあなただからこそ、この苗木を託したいのです」
そこまで言われてしまえば断りづらい。とりあえず受け取っておいて他にふさわしい人がいないか探してみることにしよう。
「では、こちらに来てくれますか?」
指示通りキク様の元に歩み寄ると苗木入りの球体が近づいてきたのでそれを受け取る。
『〝聖樹の苗木″を獲得しました。なお、このアイテムはアイテムボックスから取り出せません。ふさわしい場所に到達すれば自動的に具現化します』
おいー!? 何なのこのアイテム!?
思わずウィンドウを操作してみれば確かにタップしても何の反応もない。ただ横に『このアイテムは取り出すことができず、同時にアイテムボックスの収納数に影響しない』と表示されたのでもう気にしないことにする。
一瞬呪いのアイテムじゃないのかと思ったが罰当たりになるのですぐに思考を止めた。
「それでは、今日はこれでお開きとします。あ、サクラ様は次集まるときもアイスを持参でお願いしますね」
「は、はい!」
立ち上がって頭を垂れるサクラ様。ハイフェアリーの長同士でもここまでの上下関係があるんだなぁ。というか、これって新しいアイス作れっていう催促じゃないか。とほほ。
今日は精神的にもう疲れたのでルーチェに帰ってすぐダイブアウト。翌日はインせず。
なぜならテスト大好き英語担当の小林先生が「明日の臨時小テスト赤点の奴は日曜日追試なー」という恐怖宣言を残したので努に勉強を教えている。さすがに追試で洞窟攻略に参加できないなんてことになったらブレイズの名が地に落ちる。
「なんであの先生日曜日に追試するんだよー」
「なら土曜日のほうがいいのか?」
「どっちも嫌だろ!」
「まあ、あの性格だから英語だけはどのクラスも平均点高いよな。そのうち全ての先生がマネするんじゃないのか?」
「くそう。新任担任のくせに生意気な」
「はいはい。愚痴はそこまで。そこ間違ってるぞ」
基本的に小林先生の臨時小テストは出題する範囲がその週に習ったことなので正直余裕だ。授業さえ聞いていれば赤点の可能性はほぼ無い。
「まあ、中間や期末で追試よりはマシだろ」
「ぐふ」
そして翌日、無事に小テストは赤点0人で終わった。努はあと2問間違えたら追試だったらしく、終わった後すごい感謝された。もうこれで情報提供のお礼でいいかなとか思ったほどだ。
「さて! ようやくこれで憂いなく攻略に精が出せるぜ!」
「まあ、ほどほどにな」
「街のことは任せておいて!」
「お前も落ち着け」
テンション高い二人と同じように空をなだめる後輩三人組と苦笑を重ねながら家路を歩く。
さて、俺も今日こそは攻撃アイテムを作らないとな。
今回はホワイトデーの話も同時に書いていたので正直内容が薄くなってしまい、申し訳ありません。その代わり、来週は本命! 錬金術です!
アルケ「なあ、錬金術師なのにほとんど錬金術しない主人公でいいのか?」
作者「最近かなり焦ってる。どうやって組み込もう?」
アルケ「おいこら」




