第十三話:ひとまずの決着
これを投稿する時に気づいたのですが、閑話や季節ネタの話を含めての結果となりますが、なんと掲載二百話を達成していました。
一話遅れてしまいましたが、これまでのご愛読ありがとうございました!
今後も楽しんでいただけるよう、精一杯がんばります!
「なら、こういうのはどうだ?」
緊迫した状況の中で声が響く。その主は部屋の壁に背を預けていた。
「何か言いたいことでもあるのか、ティグル?」
おや? ギリアムの声が少し弱くなったような気がするぞ?
「私が集団行動に向いていないことは知っているだろう? だから私が彼女に同行する。それでどうかなアステルさん?」
ティグルと呼ばれた男の発言に考え込むような表情を見せるアステルさん。これまでのやりとりから自分の意思を曲げない人なんだと思っていただけにこの表情には驚かされた。それに先ほどのギリアムの様子を足して考えると、もしかしてあのティグルって人がこの中で一番強いのかな?
「……そのクエストを他の人が受諾することは可能ですか?」
「へ? ああ、どうだろうな? 俺が受諾できたのは【看破】があったからみたいだから誰でもというのは無理だと思う」
「そうですか。なら仕方ないですね」
指を振るうとウィンドウが消滅する。どうやらティグルさんの意見に従うようだ。
その代わり別のウィンドウが表示された。てっきりティグルさんからのパーティー申請かと思ったらなんとアステルさんからのフレンド承認申請だった。
「これなら問題ないでしょう? 新しい情報がわかり次第教えていただけますか?」
「自分以外は信じないのでは?」
「情報は多いほうがより確実になりますから。それにあなたは戦闘職ではない。そういう別の視点からの情報は時に何よりも重要になることがあります」
なるほどと納得し、フレンド承認を許可する。それを確認するとアステルさんは建物から立ち去ろうとする。
「おいおい。こっちの用件はまだ済んでねえぞ?」
「そうね。アステルあなたには洞窟突入部隊とは別の遊撃をお願いするわ。決行時間が決まったら連絡するから」
「おいてめぇ! 何勝手に決めてやがる!」
「頼みましたよクオン」
「待てよ! アステル!」
ギリアムは指を動かすとおそらくアイテムボックスから取り出した槍をアステルさんに向けて投げた。光を伴った軌道から間違いなく【投擲】スキルだ!
「あぶな……!」
「〔障壁〕」
短く紡がれた言葉。そして甲高い音。
投げられた槍はアステルさんが持つ神楽鈴にぶつかり、勢いがなくなって床に落ちた。え、何今の?
「あれがアステルだけが持つスキル【神楽】だ」
「かぐら? そんなスキル聞いたことないぞ?」
「そりゃそうだろ。今のところアステル以外使ってるプレイヤー、いやNPCも含めて誰もいない。おそらく特殊なクエストをクリアして得たスキルだろうけど、その情報をアステル自身が公開しないから今現在ではアステル専用の固有スキル状態だな」
そんなスキルもあるのかと感心している間にアステルさんはすでに建物から出て行った。いろんなプレイヤーがいるのはわかっていたが、その中でもアステルさんは変人だと俺は認識した。
「さて、それではこちらの話し合いを始めようか」
背後から聞こえてきた声に振り向くと先ほどのティグルと名乗る男性が立っていた。
「ああそうだ。ギリアム、ここにいるブレイズはこっちにもらっていいかい? 戦力は足りているだろう?」
「……確かに足りてるが、そいつらが必要か?」
気になる質問だと思ったがそういえば最初に『集団行動には向いてない』って言ってたなこの人。
「彼女とライン君が親しい間柄なのはすでにわかっているだろう? なら彼がいたほうが彼女も緊張しないで済むだろう」
「あと、アルケが生産職だからそれを護衛する者も必要っていうことか?」
「さすがはライン君。やはり君は優秀だよ」
なんだろう。攻略している連中って変人しかいないのか? さっきのアステルさんとかこのティグルさんとか。
ギリアムって人も、先ほどから彼に確認をしていることからこの集団のリーダー的存在だと思うけど、自分のことを中心に考えているように見える。
あと、クオンって人はよくわからん。
「まあ、いい。確かに戦力は余ってるからな。ただし、きちんと情報はこちらにも寄こせよ」
「もちろんさ。魔族対策も大事だが、王族の生き残りとなればエリアクエストに関係している可能性が高い。最優先事項に関する情報を独り占めにはしないよ」
そう言って俺にパーティー申請を送るティグルさん。俺が受諾すると同時にラインもパーティーに加わった。
「後のメンバーはブレイズにお願いしていいかな?」
「ああ。俺たちといっしょに行動する三人。それと護衛としてもう一パーティー。それでいいか?」
「いや、あと二つはパーティーを組んでもらえないか?」
俺の発言に揃って「「?」」という顔をする二人。
「だって、生き残りがいる可能性があるのなら、それを護衛する部隊も必要だろうが」
「「あ」」
少しばかり不安だが、まあ戦力しては問題ないし、大丈夫だろう。
準備も必要だろうとその日はこれで解散。パーティーは組んだままなので連絡はいつでも可能だ。
そういうわけで俺はルーチェに帰ってきた。
「さて、アイスを作らないとな」
本音を言えば攻撃アイテムを生産もしくは強化したいのだが、さきにこっちを片付けておこう。
そういうわけで採取した〝ザッシュ″・〝ブードゥ″・〝モンゲー″を並べる。まずは味見だ。
(予想通りぶどうとマンゴーだな。そしてザッシュは……これはもしかしてザクロか?)
かなり前に食べた思い出がよみがえる。良く言えばベリー系になるが、これまでの経験から甘いほうがいいと判断し、〝ザッシュ″は除外して〝ブードゥ″と〝モンゲー″の二つで作ることにする。
そして今までと同じだとつまらないので少し工夫してみることにした。
錬金窯の前に立ち、〝錬金術師の杖″で中をよくかき混ぜる。いつもは後で入れる〝調合粉末″をあらかじめ先に入れているためだ。
そして混ざったところで〝ブードゥ″と〝モンゲー″を入れる。その際〝ブードゥ″はぶつ切りにしておいた。ぶどうと味は似てるのになんで外見が梨なんだろう? これを考えた運営に質問メールでも流してみるか?
それぞれが十分溶けてきたところで氷を投入。この氷は〝清水″をエイミさんに凍らせて作ってもらった。
かき混ぜること数分、ようやく完成。
〝ミックスアイス″・食品・R
二つの果実を混ぜて作ったアイス。混ぜた果実によってさまざまな効果を持つ。
【水属性攻撃緩和・中】:水属性による攻撃ダメージを0.8倍にする。効果時間は30秒。
【スピード上昇・中】スピードのステータスを+10する。効果時間は40秒。
「これはこれで面白いな」
試食してみても味は問題なし。〝モンゲー″の味が強いがこれに関してはパロン様と相談だな。もしかしたら〝ブードゥ″のほうが好みかもしれないし。単なる食用だけなら効果は関係ないからな。
「さて、後は量産だな」
「あの~」
再び錬金窯に向かおうとした俺にかけられた声。振り向くとエイミさん+遊女の皆さんがいた。ルーチェ自体は今も休業中だが新人の教育場の一つとしてこのルーチェを提供しているのだ。ティニアさん曰く「異なる接客を知ることで新しい接客を身に着けるため」とのこと。
そして全員の目が手元に残った〝ミックスアイス″に注がれていた。こうなれば断るはできないな。
「試食をお願いできますか?」
「「「「「喜んで!」」」」」
その後作ったミックスアイスを味わってもらい、味の改良を重ねた。
なお、このアイスが後にパロン様も食べることを知った皆さんはより真剣になって意見しだした。
やっぱハイフェアリーってすごい存在なんだな~と改めて思った。
とある妹「ねえ? 私もハイフェアリーなのよ? もう少しそういう対応が欲しいよ!」
作者「ふむ。パロン様と同じ扱いにするなら今度出番が減るよ?」
とある妹「現状の対応に感謝します!(土下座)」
とある長様「」←上のやり取りを見て呆然
では、また来週です。




