第十一話:クエストは終わらない
先週投稿文です。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
【看破】を発動するも何も変化はなし。しかしそれはあくまで視界の範囲だけだ。そういうことで果樹園全体を歩いていく。
先ほどとはうって変わって静かだ。時折風で植物型モンスターの葉が揺れる音とそいつらの声しか聞こえてこない。後者はあまり聞きたくないが。
(そういえばあの老婆はどうやってこれらを管理しているんだ? 後で訊いてみるか)
そうして歩くこと十数分。奥までたどり着いてしまい、今度は右側を重点に観察しながら入り口に向かう。そして今度は左側を見て奥にたどり着き、結論が出た。
「何も反応が無い……もしかして本当にクエスト限定なのか?」
カナデちゃんも面倒だと言ってたからもしかしたらランダムで難易度が変化するのかもしれない。そうなると今までの行動は全くの無意味だったということになる。
「まあ、魔族が関係していないと分かっただけでも収穫としよう。おっと、収穫と言えばアイスの素材も持って帰らないと」
とりあえず、先ほど獲得した三種類の果物をアイスにしてみようと思う。奥まで歩いてきたので目標はすぐ近くだ。
その前に歩き続けた足を休ませようと地に座ろうとする。果樹園というだけあって土だらけだが現実と違いVRでは衣服が汚れることはない。中には衣服を溶かすモンスターもいるそうだけど。
そして胡坐になって頭を垂れたとき、いつか見たように赤い地面が視界に映った。
「……灯台下暗し、いやこの場合はなんて言うんだ?」
まさかの出来事に驚く。いや、驚いている場合じゃない。
試しに手で掘ってみると現実と同じく掘れたので掘り続けていく。五回くらい手を動かし何かが手に当たる感触があったのでそれを掴む。
『〝バーサクシード″を手に入れました』
突如現れたウィンドウ。文字からして手に触れたそれだろう。アイテムボックスから出してみると直径5㎝くらいの赤黒いタネだった。
〝バーサクシード″・植物アイテム・UC
地中に埋めることができる種の一種。このタネは成長することなく地中で生き続ける。半径10m以内の育つ植物の成長を凶化させる。
「そこは強化じゃないのかよ」とウィンドウに向かってツッコミを入れつつも、間違いなく原因はこれだ。しかし、こんな危険なものがあったとはな。
さっそくこれを持って老婆の元へ戻る。だが、謎が解決するどころかより深まった気がする。
(そもそもなんでこの果樹園の植物型モンスターを暴走させる必要がある? それで魔族たちにどんなメリットがあるというんだ?)
そんな疑問を抱きつつも老婆に〝バーサクシード″を見せる。個人的にはこれを見て驚く状況を想定していたが、なぜか老婆はそれを一瞥すると戸棚へと向かった。
ますますわけがわからなくなる俺に老婆は戸棚から箱を取り出して戻ってきた。
「お前さんなら見つけてくれると思っていたよ。一目見て【鑑定】技能をかなり磨いてきた者だとわかったからね」
「はい?」
おいちょっと待て。もしかしてさっきの逃走劇の原因は【看破】までランクを上げた俺だったのかよ!?
「さて、これからが本題だよ。お前さんに頼みがある」
老婆は箱のふたを開ける。その中には小分けされた白い袋が入っている。
「これはお前さんが持ってる〝バーサクシード″を粉末にしたものさ。手に取って観てごらん」
これまでの流れからしてこれに【鑑定】スキルを使えってことだろうと思って【看破】を発動させる。
〝ウェイクパウダー″・ステータス上昇アイテム・HR
摂取することで3分間全てのステータスを1.2倍にする。しかし3分経つと1分間全ステータスが半減する。
また、この粉を混ぜることによって植物を素材としたアイテムの能力を高めることもできる。
まさかの効果に呆然としていると老婆はふたを閉め、箱を俺に差し出してきた。
「この身はもう動くことができない。だから、これをあなたに託したい」
「……その代価として頼みを聞いてほしいと?」
「察しがよくて助かるよ。どうだい?」
正直に言えばこのアイテムはすごい欲しい。そしてこれを見せるということは元になる〝バーサクシード″ももらえる、もしくは生息している場所を教えてくれるということだろう。
一方で、こんなものをもらえるほどの頼みだ。絶対に面倒ごとに間違いない。
悩むこと数分。決意は固まった。
「わかりました。できる範囲ですがいいですね?」
俺の答えに老婆はにっこりとほほ笑む。植物を素材としたアイテムに仕えるのならフレイムボムやポーションの強化にも使えるということだ。それを理由にラインたちに協力を要請すればなんとかなるだろう。
(攻略が忙しくて断れるかもしれないが、なんとか説得するしかないか。最悪試験前にノートをコピーさせてやるでもいいわけだし)
自分でも少し腹黒いかなと思いつつも老婆から箱を受け取る。箱のままアイテムボックスに入るのかと思いきや中身だけ収納され、なんと〝ウェイクパウダー″のレシピまで入っていた。
(あ、地雷踏んだ。これまじでヤバいやつだ)
「さて、頼みじゃが……」
俺が軽く絶望していると老婆はまたしても戸棚に向かい、今度は何やら紙を持ってきた。
「これはここら周辺の地図じゃ。この印が見えるかい?」
見せてもらった地図はフォレスワードを中心とした周辺の地図だった。結構細かく書かれており、多くの文字が記されている。その中のいくつかに心当たりがあった。薬草や毒草の名前だ。
(あ、〝バーサクシード″もあった。欲を言えばこの地図のほうが欲しいぞ!)
その中でひときわ目立つ×印を老婆は指す。
「ここに地下へと降りる隠し通路がある。当然擬装されているが地中に埋め込んだ〝バーサクシード″を見つけられるのならどこにあるかはすぐにわかるじゃろう」
なるほど。この頼み、いやクエストだな。これが出現する条件が【看破】だったわけか。もしかしたら【識別】でも出現するのかもしれないな。
なにはともあれ、これはますますラインたちの協力が必要だ。ここまでたどり着くだけでも俺だけなら困難だろうし、なによりこの状況で地下通路があるのなら目的は限られる。
そして俺の想像は間違っていなかった。
「この隠し通路はかつて王城まで続いていた。そしてこの隠し通路には万が一のために数週間は滞在できる空間もある。もしかしたらそこに王族の誰かが隠れ生き延びているかもしれないのじゃ」
「その前に質問を。なぜあなたがこのことを知っているのですか?」
普通のゲームならこういうとき質問してもなにも返事をせず、そのまま進行するだろう。しかしAIがもはや「中に人が入ってるじゃないか?」と疑問視されるくらい異常なCWOだ。
「そうじゃの。かつては庭師だったと言って信用してくれるか?」
「十分です。そして今でもあの果樹園の管理できるほどの実力があることも含めて」
俺の言葉に「やれやれ」と言いながら懐から笛を取り出した。
「この笛は植物の姿をした魔物を遠ざけることができる笛じゃ。残念じゃが目的地周辺には植物型の魔物はいないからお前さんには無用の物じゃ」
その笛は木製フルートのような笛でなにやら魔法陣らしきものが彫られている。
「この笛は第三王女様から頂いた物じゃ。これまでの勤めのお礼にと魔法を施してくれた」
その笛を大事そうに撫でる老婆。その様子だけでもいかにこの笛が大切な物かわかる。
「それで、引き受けてくれるのかの?」
『クエスト〔かつての庭師アニエスからの頼み〕を受諾しますか?
Yes/No』
俺は迷うことなくYesに触れる。すると老婆は頭を下げながらお礼を言い、俺に地図を差し出した。
「では、出かけます」
「頼んだよ」
俺は老婆に背を向け、家を出……ようとして振り向く。
「第三王女様のお名前はわかりますか? 初対面なので警戒されそうなので」
「ルーナ姫様じゃ」
問いに答えたのでもう出るだろうと思ったのだろうか。まだ動こうとしない俺に首をかしげる老婆。
「他にも訊きたいことがあるのか?」
「……何か伝言はありますか?」
自分でもなぜこんな質問をしたのかわからない。しかし、この家を出たらもう老婆には会えないんじゃないかと不思議とそう思ったのだ。
この問いは予想外だったようで老婆は目を見開いて驚いていた。その表情をこれまで見たことないような慈愛に満ちた顔に変えると「一言だけ。ありがとう、と伝えておくれ」と言った。
それを聞いた俺は頷き、老婆の家を後にした。
引き続き最新話をお楽しみください。




