第十八話:アトリエでの調合
結局その日はそのままダイブアウト(アトリエのベッドを使って)して寝た。
翌日、今日は日曜日なので珍しく両親が家事をしてくれる日だった。
なお、俺と空の両親は共に病院に勤めている。
「なのに朝から休日出勤か。 お勤めご苦労さん」
普段より遅い時間に起床した俺はリビングのテーブルに置かれた紙を見てそうつぶやいた。
いつもなら間もなく空も起きてくるが、おそらくすでにCWOの中だろう。
そう思い、少し早いが朝食代わりの昼食を作ることにした。ブランチっていうんだっけ?
メニューはチャーハン。昨日余ったご飯を温め、中華鍋の中で卵と絡める。
そこに刻んだベーコンや野菜を加え、胡椒で味を調える。
空の分を分け、ラップをかけておく。こうしておけば後で食うだろう。
「では、俺もダイブしますか」
目を覚ますとアトリエの天井が目に映る。
軽く体を動かし、今日の予定を考える。
(まずは使い切ったポーションの補充。それから可能ならば新しいレシピの捜索だな)
おそらくだが、現段階で“【錬金術】をメイン”でCWOを遊んでいるのは俺だけだろう。【錬金術】を取得している者はいるだろうが、おそらくサブスキル扱いだろうからな。
もしいるならアトリエ獲得者がもう少しいるはずだし。
そんな悲しい現実を再確認したところで俺はさっそくポーションを作ることにした。
場所が変わっても手順が変わるわけではないが、せっかくだと少しアレンジを加えてみることにした。
「まずは薬草をちぎって入れてみるか」
錬金釜の中の調合水を温める。温度は本来の設定温度よりも少し弱めに。煮詰まったところでちぎった薬草を投入。大きさは大体一口サイズだ。……一瞬あの味を思い出したが気にしないことにしよう。
混ぜることしばしば、なんとかポーションが完成した。
ちなみに、一般的なポーションの効果は以下の通り。
〝ポーション″・回復アイテム・C
薬草を溶かして抽出した一般的なポーション。
回復+30
30ということは初期HPの3割程度しかない。しかし〝薬草″は食べる必要があるのに対し、〝ポーション″は飲まずとも、浴びることでも回復できる。当然回復量は減少するが。
そして今回の調合で生まれたポーションはこちら。
〝ポーション″・回復アイテム・C
ちぎって溶けやすくした薬草から抽出したポーション。
回復+36
効力:E
回復量が多少上がっているのは説明にもあるように溶けやすくなったからだろう。それにより薬草の成分がより浸透したのだと思われる。
それより問題なのは“効力”という文字。
「聞いたことない言葉だな」
こういう時はラインに訊くのが手っ取り早いがあいにく表示はグレー。いざという時に使えないやつである。
「確かヘルプ機能があったよな」
ウィンドウを開き、システム欄からヘルプを呼び出す。
どうやら文字を入力して検索するタイプのようなので『効力』と打ち込んで検索をかける。
するとすぐに結果が出た。
「なになに、『効力:【錬金術】で調合したアイテムに付与される効果。E>D>C>B>Aの順で効果が増す。<発現条件:【錬金術】のランクが2以上である。もしくは〝アトリエ″で調合を行う>』。なるほど、アトリエにこんな効果があったのか」
個人工房というだけでもすごいのにこれはやばいな。というか今後配信サービスクエストで個人工房を獲得したプレイヤーとそれ以外のプレイヤーで暴動が起きるんじゃないか?
「あれ、まだ続きがある。『デメリット:耐久値が従来のアイテムより下がる』。ポーションにも耐久値ってあるのか?」
その後ヘルプ機能を使い分かったことは、アイテム、特に口に入れる回復アイテムや食料品にも耐久値があり、それはアイテムポーチに入れていても減り続ける。そして0になったら“ゴミ”になる。
簡単にいれば賞味期限のようなモノということだ。
「つまり、普通より強力なアイテムは作れるけど、無くなるのも速いと」
世の中いいことばかりではないようです。
似たようなデメリットは『配信サービスクエスト』で個人工房を獲得した全てのプレイヤーに適応されています。そうじゃないと獲得できなかったプレイヤーが損だけになってしまいますので。
おそらく質問が来ると思ったので先に答えておきますが、このデメリットを解消するアイテムがかなり先に登場予定ですが、『配信サービスクエスト』で個人工房を獲得したプレイヤーがこのアイテムを入手する条件は獲得できなかったプレイヤーよりも厳しくなっています。これも公平にするための処置です。