第八十八話:応用
あと少しで90万PV!
〝清緑の盾″と〝ガーディロッド″を縦に並ぶようにして構える。これにより強力な攻撃も防げるようになった。しかしこれは単に防ぐためにした行動ではない。
(そこ!)
こちらがガードを固めたことでピンク武者が攻撃してきたときわずかだが硬直するじかんができた。そこに攻撃を与えてコツコツとダメージを与えていく。卑怯な戦法だが俺にできるのはこれしかない。
この戦法の最大の弱点は集中して隙を見つけ攻撃しているので前方以外の視線にまったく意識を向けてられないこと。
つまりさっきのような後方からの攻撃には全く対応できない。しかしティニアさんとアリサさんが参戦してからは一度も攻撃が来ないのでうまく対応できているようだ。
(このままいけばいいけど、たぶん無理だよな)
正直このまま倒すことは絶対不可能だろう。実際ピンク武者の刀が少しずつ輝きを増しているのがよく見えている。
そしてとうとうその時が来た。
ピンク武者がジャンプして後退し、刀を鞘に納める。ここで時間切れとかで撤退してくれれば最高にラッキーなんだけど、現実はそんなに甘くない。
次第に鞘からピンクの発光が見え始め、さらに光は強くなっている。おそらく納められた刀から発光しているのだろう。
強力な攻撃を当てればもしかしたら阻止できるのかもしれない。しかし切り札であるグレンダイムを使っても意味が無かったら残り数が心配になる。
どうするか考えているが、どうやら敵はそんなこと考える余裕すら与えてくれなかった。
柄に力を込め、中腰になって足にも力を入れる姿勢をとる。必殺技の発動までもう時間がないと悟ったので【盾】と【盾☆】のアクトを総動員して攻撃に備える。
(少しでも耐えたらすかさず接近してグレンダイムを使おう! ためらったらこっちが死ぬ!)
決意を新たにしたタイミングで抜かれる刀。振り下ろされたそれによって放たれたピンクの閃光が俺に直撃する。
そしてあっさり決意が砕ける。
(なんかこんな感じのシーンが別のアニメにあったな。白き魔王だっけ?)
どうでもいいことを考えるくらいに現実逃避を始める。なぜなら〝清緑の盾″と〝ガーディロッド″そしてアクトも加えているのにすでにHPが半分を下回っている。このままではあと十数秒で死亡確定だ。
(やっぱ使っておけばよかったな……みんな、ごめん)
いよいよHPが無くなりかけてきた。ピンク武者の閃光も威力を落としているが先にこちらのHPが尽きるだろう。
と思っていたらなんと先にピンクの閃光が止んだ。
(助かっ……てなかったー!)
安堵して前方を見ればそこにはピンクの閃光、いやオーラを纏った刀を突きの体制になって突き出しながら接近してくるピンク武者。閃光で仕留められなかったら残ったエネルギーを刀に与え直接ダメージを与えようとする。これではシールドなども意味をなさないだろう。
まさに必ず相手を殺す技と書いて必殺技と言われるだけのことはある。
しかしせっかくの機会をそのまま無駄にするわけにはいかない。いくら閃光のエネルギーだろうとすでに限界のはず。ならばこれを防げば先ほどよりも長い硬直時間が生まれるはず。その時にありったけの攻撃を与えておこう。
特攻作戦を考え再び〝清緑の盾″と〝ガーディロッド″を構える。今度は盾の前にガーディロッドを当てるようにしている。これにも当然理由があり、〝ガーディロッド″がもう役に立たないと思うからだ。
残念ながら〝清緑の盾″と〝ガーディロッド″では耐久値が違う。しかも作った職人の腕も歴然の差がある。ボスの必殺技をまともに受けてしまった以上、おそらく耐久値はすでに風前の灯火だろう。
それでも、少しでも衝撃を和らげてくれるよう願いを込める。
(短い間だったけど、ありがとうな)
感謝の念を伝え、攻撃に備える。
いよいよ刀と〝ガーディロッド″がぶつかる。その衝撃だけで倒れそうになる体を下半身に力を入れることで耐える。
やがて聞こえてくる音と左手に握っていたはずの感覚が消える。
〝ガーディロッド″の最後を感じるもそれを悲しんでいる時間はない。
今も続くピンク武者の攻撃。もしかしたら〝清緑の盾″でも防ぎきれないかもしれないと思った矢先、伝わっていた衝撃が消える。
(よく耐えきってくれた!)
すぐさまグレンダイムを取り出し投げようとしてその姿勢のまま固まる。
視界に移るピンク武者の刀はいまだにピンクのオーラを纏っている。持続時間長くねと思うがそれはどうでもいい。
問題なのはそれと対峙している存在。
漆黒の長髪に紅の着物。そして手に持つは身の丈を超える炎の剣。
「ティニア、さん?」
容姿は間違いなくティニアさんそのものだ。しかしなぜか本人ではないような、さらに言えば生きているように見えない。
「アルケさん!」
今度は右側から声が聞こえて振り向いて今度は絶句した。
「アルケさん! 私がわかりますか!?」
そこにはまたしてもティニアさん。しかし今度は俺の手のひらサイズで背中の翅がずいぶん大きい。まさに妖精、いやピクシーというべき存在のティニアさんがひらひら飛んでいる。
「えっと?」
「ご無事ですか?」
「あ、はい」
もはや何が起こっているかさっぱりわからない。それを説明してくれたのは妖精姿のティニアさんだった。
「これはフィールドの力、それを応用したものです!」
「応用?」
「フィールドはそれ単体ならただの魔力の塊ですが、魔法を熟練と呼べるほど極めた者は魔力そのものに意思を与えることができます。それが【大魔法】と呼ばれる魔法の一つ〔魔法人形〕です」
そんな魔法もあるのか。ということはこの二つのティニアさんはその〔魔法人形〕ということだろう。
「しかし〔魔法人形〕は自らの魔力を常に消耗します。今ピンク武者と対峙している人形ですが、姿を保てるのは五分が限界でしょう」
「そんなに短いの!?」
「本来なら三十分くらいは保てる魔力を込めておいたのですが相手の武器の威力が強すぎて炎の剣に魔力を多く流さなくてはすぐに壊されてしまいます」
できればその五分の間にピンク武者を倒してほしいがピンク武者の刀のオーラはいまだに消えていない。こうなると倒すまであのオーラは消えないだろうと思われる。
「このワタシも少しでも人形が保てるよう魔力を与えるのでこれでお別れです。どうかがんばってください!」
そう言うとすぐさま魔力となって魔力人形版ティニアさんに吸収された。一体化したって言ったほうがいいのかな?
「それより、この状況を打開する手か……」
一旦グレンダイムをしまう。もはや奇襲は成功しないと考えるとグレンダイムを確実に当てる方法が俺にはない。
人形版ティニアと連携するという手段もあるが、残念ながら目の前で繰り広げられている剣戟に合わせることができるだけの技量がない。
さらに〝清緑の盾″の耐久値も残り3割となっていたため、下手に突撃すると今度は〝清緑の盾″も失うことになる。そうなれば残る武器は〝錬金術師の杖″と〝リゥムダガー″だがどちらも防御用としては心もとない。
こうして考えてばかりいるとすぐにタイムリミットとなってしまう。実際人形版ティニアさんのこっちを見る目が「早く何とかして!」と叫んでいるようにも見える。
さて、どうするか……
次回も土曜日です。最近気温の変化が多いのでみなさんも風邪には気を付けてください。ゴホゴホ
アルケ「説得力無い作者だな」