第十五話:言葉の真意
あの後すぐにダイブアウトして現実の戦場、タイムセールに向かった。
その結果が今の食卓にある。
「ずいぶん質素だね、今日?」
「すまん」
「ご、ごめん! え~と、たまにはこういうのもいいもんだよ!」
そんな空の慰めも今の俺にとっては罪悪感を増す槍にしかならない。
まあすでに分かるように、スタートに出遅れた俺が歴戦の戦士たちに勝てるわけが無く、タイムセール品はほぼ無くなっていた。今日は魚でした。マグロだったのに!
結果、なんとか一パックだけ買えたので、それを醤油漬けにして提供した。あとは昨日の残り物で何とかした。両親には今日は外食してもらおう。
「でも珍しいね。 兄さんがそんなにゲームにはまるなんて」
「ああ。 俺も驚いてる」
実際は例のクエストのせいだが、前の俺ならギブアップしていただろう。それを最後までやり遂げただけでも以前とは違っている。
「まあ、妹としては兄が真っ当な道に進んでくれてうれしいよ」
「廃人が真っ当な道とは思えないが?」
ジト目でにらむ俺にアハハと笑いながらご飯をかきこむとすぐさま部屋へと走る空。
普段なら洗い物くらいは手伝ってくれるが今日は俺が全部やると言っている。
……しかし今は過去の俺を殴りたくなる衝動が俺の中で渦巻いている。
何とか精神を抑えた俺も食事を終え、食器を洗う。
時計を見ればもうすぐ9時。
(CWOにダイブインしたのが今日の9時だから12時間が経過したことになる。と言うことは例の約束まであと1時間後か)
一体何が待ってるのかわからないがまあマイナスにはならないだろうと楽観視している。
なにせラインが気にしてるからな。あいつのゲームに関する情熱や嗅覚は一級品だろう。実際廃人街道まっしぐらだからな。……うちの妹様も。
「適当にニュースでも見てるか」
TVを点け、ニュースを映しながらCWO掲示板も覗いていく。
……当然本命は掲示板なのだが静寂な空間に耐えきれなかったのだ。
結果、特に目ぼしい情報は無かったが一つ気になる掲示板があった。
「俺の状態に似てる」
それはドワーフのプレイヤーが立てたものだったが、どうやらNPC鍛冶店で意味深なことを言われたらしく、それが(ゲーム時間の)明日判明するとのこと。
しかもその一人だけでなく、複数人、それも違うエリアで判明している。
その共通点は全員が生産職であること。
「さて、どうする?」
この掲示板に俺も書き込もうかと思ったが、もうすぐ9時になるため、判明してから書き込むことにした。
そして9時なったことを確認し、ダイブインした。
「では行きますか」
鍵を返し(これ以上の連続使用はできないと言われたので断念)、魔武具店を目指す。
その前に噴水広場に向かった。ラインと待ち合わせをしているのだ。
しかし約束の時間になっても来なかった。
「いつものことか」
現実でも努はいつも遅れていたのでこれくらいは予想内だが、それが30分も過ぎるとさすがに困惑し始めた。
「もしかして」
フレンド登録の中からラインを表示する。その色はグレー。
「……交信不可能領域かよ」
交信不可能領域と呼んでいるが、簡単に言えばどこかのダンジョンに入っているか狩りの最中かのどちらかだ。
「つまり、あいつは完全に約束を忘れていると」
ため息をつきながら俺は魔武具店へ足を運んだ。
店先に木札が無いことを確認した俺は店内に入った。
「お、待っておったよ」
店主の老人は店の中央にイスを置いて待っていた。明らかに俺を待っていたようだ。
「では行こうか」
「……どちらに?」
「来れば分かる」
そう言って老人は以前のように店の奥の扉へと歩いていく。
「どうした?」
それを聞いて俺も老人に続くように足を進める。それで満足したのか老人は笑みを浮かべ扉を開ける。
その先には魔方陣が描かれた部屋があった。
「この中に立ちなさい」
不気味だが言われるまま魔方陣の中に入る。
その瞬間、俺を光の奔流が包み込んだ。
思わず閉じた目を開けるとそこは今までとは別の場所だった。
「ここは?」
「儂がかつて使っていた〝アトリエ″じゃよ」
「〝アトリエ″?」
〝アトリエ″獲得クエストの情報は次話のあとがきで解説します。