第十四話:鎧とトラップ?
改めて鎧を見てみると緑色を基調とし、所々に黄色のラインが描かれている。左胸には盾の中に妖精族の証、大樹のレリーフが彫られた紋章が輝いている。よく見ればその紋章はミシェルの鎧にもあるため、おそらくフェアリーガードの紋章なのだろう。
「……これを俺に、ですか?」
(ゲーム時間で)昨日ダイブしたばかりで何の実績も無い俺がもらっていい装備とはとても思えない。するとオウルの声が響く。
「なに、少し前に使っていたモノで今は誰も使っていない。武器や防具は飾りじゃねえからな。使ってくれるやつがいるならそのほうがこいつらは喜んでくれるさ」
オウルの声がどうにかして断ろうと思っていた心を揺らす。
俺は視線をミシュルに向ける。先程の言葉通りならこの鎧は以前ミシェルが使用していたモノだ。かつては自分を守ってくれた鎧を赤の他人にこうも簡単に渡していい物だろうか? そう考えていた俺に、ミシェルは何を言うまでも無く頷いた。
「……わかりました。ありがたく使わせていただきます」
ミシェルからの信頼を感じ、指を動かしてYESを選択する。
転移した時のように一瞬光に包まれ、俺の装備が変更された。
〝フェアリーガード正式装備(旧式)″・フルセット防具・SR
妖精族の警備隊『フェアリーガード』のかつての正式防具。
*この防具を装備している間は他の防具を装備できない*
防御力+60・【魔力増強/大】
どうやら先ほどの黄色のラインは【魔力増強】らしい。訊いてみると魔方陣だと言う。
「いい恰好じゃないか。いっそほんとに入隊するか?」
「まだ駆け出しなので、成長したら考えさせてください」
思わぬ収穫となったがこの出会いに感謝し、中央部に戻ってくる。
「さて、私はそろそろ戻らなくてはならない。これからどうする?」
「杖のほうはまだ初心者装備で大丈夫だと思うので、もうすこしこの鎧に馴染んでおくことにします」
これまでの人生で鎧を着た経験など皆無なので少しばかり戦いに行くと告げる。せっかく受け取った鎧だ。それを使えないのでは申し訳が立たない。
「では依頼の説明に進もうか」
「……は?」
依頼って何のことだ?
「なに簡単な依頼だ。入り口付近でウィードが大量に繁殖している場所があってな。それの駆除をお願いする」
「! なんで俺が!?」
「鎧プレゼントしてあげただろ?」
ってそういうことかよ!?
「さっきの言葉は本心だぜ。 なんかお前さんは近いうちにドでかいことをしてくれそうな予感がしたからな。 今のうちに恩を売っておこうと思ったのさ」
「儂も同意見じゃな。 目を見れば大抵のことはわかる。 がんばれ若人よ」
勝手なこと言うな! って強制クエスト表示まで出てきたし。これはもう断れないな。
「わかりました。 詳しい場所を教えてください」
その場所は“薬草の畑”より少し先だったので道に迷うことなく行けた。
そして待っていたのは100体のウィードの群れ。
「こんちくしょー!!」
もはや自棄になって戦闘を開始した。
結果として何とか駆除には成功した。せっかく作ったポーションをすべて使うことになったが。
「というか今更だけど【魔力増強/大】があっても俺魔法使えないから意味ないんじゃ」
近いうちになにか魔法関連のスキルでも習得するかと考えながらオウルの店を目指した。クエスト報告がなぜかそこに指定されていたからだ。
「こんにちは~」
「お、帰ってきたか」
オウルは売り物の鎧を磨いていた。その手を止めて俺のほうへと歩いてくる。
「ほう、思ったより損傷していないな」
「そうですか?」
俺としては結構ダメージくらったのでそれなりに傷んでいると思ったのだが。
「いや、想像では全体的に耐久値が下がっていると思ったのだが。 少なくても一番ダメージを受けやすい足部分は壊れていると思っておったわ」
実際危なかった。途中で耐久値が半分を切ったアナウンスを聞いてからは戦い方を変えたのだ。
「最初はがむしゃらに戦っていたのですが、途中からは距離を取ってカウンターを狙う戦法に変えましたから」
「なるほど。 それなら納得がいくわい。 直してやるから貸してみろ」
俺はオウルに鎧を渡す。二十分後、鎧は完全復活を遂げていた。
「ずいぶん早いですね」
「儂は魔眼持ちでな。 傷んでいるところが見ただけでわかるのだよ」
……何そのチート。
「冗談じゃ。 長年の経験じゃよ。 実際右目は義眼だからの」
「……」
確認。この人ホントにAI?
「ってしまった!?」
鎧を受け取るためウィンドウを開くとそこには17:03の文字。どうやら想像以上にウィードと戦っていたようだ。
「まずい!」
俺はオウルにお礼を言い、すぐさま宿屋を目指した。
補足:〝フェアリーガード正式装備(旧式)″獲得クエスト
発生条件:フェアリーガードの紋章が刻まれた〝フェアリーサティファ″を獲得し、それをもらったNPCに鍛冶師を紹介してもらい、その鍛冶師にも認められる。
発生する確率が低いため全員が持てる装備ではないが、ユニーク装備と言うわけではない。
当然アルケ以外にも獲得したプレイヤーがいるが、登場予定無し。