第十三話:鍛冶職人オウル
タイトルからわかるように、後半部分から以前書いた内容が復活します。
「……それで、今どこまで進んでるんだ?」
持ってきてくれた2Lのジュースをコップに注ぎながら訊いてみる。
ついでに昼食代わりのパンもいくつか袋から取り出す。
「まだそれぞれのフィールドでレベル上げやらアクトの調整やらで“本番”は全く進んでない」
努が言う“本番”とは共通フィールド、すなわち本来進むべきストーリーのフィールド、魔王が住む場所への道だ。
ちなみに、種族ごとのフィールドにもボスはいて、倒すとその種族専用の武具が手に入る。当然奥へ進めば進むほどモンスターが強くなり、手に入るアイテムも良くなる。
「お前はどうなんだ?」
「心配無用。 いつでも行けるぜ」
ドンと胸を叩く努。その言葉に間違いはないのだろう。
「そういうお前は? あれからどうしたんだ?」
そこからは俺の話になった。もちろん薬草を注意されたことは言ってない。
「なるほど。 一応夢達成か?」
「一応な」
「じゃ、おめでと」
努が持ち上げたコップに俺のコップをぶつける。カリンとガラス同士が鳴らせる特有の音が聞こえ一気に飲み干す俺達。
「さて、少し早いが俺はダイブするわ。 他のメンバーの状態も確認しておきたいし」
「そうか? 俺は遠慮するわ」
努は再びVRの世界に旅立ち、俺は公式ページを確認し始めた。
「スキル掲示板っと。……やはり【錬金術】関連の話は無いか」
一般掲示板の初めのほうには例のβプレイヤーの話はあったがスキル掲示板には【錬金術】の文字は無かった。やはり情報を独占する気なのだろうか。
しばらくチェックしてみたが、俺にとって有益な情報は見つからなかった。
「さて、気が付けばすでに二時間が経過してるな」
普段なら二時間は長く感じるが、やはり何かに集中していると時間が経つのが早く感じるな。
そんなことを考えながら俺もVRの世界にダイブした。
ダイブして減った薬草を補充してから集合場所に向かうとすでにミシェルさんが待っていた。
時間を確認してなかったから朝時間帯になった頃に向かったのだがいつから待っていたのだろうか?
ちなみに恰好は昨日の鎧だ。……ほんとに非番なのだろうか?
「ずいぶん早いな」
「私としてはすでに遅い時間だがな。 さて、今日は防具だな。少し歩くがよろしいか?」
「ああ、かまわないよ」
ミシェル(さん付けはしなくていいと言われた)の後を追い、噴水がある中央部から北に歩くこと十分。辺りに木々が多くなり、当時に木造建築から石造りの家が多くなってきた。
「ここはいわゆる職人街だ。 我々妖精族は他の種族よりも防御で劣るため、武器よりも防具のほうが発展している。 それ故に、妖精族で最も流通しているのは防具なのだ」
鳥人族も防御力が低いが、妖精族は全種族で一番低い。それ故に妖精族のプレイヤーはほとんどが後衛となっている。
確かに、歩いている際に覗いてみた工房らしき場所では防具はあれど武器を置いてあるところは少なかった。
「さて、ここだ」
そしてたどり着いたのは職人街の外れともいえる場所である。
「失礼する。 ミシェルだがオウルはいるか?」
「おやどうした? お前さんのは昨日直したばかりだろ?」
奥の作業場にいたのかカウンターに現れた男性は顔に煤が付いていた。
「ああ、相変わらずいい腕をしている」
「そいつはどうも。 で用件はそこにいるヤツかい? 見たこと無い顔だが、新人か?」
目が合って気づく。男性の目は左右の色が異なっていた。
「外からの客人だよ。 まあ、サティファを渡したから一応新人かもな」
サティファという言葉に反応したのか、赤と黄色の瞳が鋭くなる。
「外から来たアルケと申します。 今日はミシェルの案内で来店しました。 今度ともよろしくお願いします」
目を合わしたくないという気持ちも含め、頭を下げる。しばらく経っても何も反応が無いため頭を上げると男性は笑みを浮かべていた。
「ずいぶん礼儀正しいじゃねえか。 前に来ていた外の連中はうるさい奴らばかりだったからな」
ここでも話題にあるプレイヤーへの苦情。この反応からβ時にプレイヤーが何かしたのは事実であり、以前ラインと話し合ったAI関連についてはAI独自の判断の比重が大きいと推測した。
「同じ関係者として申し訳ありません」
「お前さん、アルケだったか? ともかくあんたが謝る必要ないぜ」
男性はカウンターから出てきて手を差し出した。
「ここで鍛冶をしているオウルだ。 こちらこそよろしく頼むぜ」
差し出された手をしっかり握り返す。ふと見ればミシェルも笑っていた。
「さて、せっかくだ。何か必要なものはあるかい?」
オウルの言葉を聞いて店内を見渡す。同時にこの店がどういう店なのかも理解した。
「どれも品質が高い……」
展示された商品がほぼレアで、数点アンコモンがあるくらいの品揃え。それ故に値段も高い。最低価格の足装備だと3,000セル、フルセットでも10,000セルだ。
「申し訳ありませんが、持ち合わせがないですね」
「そうだろうと思ってここを案内したんだ」
ミシェルがオウルを見つめる。アイコンタクトが発生したのかオウルは一度頷くと店の奥へと入っていく。
「あの……」
「少し待っていてくれ」
ミシェルに言われたので店内を物色することにする。
しばらくするとオウルが両手で箱を運んできた。かなり大きく170cmある俺の身長とほぼ同じくらいに見える。
蓋を開けるとそこには皮鎧の一式が入っていた。
「これでいいんだろ?」
「十分だ。 保存状態も悪くない」
二人は皮鎧の各部をチェックするとそろって俺を見た。
「当面はこれがあれば問題ないだろう」
「俺のお古で悪いが使ってくれ」
『〝フェアリーガード正式装備(旧式)″を見つけました。装備しますか?』
突如現れたアナウンスに何もできず、呆然と皮鎧を見つめた。




