第四十二話:パーティー結成
CWOにダイブして、俺は残った〝スノープリズム″の調合を終わらせる。
「問題ないとは思いますが、一応確認してください」
「確認するまでもないと思うのですが?」
「まあ、念のためです」
一つ一つエイミさんが確認している間に俺はコミュを作成し、それぞれに送る。さて、上手くいくかな?
調合した〝スノープリズム″は問題ないと判断され、エイミさんはフェアリーガード本部へと戻った。しばらくは討伐作戦に参加するためアトリエには来ないと言う。
その際に例のクエストについても訊いてみると「ああ、確かに神からのお告げがありましたね」とすでにNPCには知れ渡っているようだ。
ちなみにエイミさんは「討伐作戦があるし、研究もあるので」と言われ、セリムさんは「興味無い」と一刀両断。まあ、二人にはもともと期待してなかったので問題無し。
その後はルーチェに納品し、【融合】の実験をして今日はダイブアウト。勝負は明日だ。
翌日、本日は土曜日なので学校はない。しかし期末試験が迫ってるので午前中は一応復習をしておく。
そして昼食後、約束の時間少し前にCWOにダイブする。
集合場所としたスプライトの転移泉で待っていると二人が現れた。
「「こんにちは」」
「こんにちは」
現れたのは心ちゃんと世良ちゃん。いや、スワンとリボンだ。
「それじゃ行こうか?」
「「はい!」」
元気な返事をしてくれた二人を連れて俺はもう一つの集合場所に向かった。
「「……」」
「だ、大丈夫だからね?」
先ほどまでの元気をどこかに置き忘れたかのように微動だにしない二人。ここは俺にとってはおなじみの『水仙』の一室。もちろんフライパン部屋だ(本来の名前は忘れた)。
二人はアトリエから転移するまでははしゃいでいたのだが、部屋から出て廊下に出た途端に呆然とし、ここに至るまでの廊下や所々に置かれた調度品、そしてすれ違う遊女のみなさんを見てここがどういう場所なのか察し(後に聞いたら遊郭ではなく単に高級な場所という認識だった)、部屋に着いてからは隅で縮こまっている。
まあ、俺も最初はそんな感じだったから二人を笑うことはできない。しかし、このままの雰囲気であの三人と会わせるのはどうかと思い、何とかしようとした矢先襖から声が聞こえてきた。
声に応対して声の主に入ってきてもらう。入ってきたのは花魁の衣装に身を包んだティニアさん、初めて会った時に着ていたドレス姿のアリサさん、そして普段着のアリアさん。
……俺は三人に『普段着でいい』とコミュを送ったはずなのだが?
現れた三人を見てさぞ驚いているだろうと二人を見つと、確かに驚いていたがそこには尊敬のまなざしがあった。なるほど、初対面ならそういう見方もあるか。
なんだか自分が汚れているように感じてしまい、とりあえず隅にいる二人にこちらに来るように伝え、ようやく全員がそろった。
「さて、用件はすでにコミュで伝えてあるけど、みんなの返答を聞きたい」
スワンとリボンの二人には事前に「メンバーに加えたいNPCがいるんだけどいいかな?」と伝え承諾を得ている。二人も三人だけだと不安だと感じていたらしく提案はすぐに受け入れられた。
もしかしたら会った時に「やっぱり嫌です」なんで言われるかと思ったが、今でも羨ましそうに三人、特にティニアさんを見ている二人は今更断ることはしないだろう。
「私はいいですよ。魔族襲来以降、特に何も無く暇でしたから」
最初に返事をくれたのはアリサさん。まあ、一番可能性があったから予想通りだ。
「私も大丈夫です。ここの娘達からの承諾も得ていますので」
次に参加を表明してくれたのはティニアさん。花魁という立場のため断られる可能性があると思っていただけに参加してくれたのはうれしい。
最後は一番可能性が低いと思っていたアリアさん。
「一応、父からは『良い経験になるから行って来い』と言われてるのですが……」
そこでティニアさんとアリサさんを一瞥する。二人もいっしょだから大丈夫だと思ったのだが、もしかしたら何か問題があったか?
「私、必要ですか?」
「必要?」
「二人とも回復魔法も使えますから。私攻撃手段ほとんど無いですし」
アリアさんの職業は薬剤師。今回のクエストがジャングルをモチーフにしていることから猛獣系のモンスターがいると思われる。つまり戦闘が多いことを懸念しているようだが、俺としてはアリアさんが一番欲しい戦力なのだ。
「確かに攻撃手段は無いですけど、アリアさんには植物に関する知識を期待してるんです」
「知識を、ですか?」
「ご存じの通り、今回外からの客人との合同イベントは全く異なるエリアで行われます。しかも衣食住もです。ならそこで生活するためにはそこに生えているモノが食用なのかどうか調べる必要があると思うのです」
今回のクエストではイベント限定フィールドに転移する際に食料は持っていけない仕様になっている。『ジャングルがモチーフのため、せっかくですから自給自足にしてみました♪』と公式ページにかかれた一文には多くのプレイヤーが悲鳴を上げた。
当然ながら戦闘職は【料理】スキルを持っているはずが無い。一部公開されたイベント限定フィールドには木の実や果物も映っていたから問題ないとされているが、それが毒物である可能性もある。
「そこで、薬剤師のアリアさんの助けが必要なんです。あと、場所によっては魔法禁止なんて場所もあるかもしれません。そういう場所ではアリアさんの【薬剤】による回復薬が頼りになるんです。だからこそ、アリアさん。あなたが欲しいんです」
実際にあるかどうかわからないが、確実に無いとはだれにも言えない。だからこそ、あらゆる可能性を考えて行動する必要がある。そのために、アリアさんが一番必要なのだ。
……とここまで俺の考えを話してようやく一息つく。これですこしは気持ちが傾いてくれればいいと思い再度アリアさんと目を合わせようとして部屋の雰囲気が変わっていることに気づく。
正確には全員の視線が俺に向けられていた。
「アルケさんって積極的なんですね」
「ううん、コレは情熱的だと思うよ」
「これはもう確定なのかしら……」
妙に俺に熱い視線を送るスワンとリボン。なぜかがっかりしているティニアさん。
そしてアリアさんに至っては顔を下に向けており、髪からわずかに見える耳が真っ赤に染まっている。
「アルケさん♪」
「なんですかアリサさん?」
もの凄く笑顔のアリサさんがいつのまにか俺の隣に移動していた。さっきまでリボンの対面に座っていたのに。
「どこか抜けてる姉ですが、どうか末長くよろしくおねが……」
バコーン!
俺のすぐ横を雷鳴が走り、アリサさんは壁に激突した。しかも体がめり込んでないか?
「フフフフフフフフッフフフフフフフフフ」
気がつけばアリアさんがすぐ近くを通り過ぎていく。その手には雷が迸るフライパンが……
「皆さんすいません。ちょっと調教……いえお仕置きをしますので、少しお待ちください」
そこからの光景は話したくない。
もし一言言うならこうまとめよう。
アリアさんは絶対に怒らせてはいけないと。
あと、アリアさんからも無事に参加の承諾を得ました。
そして後輩はアリアさんに絶対服従を誓い、それを聞いたアリアさんから相談を受けたが上手く答えることができなかった。
今更だが、こんなパーティーで大丈夫なのか?
実は参加する三人はこの間の人気投票のNPC上位三人であるティニア・アリア・ミシェルにしようと思ったのですが、第三位のミシェルを警備隊から引き抜く算段が思いつかず、結局いつもの三人となってしまいました。ちくしょう!
そしてアリアさんのキャラがいつの間にか“フライパン標準装備”になっている。こんな予定無かったのにどうしてこうなった?
アリア「だったら最初の頃の『清楚な私』に戻して!」
作者「だが断る!」
では三日後にお会いしましょう。