第三十八話:二度目の依頼
久しぶりの翌日投稿。まあ、今回だけなのですが(ごめんなさい!)
「急な話で申し訳ないのですが、アルケさんにはまた依頼を受けてほしいのです」
ララさんが俺の近くに歩いてきて数枚の資料の束を置いた。
「近頃樹海の奥にも外からの客人が入ってきてこのスプライトと***をつなぐ村、グリーブ村に到達するところまで来ていると報告が入っています」
へえ~、次の街はグリーブ村っていうのか。その前に聞こえたもう一つの街らしき名前はよく聞こえなかった。おそらくまだアップデートされていないエリアなのだろう。
「そのせいで本来いるはずのないモノがグリーブ村の前に住みついているのです」
「本来いるはずのないモノ?」
「そこから先は私が引き継ぎます。今回、アルケさんに依頼をお願いしたのは私ですから」
またあなたですか、エイミさん……
とりあえず先に全隊長及び副隊長達とアドレスを交換すると一番隊、三番隊、そして五番隊の面々は退席した。それぞれ式典の準備、警備状況確認、部隊の訓練のためだ。
残ったのは守りに重点を置く二番隊、支援担当の四番隊、そして魔法特化の六番隊。この組み合わせなら遠距離による攻撃編隊だな。
「では、依頼内容についてお話しさせてもらいます。今回アルケさんにお願いしたいのはあるモンスターの討伐協力依頼です」
俺は○秘と書かれている資料をめくる。……○秘に関してはツッコまないようにした。
二枚目にはモンスターの絵が描かれていた。見た目は巨大な芋虫だ。
「そこにも描かれているように、相手は“グランドキャタピラー”です。このモンスターは芋虫のわりに皮膚が硬いです。そのため、武器攻撃によるダメージはあまり期待できません。その代わり動きは鈍重でこちらも攻撃を受けることはほぼ無いでしょう」
なるほど。そういうことなら盾主体の五番隊よりも攻撃可能な二番隊が参加した方が効率いいのか。
「唯一の弱点とも言えるのが、このモンスターは氷属性の魔法を当てることで少しの間硬直状態となることです。さらにこの状態の時は皮膚の隙間が見えるのでそこなら攻撃が通用します」
「つまり、俺に依頼したいことは〝スノープリズム″ということか?」
「その通りです。私たち六番隊が氷属性魔法で攻撃してもいいのですが、残念ながら氷属性魔法を使える者が少々不足しているのです」
まあ、会得するスキルはその人の自由だからそればかりは仕方ないな。
「ちなみに数は二番隊全員分です。余剰があると助かります」
「なお、私の部隊は総勢120名です」
となると最低120個。いや、余剰もあった方がいいと考えると最低150個は用意した方がいいな。
スノープリズム自体は調合するのは難しくないから、なんとかなる量ではあるな。
「今回、依頼を引き受けていただけるのなら報酬として3万セルを差し上げます」
3万か。材料は採取で済むため、こっちの負担は0セルなのにそんなにもらっていいのだろうか?
「質問が二つ。以前からフェアリーガードに納品しているスノープリズムの威力で十分なのか?」
「それは問題ないと思います。試しにロックアントに試したところ、十分な威力であることは確認してありますので」
樹海においてロックアントは様々な検証の実験体扱いされている。俺も結構お世話になってるし。……いつか呪われないだろうな?
「ではもう一つ、グランドキャタピラーをフェアリーガードが倒したとする。その場合プレイヤー、じゃなかった外からの客人が再びグランドキャタピラーを討伐することは可能か?」
フェアリーガード、さらには妖精族にとってグリーブ村がどういう存在なのかは知らないが、今回の件でグランドキャタピラーが討伐され、もう2度と出現しないとするとボス討伐で得られる経験値やらレアアイテムやらが入手できなくなる。そうなればプレイヤーによる暴動が起きる可能性もある。
「それなのですが、プレイヤーに解放されている場所とは別ルートなので問題ないと思いますよ?」
「別ルート?」
「グリーブ村には二つの顔があります。残念ながらこれ以上はアルケさんでも教えられません」
「ついでに言うと、そのルートを通れるのは限られた存在なのでアルケさんがそこを通るのは不可能です」
話をまとめると、プレイヤーに対して妖精族第二の街であるグリーブ村が解放されたことでおそらくNPCにしか通れない道にも同じようなボスが現れた。
そしてそのボスはプレイヤー側に用意されたボスとは別個体なので倒してところでプレイヤーには何も恩恵が無い。
つまり、俺がここで協力したところでプレイヤーには一切影響が無い。
「喜んで引き受けます」
だったら俺がフェアリーガードに協力したところで何かが変化するわけではないので全く問題ない。
……とこのころの俺はそう思っていた。
フェアリーガード本部からアトリエへと戻る。今日からエイミさんが再びアトリエに来るので少し掃除をしておく。
しばらくしてエイミさんが魔法陣部屋から出てきた。
「なんか懐かしいですね」
「懐かしいってそんなに日は経っていないでしょ?」
「それだけここでの時間が濃厚だったということですよ」
妙に照れくさくなり、俺はスノープリズムの調合を始める。エイミさんはその様子を近くで見てたまに何かを書き込んでいる。
しばらくスノープリズムを作り続け、その数が20を超えたところで少し休憩することにした。
エイミさんは書きこんだメモを見ながらそれらを別の紙にまとめている。少しのぞきこんでみると数式みたいなモノや錬金窯に書かれていた魔法陣に様々な書き込みをしていた。
「気になります?」
座ったまま振り返ったエイミさんの問いに俺は頭を縦に振る。
「簡単に説明しますと、やはりそれぞれの調合の過程において別々の魔法陣が使われています。それらと大本と思われる錬金窯の魔法陣との関連性を調べているんです」
「やっぱり異なる部分があるんですか?」
「まだ調査が足りませんが、異なる点よりも共通点の方が多いですね。素材としたアイテムの特性を引き出す、もしくは継承する点においてはほぼ同じような構造みたいです」
フレイムボムなら〝火薬草″、スノープリズムなら〝水″みたいに元なった素材の特性が、そのまま調合したアイテムの特性になっているということか。
「なら、周囲に影響を与えない素材があればなんとかなるかもしれないのかな?」
現在絶賛挑戦中の〝ポイズンボトル″の調合に必要な〝ガラス砂″。
先ほどの理論で行けば、ガラス砂は“容器を着くために必要な素材”という特性がある。
毒は単体では扱うことができない。
液体だとそのままでは持ち運びできないし、固体だと触った場所から毒が感染する可能性がある。気体になったらもう手が出せない。
つまり、ガラス砂が必要な理由は“毒を有効に活用するために必要な容器”を作るために必要なのだ。
(なんでこんな簡単なことに今まで気づかなかったんだ……)
しかし、突破口は開けた。後は例の宝石店でガラス砂を分けてもらう、もしくは採取できる場所を教えてもらう必要がある。
そろそろ在庫が少なくなってきた魔力石の採取ついでに話を訊いてこようと、一旦調合の片づけようとしてエイミさんに声をかけられた。
「周囲に影響を与えない素材ならアルバ―ロに近くに生えてますよ?」
「さっそく行きましょう!」
「え? 今からですか?」
「実は新作アイスの試作品が……」
「30秒時間をください」
アイス万歳。
そして相当苦労したアルバ―ロまでの道のりを突破し、再びアルバ―ロに到達した。
最大の難関とも言える吊り橋も一気に駆け抜けた今の俺に敵なんていない!
「タベルノ? タベラレチャウノ?」
戦闘開始⇒敵モンスターの攻撃『震え声+上目づかい×涙目』=アルケKO!(敗因は吐血)
「ずいまぜん、なんでずがあれ?」
未だに口に血が残っているようでまともに話せない。そんな俺をエイミさんが同朋を見るような眼で見ていた。
「あれがお望みの素材が生えてるモンスター“パニヤード”です。最も素材となるのは頭に生えてるきのこなんですけど」
改めてパニヤードと呼ばれるモンスターを見つめる。
小人型のモンスターで全長は50㎝~70㎝くらい。その容姿はまさに黄緑色のワンピースを着た幼女であり、形が麦わら帽子に似ている茶色の帽子には小さなきのこが生えている。
実はここに来るまでハイ状態となったせいでエイミさんからその素材がモンスタードロップであることを確認せず、たまたま話を訊いた時に近くにあったきのこを抜こうして悲鳴を上げられ(実はパニヤードは寝ていただけ)、そして先ほどの攻撃をくらった。
「ちなみに、私は採取を諦めた派です」
「諦めない派もいるのですか?」
「所詮はモンスターだと割り切る方たちですね。たまに私のような派閥の人間にフルボッコにされますが」
その気持ち分かります。多分俺も遠慮なくグレンダイムを使うと思いますので。
「それで、どうします?」
「どうしますって言われても……」
未だに涙目で怯えるパニヤードを見て一気にテンションが下がる。さすがにこのモンスターに攻撃するなんて俺にはできない!
「他の素材を探します」
「それが賢明ですね」
俺たちは踵を返そうとして、未だに震えているパニヤードに近づく。パニヤードは怯えて足がすくんでいるのか俺が近付いても逃げようとしない。
そんなパニヤードの近くで腰を落とし、そっとその帽子をなでる。
「怖がらせてごめんね」
そして自分に出来る精一杯の笑顔を見せてその場を離れた。
次話の投稿はいつも通り三日後の11月23日(日)になります。
このペースだと今年中の毎日投稿は無理そうです。




