第二十三話(番外編):合流
気が付けばこの話でなんと100話達成!
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飛来してくる〔アクアバレット〕、いや数の多さから〔アクアブリッツ〕と呼ぶことにしたそれを何とかかわしていく。ある程度の強さがある人ならできるかもしれないが、今の私では無理だ。それを可能にしているのが先ほどから私が用意していた魔法の正体だ。
【風属性上級】〔ウィンドアーマー〕。その効果は一時的に風の鎧を全身に纏うというモノ。これにより近接武器を弾き飛ばすのが一般的な使い方だが、私はそれを自身のスピードを上げるのに役立てている。
実はこの方法はあるマンガで“体に雷を纏うことで動きを早くする”シーンがあり、それを風魔法でも出来ないかと試行錯誤して何とか成功までこじつけた私なりのオリジナルアレンジだ。
これも飛翔することができ、風をその身で感じることができた鳥人族を選択したからこそ完成した魔法。単純に“飛べるのって楽しそう”だけで選んだ種族がここで活かされていることに私は自分の運の良さを実感する。
その分軽量化しているので本来の防御力が削られているけど。しかし、工夫次第とはいえここまでできるなんてCWO創った人はどんな人なんだろうと考えてしまう。
「すご~い!」
全てのアクアバレッツをかわした私をミオさんは拍手しながらはしゃいでいる。いや、ここは普通追撃する場面じゃないのですか? やっぱりこの人の空気は独特だ。
「それじゃ、これはどうかな~?」
のんびりした口調に合わせるように左右に振られた杖。そして空中に待機するアクアバレッツ……とアイスバレット? しかも先端が尖ってませんか?
「〔アクアバレット〕と〔アイスニードル〕の組み合わせ♪」
「♪、じゃないでしょ!? なにそれ!?」
おかしい! どう考えてもこれはおかしい!
「まさか、幻のダブルマジック!?」
ダブルマジック。文字通り二つの異なる属性の魔法を同時に放つCWOの魔法使いの中では絶対に手に入れたいスキルの一つ。名前の公開こそされているが、その会得情報は全くの謎のはずだったのに!
「残念だけど、ダブルマジックじゃないよ~」
「なら、それはなんですか?」
「ん~」と首をかしげるミオさん。だからいちいち緊張感を失くす動作は止めてほしい。
「えっと、簡単に言うと、これは元々全部【水属性】魔法なの~」
「水、属性?」
言われた言葉が信じられない。確かにアクアバレットは水属性だが、アイスニードルは氷属性……
「もしかして、〔アクアバレット〕を凍らせたのですか?」
「すご~い! なんでわかったの~?」
驚いているのだろうが、全くそんな感じがしないがこれでカラクリは読めた。
つまり、あのアイスニードルランスはアクアランスを唱え、例の杖で凍らせたモノなのだろう。
よくよく見れば、本物のアイスニードルよりも太い。
〔アイスニードル〕は一度に展開できる量が多いが、一本一本が小さいのだ。
しかし、話を聞くと単純だが、同じ属性とはいえ複数の魔法を同時に唱えるだけでも難しいのに、さらに同時並行してアイテムまで使っている。やっぱりこの人、只者じゃない!
「よくそんなこと思いつきましたね」
「まあ、水も氷も元は同じだからね~。この程度の発想なら簡単だよ~」
「いや、簡単って」
「だって、実験する必要が無い、証明されてる理論だもん」
「……あの~証明されてる理論って?」
「あ、私リアルでは研究者なんだ~。最近行き詰ってるからこっちで脳のリフレッシュをしてるの~」
……え?
「つまり、この程度の処理ならお茶の子さいさいなのよ~」
なにそのチート! いや個人の努力末の力だからチートじゃないかな?
なにはともあれ、ピンチなのは事実。ウィンドアーマーもいつまでも維持できるわけじゃない。
ここは、一気に攻めるしかない!
私は覚悟を決めて弓を構える。しかしミオさんは攻撃してこない。
「なんで攻撃しないのですか?」
「だって~私の役割は足止めだから~」
「足止め!?」
その言葉に動揺する私。チラッと自分の視界の左上、その下に表示されているパーティーメンバーの名前を見るとカリンさん以外のメンバーの名前が消えていた。
つまり、倒されたということだ。
「もしかして、私がいる場所が分かっていたのですか?」
「ううん~。エルジュちゃんと出会ったのは偶然だよ~。でも~、この展開はマスターのアポリアさんの指示通りだよ~」
「アポリアさんの、指示?」
「うん~。カリンさん以外のメンバーは~、ヴァルキリーと抗争しているメンバーに戦わせよ~て。そうすることで、ギルド内のピリピリした空気を一掃しよ~て」
「要は、小さな抗争を繰り返すよりもいっそのこと戦争をしちゃおうってことですか?」
「戦争は言いすぎだよ~。これはゲームのイベントなんだから~」
なんてことだ。こっちはうまく手のひらで踊らされたわけか。というかアポリアさん結構黒かったんですね!
「でも、それだと負けた時意味無いのでは?」
「『それならそれでレベルアップさせて再戦に備えさせればいい』とアポリアさんは言ってたよ~。結果的にギルド全体の力量が上がることだし~」
なるほど、勝ったら雰囲気が良くなり、負けてもギルドの強化につながると。
「でも、そう簡単に雰囲気が良くなるのですか?」
「そこは、アポリアさんに任せてるから~、私は知らな~い」
この人は、どこまでものんびりなんだな。ホントに研究者なの?
「そう、そういうことだったの」
その時後ろから聞こえてきた声。とっさに【策敵】を発動させる。声の段階ですでに分かっていたが、確認しておきたかったのだ。
「カリンさん!」
「大丈夫? エルジュさん」
こっちに駆けつけ、回復してくれるカリンさん。その姿はボロボロとまではいかないけど、すでに戦闘を重ねていることが分かるほどだった。
「向こうもすでに残り三人よ。これから巻き返すわよ」
「はい!」
残されたヴァルキリーがそろい、ミオさんに視線を戻す。
しかし、そこには既に誰もいなかった。
「なんで!?」
「撤退する時は迷いなしか。思ったより厄介ね」
動揺する私に対し冷静に判断するカリンさん。やっぱりこの人はすごい。
「となると考えられるのは囲みによるリンチ……いやアポロンさんの得意武器は弓だし、残ってるメンバーは弓・魔法・それに盾だから待ち伏せによる射殺かな?」
アレ? ナニヤラフオンナコトバガキコエルヨ?
「まあ、こっちにも弓使いのエルジュがいるから問題ないよね」
「私、ミオさんにも負けたんですけど?」
「やられたら殺り返すのが基本じゃなくて?」
なぜだろう、頷きたいのに頷けないのは。ちょっと発音が違うように感じたせいかな?
私が回復した後でカリンさんと一緒に洞窟を進む。
すでに試合開始から三十分が経過しており、洞窟の横穴もだいぶ増えてきた。
「こうなると隠れる場所は幾らでもありそうね。向こうに有利な展開になってきたわ」
隠れる場所が多ければ遠距離攻撃系の脅威が上がる。しかもこっちには盾が無い。
「さて、ここからどうしましょうか?」
「他の二人はわかりませんが、ミオさんは先ほどの戦闘でMPを消費しているので今頃回復しているはずです。となればその隙にミオさんだけでも倒しておきたいのですけど」
「場所が分からないと何もできないわね」
さらにもし近くに他のメンバーが潜んでいた場合、すでに迎撃準備ができてる可能性もある。いや、それならすでに攻撃されているからそれは無い。
「【策敵】しますか?」
「ううん。今MPを消費するわけにはいかないわ。特にアポリアがいるなら絶対に防御魔法は必要でしょうし」
アポリアさんをよく知るカリンさんが言うのなら間違いないだろう、と私が思った瞬間だった。
「さすがはカリンさん。私のことを理解してくれてうれしいです」
突如聞こえてきた声。私たちの少し右側の前の横穴から人が現れた。
白を基調とした服装。ところどころに施された金色の装飾。翡翠色に彩られた弓と矢筒。そして、それら以上に目に留まる二対の純白の翼。
ギルド『セラフィム』のギルドマスター、アポリア。
おそらくこの試合最大の強敵が戦場に降臨した。
目指せ!200話!(ネタが無いー!ネタよ、我が脳内に降臨せよー!)




