第九話:AIの行動理由
しばらくしてラインが現れた。
「待ったか?」
「いや。 そうでもないさ」
無事合流した俺たちは噴水広場近くのベンチに座った。
ついでにスプライト名物の〝薬草のジュース″をおごってやった。
もちろん吹いた。
「で、本題だが……」
「その前に、一発殴っていいか?」
少し涙目になっているラインを無視して先ほどまでの出来事を話す。
諦めたのかラインはピンク色の飲み物を口に含み、俺が話し終えるのを待っていた。
「AIについては俺もβ版と異なることがあったから少し調べておいた」
さすがは廃人と感心したが、ライン曰くすでにその関連で掲示板が立ちあがっているらしい。
「例えばお前のそのペンダント。 β版では妖精族を選んだ全てのプレイヤーがこの街で手に入れている」
そうなのか。ということはランクが高いけどそこまで珍しいアイテムでもないのか。
「しかし、当時紋章が刻まれているペンダントの情報は無かった」
ん? どういうことだ?
「これは仮説だが、β版から正式版まで間があった。 その間にデータが更新されたのは間違いないだろう。その最も大きな変化が……」
「AI、ということか?」
正解と言ってラインは再び手元の飲み物を口に運ぶ。
「確認のためにここに来る途中妖精族の知り合いに訊いてみたが、βで手に入れた〝フェアリーサティファ″のランクはRで、防御力向上の効果なんて無かったそうだ」
「つまり、俺のこれはある意味特別なものだと?」
「そうとも言い切れない。 正式版になってから手に入れた元βプレイヤーの中にはお前のように紋章付きのペンダントを手に入れたプレイヤーもいる。 数は妖精族プレイヤー全体の3割程度らしい」
俺は首元の〝フェアリーサティファ″をつまむ。そこには確かにフェアリーガードの紋章が刻まれている。
一応ラインにも見てもらい、ラインにもその紋章は見えていた。
「あと魔武具の店だが、これは実際に見て確認したいから案内してくれないか?」
「ああ、構わない」
というわけで再びあの店に向かった。そういや名前知らないや。
「看板読めねぇ」
「妖精族の文字だな」
基本的なことは最初に設定した言語(たとえば日本語など)に変換されるが一部には【語学】や【解読】のようなスキルが必要な文字もあるらしい。そしてそういうところは大抵何か意味がある場所なのだとラインが言った。
「つまり、この店はスプライトの中でも特殊な店?」
「そういうことだ。 やっぱりそれは特殊なやつらしいな」
二人して店に入ろうとするが開かなかった。
よく見れば扉には『臨時休業』の木札が掛けられていた。
「……これはよくあることなのか?」
「まさか。 やっぱり間違いないみたいだな」
一人納得するラインに状況の説明を求める。
「つまり、この店に入るには突破しなくてはいけない条件がある。 実際にいくつかはわからないが、 “紋章付きのペンダントの入手”。 そして“フェアリーガードに所属するNPCから場所を聞く”。 この二つはおそらく必要なことだと思う」
「紋章付きの獲得条件は?」
「これも推測だが“一定以上の敬意みたいなものを示す”ことじゃないか? まあそういう設定という可能性も考えられるが」
これについて仲が良い情報屋に依頼してみるよと言ってラインは噴水広場から転移した。これからまた狩りをするらしい。
「どっちの話を信じればいいのかね?」
NPCが言うようにプレイヤーの悪行はあったのか? それともラインの指摘のようにそういう設定なのか。
「まあ、俺には関係ないか」
俺は錬金術を楽しみたいだけだ。
そう思って俺は噴水広場を後にした。