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双子星  作者: 泣村健汰
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☆8月31日★ その2

 登校中、赤とピンクの傘を差している由香里と里美の双子を見つけた。雅人が二人に追いつこうと走り出したので、僕もその後に続く。

「うっす!」

 雅人の挨拶に振り向いた二人は、当たり前だけどそっくりだった。ただ、由香里は髪を頬の両側で二つに縛っているのに対し、里美は上で纏めてポニーテールにしている。傘の色も違う。赤が里美で、由香里はピンクだ。因みに僕達二人は、同じ青色の傘を差している。

 橘由香里と里美、それと僕達は、母親同士の仲がいいこともあって、まだ赤ん坊の頃からよく一緒に遊んだ。勿論、赤ん坊の頃なんて全く覚えていないんだけど……。

「おはよう」

 雅人につられるように、僕も二人に声を掛けた。

「おはよう叶人君」

 由香里がこちらに寄ってくる。

 里美はと言うと、雅人と一緒にちょっと先を歩きながら、何やらお互いに朝から熱弁をふるっていた。会話の内容は大体想像出来る。多分、昨日のジャグレンの話だ。

 双子は例に漏れずクラスを分けられるのだが、里美と雅人も、僕と由香里と同じようにクラスが一緒だ。

 僕達が3年7組、そして雅人達が3年2組。

 一つのクラスは30人。10組まであり、前半クラスと後半クラスに双子達は分けられる。

 10クラスと多いが、4年生になる時には、クラスの数が半分になっている……。

「おはよう由香里」

 改めて挨拶をすると、柔らかく笑いながらおはようと返してくれる。

「なんか、朝から雨で、嫌になっちゃうね」

 そう呟く由香里の声は、言葉ほど沈んでは居ない。言うほど嫌いでは無いのだろうが、僕はそうだねと同意することにした。

「叶人君も、昨日見てたの?」

「ジャグレン?」

「うん」

「見てたよ、雅人と一緒に」

「私も、里美が興奮して凄かったの」

 その興奮の様子は、雅人と歩く里美を見ていると手に取るように分かった。今も頬を上気させながら、雅人に対して熱弁をふるっている。2組ではクラス全体でブームが起こっているんだと言う雅人の言葉を思い出す。

 赤ん坊の頃から一緒だった僕達は、小学校に上がり、僕と由香里、雅人と里美が同じクラスになった。

 勿論、里美と話をする機会が全く無くなった訳では無い。だけど、こうして四人で居る時、僕は由香里とペアを組むことが多くなった。

 たまに、もし僕が里美と同じクラスになっていたらと考える事がある。里美は、どちらかと言えば活発な子だ。もしかしたら、僕とはウマが合わなかったかもしれない。

 そんな事を思う時、僕は同じクラスになったのが由香里で良かったと心から感じていた。

 雅人にその事を言うと、あいつの中身は男だから、なんて笑い飛ばしていた。里美の耳に入ったら、きっと怒るに違いない。

「ねぇ、叶人君」

 由香里が呟いた。

「何?」

「ちょっと、聞いてもいい?」

「うん」

「叶人君達は、来週の事、何か話し合ってる?」

 由香里の言葉に、一瞬、雨足が強くなったような錯覚を覚えた。

 来週の事とは、当然、儀式の日の事だろう。

「ううん」

 僕は言葉を探しながら、続けた。

「前に雅人に聞いたら、大丈夫だって笑うだけだった。それからは、何だか、怖くて……」

 本当は、もっともっと沢山、この事について雅人と話さなければいけないんだろう。だけど、僕は来週に儀式の日が迫った今日まで、現実から目を逸らしたままだった。

「分かる、私もそう。何だか、怖くて……」

 由香里が弱々しく同意をしてくれる。

 僕達は、今年7歳になった。

 それはつまり、次の儀式の日には、僕は、雅人と、お別れをしなくちゃいけないと言う事なのだ……。

 だけど、それはとてもとても辛く、とてもとても悲しい事……。

「里美はね、何だか、あんまり考えないようにしてるのかな? いつもと変わらない感じ。それとも、私が気に病み過ぎなのかな? すっごく不安で、夜も眠れない事もある位なのに……」

 由香里の不安や恐怖が、手に取るように分かる。それは、僕も同じ境遇に立っているから。

「でも、いい事もあったよ」

 ネガティブな気持ちを払うように、僕は出来るだけ明るい声を出した。

「どんな事?」

「母さんが、最近とっても優しいんだ。それに、父さんも早く帰ってくるし、みんなで一緒にご飯を食べられるんだよ」

 僕の言葉を聞いて、由香里はクスッと笑った。

「うちもそう。お父さんがいっつも早く帰ってくるもんだから、里美なんか、お父さん会社クビになったのなんて言ったのよ」

「あ、それは僕も思ったよ。いっつも早く帰ってきたら、クビになるんじゃないのって聞いたんだ。そしたら雅人が、父さんは要領がいいから大丈夫だよって笑ってさ」

 そうして二人で、少しの間クスクスと笑い合った。

 その時、由香里がふと、僕の方に手を差し出して来た。

 躊躇わずその手を握る。

 その手は、温かくて、柔らかくて、微かに震えていた。

「不思議……」

 由香里が呟く。

「何が?」

「ううん、何でも無い」

 そう言って、由香里は笑った。

 その微笑みは何だか儚げで、このまま由香里が雨と共に消えてしまうんじゃないかなんて、そんなありえない事をふと思ってしまい、不安を拭うように、彼女の手を強く握り返した。

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