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双子星  作者: 泣村健汰
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☆プロローグ★


 ☆プロローグ★


 きっかけは、宇宙から訪れた。

 ある時二つの隕石が、北極と南極に同時に降ってきた事から、全ては始まった。

 星の磁場は歪み、海面の水位は上がり、海抜の低かった地域は粗方海の中へと沈んでしまった。それでも、迅速な対応の賜物なのか、それとも神の御心によるものなのか、予想されていたよりもずっと死傷者は少なかったと言う。

 星の表面に漂っていた大陸はおよそ現在の形になり、沈んだ地域の人々は新たな土地での生活を開始した。

 だが、この事件はここでは終わらなかった。

 爪痕を残しつつ、それでも人々の熱意と努力によって、無事に諸国が復興をし始めた頃、その事件は、世界各国の産婦人科でほぼ同時に発覚した。

 ある時期を境にして、病院に訪れた妊婦の胎内に宿された命が、全て双子となっていたのだ。

 このニュースは瞬く間に世界中を駆け巡り、事件の発覚から数年後、ある科学者がその原因として、例の隕石による影響である事を科学的に解明するに至った。

 けれどそれは、この星に住み続けるならば必ず背負わなければならない枷を、可視化しただけであり、根本的な解決策は、現在でも杳として掴めないままである。

 双子星事件。

 とある新聞社が一面に乗せた事で広まったその名は、今や歴史の教科書にまで名を連ねている。自分の生み出した言葉が教科書に載る程までに広まるとは、当の記者も想像だにしていなかったことだろう。

 学者達の空論研究をよそに、現実は針を進めて行く。

 事件の以降に生まれた双子達の知能指数は、従来の平均値を大幅に引き上げた。それにより、中には生後3カ月で両親の言葉を理解する赤ん坊まで現れたという。その事実に対し、あの隕石は神の使いだと言い出す者まで出てきた。

 しかし、双子星事件に伴い、起こった問題も多々あった。

 その中でも一番の問題は、当然ながら急激な人口増加による食糧問題である。

 それ以降の出生率が全て2倍になったのだから、遅かれ早かれ挑まなければいけない問題だった。

 そして、事件から50年が過ぎた頃、爆発的に増加した人口は、計算上本来星が支える事が可能であろう数の180%を超えた。

 その数字が大々的に世界に発表された直後、当時行われた各国の首脳会議で、ある決議案が提示される。

『人口の増加は食い止めなければならない。双子が生まれてくると言うのなら、その一方を途中で間引くしか無い』

 この暴論に対し、無論世界各国から激しい反発の声が上がった。

 だが、愚かな首脳陣はそれらの意見には断固とした意思で耳を貸さず、半ば強引にこの決議案は可決された。

 当時、世界で最も強大な力を持っていた国の首相の子供が、父親の意見に沿う為、自ら率先して命を落とした事実も、瞬く間に世界を駆け巡った。

 彼は、まだ7歳だった。

『このままでは、人類が滅んでしまう。私は、一人の人間であり、一人の親であり、それに加え、この国の首相でもある。人類の未来を手放す訳にはいかなかった。優秀な私の息子は、犠牲になったのではない。未来への礎となったのだ』

 一人残った双子の片割れを抱きながら、彼はカメラの前で毅然に語ったが、途中から涙を堪え切れず、全世界に向けて涙ながらに熱弁した。

 そして、そんな暴論が憲法として世界中の国で制定されてから、凡そ200年以上の時が流れ、世界の人口は悲劇と涙の上に安定を見せた。

 摩耗された時の中に横たわっていたのは、未来への願いと、哀しき諦観だけだった。

 これは、双子星事件から300年の時が流れた時代を生きた、ある双子達の物語。


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